「日本の70年代 1968-1982」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「開館30周年記念展 日本の70年代 1968-1982」
9/15-11/11



埼玉県立近代美術館で開催中の「開館30周年記念展 日本の70年代 1968-1982」へ行ってきました。

タイトルにもあるように今年、開館30周年を迎えた埼玉県立近代美術館。

それを記念して、60年代末から70年代、つまりは開館の1982年から遡ること約15年間の文化、また時代性を探ろうとする展覧会が行われています。

その名も「日本の70年代 1968-1982」。ただし単に絵画だけを紹介するような美術展ではありません。

館内に所狭しと並ぶのは多種多様、70年代のデザイン、建築、演劇、漫画、音楽、そして美術など、いずれも時代を証言する資料や作品ばかり。各ジャンルを横断する展示となっていました。

はじまりは全共闘です。佐々木美智子は「日大全共闘」(1968年)において、当時吹き荒れた学生運動を写真、映像に残しました。


佐々木美智子「日大全共闘」1968年 作家蔵

また闘争といえば成田空港の開港も70年代。1962年に新空港の建設が決まると、多くの死者を出すほどの激しい反対運動が巻き起こりました。

そうした状況において赤瀬川原平がポスターに示したのが「櫻画報三里塚版」(1971)。時の首相佐藤栄作と千葉県知事友納武人の乗った飛行機を戯画的に描いた横には、「三里塚一便をハイジャックせよ。」との一文が。これは強烈なビジュアルでした。

さて70年代の最大のイベントとして有名なのが、言うまでもなく1970年の大阪万博。延べ6000万人を超える人々が入場したという、後にも先にも国内最大の博覧会に他なりません。

展示ではそのうち「せんい館」と呼ばれた繊維業界のパビリオンに注目。デザインはかの横尾忠則。赤いドーム型の建物からして一種、異様な雰囲気を漂わせていますが、内部もまた不思議。


「日本万国博覧会 せんい館」1970年

四谷シモンは「マグリットの男」において、日、英、ポルトガル語を話し、頭部からレーザーが出るという奇妙なマグリットを模した人物像を作りました。

ちなみに「マグリットの男」の音声を担当したのは湯浅譲二です。CDでその音声と、当時の「せんい館」で使われたBGMを聞くことも出来ました。

続いて70年代の雑誌文化へと進みましょう。まさにちょうど70年に創刊したのが「アンアン」。ファッションとともに観光地特集は大きな評判となり、雑誌を見ては旅に出る女性、アンノン族という言葉まで生み出しました。

そうしたアンノン族を意識したのが国鉄の「ディスカバリー・ジャパン」です。ようは各地へ鉄道を使って旅をしようというキャンペーンですが、そのポスターへ、当時としては斬新だった抽象的イメージと若い女性を取り込んでいます。


「ぴあ 創刊号」1972年8月 ぴあ株式会社

ちなみにアンアンをディレクションした堀内誠一は、「ポパイ」(1976)、「ブルータス」(1980)も手がけたそうです。また「ぴあ」の創刊も1972年。若者向けのポップカルチャー雑誌はこの時代に花開いたと言えるのかもしれません。

また展示は前後しますが、ポップと言えば谷川晃一の「アール・ポップ」も興味深いところ。


谷川晃一「タチカワ・ベースキャンプ」1976年

これは70年代後半、アメリカナイズされた日本的感覚を指した概念で、彼がそうした文脈に沿うもの、例えばレコードやTシャツなどを、池袋のPARCOで紹介するという展示も行いました。

ちなみにPARCO一号店が池袋に出来たのは1969年。そして1973年には渋谷にもオープン。さらに1975年に西武美術館も開館します。

当時はいわゆるセゾングループが若者向けの文化的戦略を果敢に行っていた時代でもありましたが、そうしたパルコ文化、セゾン文化も、日本の70年代後半の文化を位置づける一つの潮流として重要だと言えそうです。


関根伸夫「映像版 位相-大地」1968/2005年 制作:関根伸夫・埼玉県立近代美術館

さて次は美術へと。60年代から70年代と言えば「もの派」の時代。関根伸夫の「位相-大地」の映像版の他、李禹煥の「線より」(1980年)など、お馴染みの作品が並びます。


北辻良央「WORK -HH」1982年 個人蔵

また榎倉康二の写真、「予兆」も。彼はもの派の影響も受けていますが、今回のようにストレートフォトも手がけていたのだそうです。また写真では高松次郎の「写真の写真」(1973年)、山崎博の「鵠沼」なども目を引きました。

ラストはここ舞台、埼玉県立近代美術館建造へと至るストーリーです。言うまでもなく設計は黒川紀章。彼の描いた美術館のスケッチなどが紹介されています。


田中一光「埼玉県立近代美術館開館ポスター」1982年

また埼玉県立近代美術館のロゴタイプは田中一光が担当したとか。1982年の開館記念の「印象派からエコール・ド・パリへ」展のポスターも彼の手によるものです。

なお黒川紀章については「中銀カプセルタワー」(1972年)の資料が、また田中一光についても、例えば先ほど触れた西武美術館のオープン展のポスターなどが展示されていました。



最後に会場内に嬉しい仕掛けも。70年代の学生の部屋を模した再現コーナーが設置されているではありませんか。



ここは何とウォークイン方式、撮影も可能です。



実は私は70年代を殆ど知らないのですが、ちゃぶ台にギターにオセロを見ていると、どこか懐かしい感覚を受けました。



それに良く知られるように、北浦和公園には黒川紀章の「中銀カプセルタワー」の住宅カプセルも常時設置中。



また展示を踏まえると、美術館の建物自体も改めて新鮮に映るもの。ずばり私はこの美術館の建物が好きですが、改めて魅力的だと思いました。

出品リストはなく、キャプションも少なめです。時代を知らない私にとっては、展示を細かに追いかけるのが少しキツかったのも事実ですが、そこは図録が補完。小さめのサイズながらもなかなか秀逸。お値打ちの1300円でした。

11月11日まで開催されています。

「開館30周年記念展 日本の70年代 1968-1982」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:9月15日(土)~11月11日(日)
休館:月曜日。但し9月17日、10月8日は開館。
時間:10:00~17:30
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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