「細密画家 プチファーブル 熊田千佳慕展」 松屋銀座

松屋銀座本店8階大催事場(中央区銀座3-6-1
「細密画家 プチファーブル 熊田千佳慕展」
8/12-24



本展会期中にまさか作家ご自身が逝去されるとは言葉もありません。日本のプチファーブルとも呼ばれ、生き物や植物を細密に描いた熊田千佳慕の画業を振り返ります。松屋銀座で開催中の「細密画家 プチファーブル 熊田千佳慕展」へ行ってきました。

まずは訃報です。繰り返しになりますが、熊田千佳慕氏は本展期間中(13日)、98歳で亡くなられました。

画家の熊田千佳慕さん死去 ファーブル昆虫記の虫たち(朝日新聞)

なお熊田氏は展覧会前、会場のプランニングを指示するなど、この展示の開催に関して強い意欲を見せておられたそうです。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。



それでは展示の構成です。それぞれのモチーフをテーマ別に分類していました。

「絵本館」:みつばちマーヤ、不思議の国のアリス、ピノキオなどの挿絵原画。
「植物園」:植物への細やかな眼差し。子ども向け雑誌や書籍の表紙に用いられた作品など。
「昆虫館」:ファーブル昆虫記、及び日本の虫たちシリーズ。
「動物園」:自宅で犬や猫などを飼って動物を愛した。猫を描いた作品など。(初公開含む。)
「ファンタジー館」:妖精と植物と昆虫の世界。



細密でかつ、夢見心地のメルヘン世界へと誘うような植物や昆虫の細密画は、どれも甲乙付け難い魅力が感じられますが、やはりまず感心させられるのはその類い稀なデッサン力です。蝶や蝉の羽には細やかな毛までが描かれ、また木の葉には薄く透けて見える葉脈までが再現されています。熊田は一枚を完成させるのに妥協を許さず、相当に時間をかけて制作をしていたそうですが、全く緩みのない画面を見ればそれも明らかだと言えるのではないでしょうか。まるで虫眼鏡を覗いているかのようでした。



もちろんもう一つのポイント、作品から滲み出るファンタスティックな世界観も楽しまないわけにはいきません。先に触れた虫眼鏡云々ではありませんが、小さな虫と同じ位置に視点を定めることで、見ている側があたかも小人となって彼らの国を探検しているかのような雰囲気を作り上げています。「花のファンタジー」より「水色の世界」には熊田の魅力の全てがつまっていました。心に優しくしみ入るように美しい水色の紫陽花はもとより、蝶や蜂の飛ぶ虫と妖精が、不思議にも全く違和感なく共存して楽園を築いています。うっとりと見入ってしまうばかりでした。



なお会場には水彩の他、素描、または愛用の絵具なども紹介されています。松屋の催事場ということでスペースこそ手狭ですが、全200点にも及ぶ作品をじっくりと追っかけるのは相当の時間がかかりました。

突然の訃報は何ともショッキングでしたが、2006年に目黒区美で回顧展を見て以来、久々に熊田の世界に酔いしれることが出来ました。ちなみに百貨店らしくグッズが充実しています。絵葉書、そしてもちろん書籍をはじめ、マグカップ、Tシャツなど、見ているだけでも愉しめました。

「みつばちマーヤの冒険/ワルデマル ボンゼルス・熊田 千佳慕/小学館」

24日の月曜日までの開催です。おすすめします。(連日20時まで。最終日は17時閉場。)

*本展巡回先一覧(予定)
京都高島屋(9/9~21)、伊丹市立美術館(2010/4/10~5/23)、福岡県立美術館(2010/5/27~7/11)、ジェイアール名古屋タカシマヤ(2010/7/21~8/2)、横浜高島屋(2010/8/4~16)
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (すぴか)
2009-08-21 23:53:56
こんばんは。
素晴しい熊田千佳慕の世界、お亡くなりになられたのを知らずに行って〈14日)、お写真に白いお花が飾ってあるのを見て、どきんとしました。まだまだお描きになられるとばかり思っていましたので。
お冥福をお祈りします。

何時間でも腹ばいになって虫たちの目線で観察しそれを絵にしていく―、はじめのころは見ながらスケッチしてると思ってました、あの「水色の世界」あふれるような感性、うつくしい水色、めくるめくようなファンタジーの世界、ほんとに「千佳慕さんの魅力のすべてがつまっている」同じ想いです。
 
 
 
Unknown (oki)
2009-08-22 00:21:58
こんばんは。
はろるどさん、図録買われましたね、僕も買ったので着いてくるものがわかるのです、笑。
ところでチケットありがとうございました、明日にでもさっそく行きます!
さて、熊田さん、これが追悼展になるとは本当に意外でした。
一枚描くのに数年かけるからあまり作品の数も多くないわけで、ビデオで目標とされていた昆虫記100点達成させてあげたかったですね。
 
 
 
Unknown (シミ消しコスメちゃん)
2009-08-22 15:43:47
こんにちは!ブログで紹介されている絵画だけを見ても癒されます^^。展覧会に行けば、もっと雰囲気があるのでしょうね…。機会を見つけて行ってみたいと思います♪
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-08-23 01:20:22
@すぴかさん

こんばんは。早速のコメントをありがとうございます。

熊田さんの訃報には本当に驚きました。
会場の入口のお写真も物悲しい限りですね。
率直なところまさかと言ったところです。改めてご冥福をお祈りしたいと思います。

>あの「水色の世界」あふれるような感性、うつくしい水色、めくるめくようなファンタジーの世界、

この一点だけでも心が洗われますよね。
熊田さんの優しい自然への眼差し、絵からもたくさん受け止めることが出来ました。

久々に展覧会を見終えて優しい気持ちになりました。
一人でも多くの方に観て欲しいと心底思います。


@okiさん

こんばんは。

追悼展とは残念な限りですね。
展示にも意欲を見せておられたと聞くだけに、
余計に悲しく感じました。

>一枚描くのに数年かけるからあまり作品の数も多くないわけ

どれも甲乙付け難い出来でしたね。
絵はとても美しくて優しいのですが、ご本人はきっと自分に妥協を許さない厳しい方だったのだろうと思いました。


@シミ消しコスメちゃんさん

こんばんは。

熊田さんの展示も素敵ですので是非ご覧になってみて下さいね。

コメントありがとうございました。
 
 
 
Unknown (ふぴこママ)
2009-08-25 21:51:59
初めまして。

見に行ってよかった!と思える展覧会でした。
実物をみるのは初めてだったのですが、
間近でみてその細密な絵に驚きました。
1点の作品に数年かかるというのも
納得です。
そしてその美しさ、素晴らしかったですね。
始まってすぐの訃報、残念です。
ご冥福をお祈り致します。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-08-25 23:04:35
ふぴこママさんはじめまして。
コメントとTBをありがとうございます。

>見に行ってよかった!と思える展覧会でした。

同感です!
あの色の美しさしかり、細密な虫たちの光景を眺めるだけでもうっとりしてしまいますよね。
線の細さはまさに職人芸でした。

>訃報

本当に残念でなりません。
今回の反響を是非ご本人に伝えてあげたかったです。
 
 
 
熊田千佳慕展について (historia)
2019-10-02 19:24:11
熊田千佳慕の細密画が大好きです。熊田千佳慕展をまた開催されるご予定はあるのでしょうか?私は「団塊世代の我楽多(がらくた)帳」(https:skawa68.com)というブログの
2019/10/3付けで「昆虫細密画家の熊田千佳慕」の記事投稿
しています。つたない記事ですが、もし、ご参考にしていただければ幸いです。

 
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