窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

交渉学特別セミナーに参加しました

2016年09月07日 | 交渉アナリスト関係


  9月6日、NPO法人日本交渉協会主催の「交渉学特別セミナー―米国・英国の交渉学の教授を招聘し、最新の交渉理論、交渉教育を学ぶ特別セミナー」に参加してきました。



  講師は、ハーバード大学PON(Program on Negotiation)のアラン・ランプルゥ先生とオックスフォード大学PONのミシェル・ペカー先生。

交渉のメソッド: リーダーのコア・スキル
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白桃書房


  講義は主に、ランプルゥ先生の著書『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』(英語題“The First Move”)の要点である、「交渉を前進させるための10原則」と「あらゆる交渉で重要な3つの側面」について、名古屋市立大学大学院経済研究科教授、同協会の専務理事でもある奥村哲史先生によるポイント解説も交えて行われました。

  人は生まれ落ちた時から、何らかの交渉を日々行っています。赤ん坊が母親に空腹を知らせるために泣くことが交渉の始まりとすれば、人は本能として交渉力を備えているともいえます。しかし、それゆえか世界中で多くの交渉が半ば直感に基づいて行われているという現実もあります。しかし『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』にも書かれていることですが、人は交渉スキルを学ぶことで、そうでない場合よりもより望ましい成果を得ることができます。また、交渉力は学ぶことによって誰でも上達させることができるということです。今回の「交渉を前進させるための10原則」と「あらゆる交渉で重要な3つの側面」は、そのための最も重要なポイントと言えます。



  初めに、ペカー先生より「交渉を前進させるための10原則」についての講義がありました。書くと長くなりますので、要点を下の図にまとめました(クリックすると拡大します)。



  図の青い部分、「明白なこと」と書かれている部分を上から縦に見たのが通常、直感に基づいて行われる交渉プロセスです。すなわち直観に基づきアクション→交渉参加→自分本位→結論ありき→自己主張→取り分の奪い合い→表面的な解決案→その評価→最終的な解決策の選択→合意、というプロセスになります。

  しかし、これらのことはあらゆる交渉で自明に行われることなので、交渉力を高めるには別のポイントに目を向けなければなりません。それが明白なことの前に行うべき「大切なこと」です。図のオレンジの部分がそれに該当します。これが「交渉を前進させるための10原則」であり、右側の「ポイント」欄にその要点を記載しました。

ウォートン流 人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術
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集英社


  以前、「第9回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました」でもご紹介した、ペンシルバニア大学ウォートン校のスチュアート・ダイアモンド教授の”GETTING MORE MODEL”も要点はこの10原則とほぼ同じでした。下の図は、先ほどの図に”GETTING MORE MODEL”で挙げられていた20のポイントを当てはめたものです(クリックすると拡大します)





  続いて、ランプルゥ先生より「あらゆる交渉で重要な3つの側面」についての講義がありました。3つの側面とは、「人」・「問題」・「プロセス」。あらゆる交渉の準備において、この3つを必ず考慮に入れなければならないということでした。こちらも図でまとめます。

1.人に焦点をあてる



  「人」の範囲をどこに置くかによって、交渉の結果は大きく違ってきます。講義の中では「人」の範囲を1962年のキューバ危機におけるジョン・Fケネディ大統領に例えてお話がありました。すなわち、自分はケネディ大統領自身、プリンシパルはアメリカ国民、相手はフルシチョフ書記長、実行者はアメリカ軍およびソ連軍、その場にいない人たちは地球上の人々、次世代の人たちは文字通りです。キューバ危機の回避は、ケネディとフルシチョフが誰に焦点をあてて交渉したかで得られた歴史的成果でした。以下、「問題解決」、「プロセス促進」も同様です。

2.問題解決



3.プロセス促進



  繰り返しますが、これら3つの側面は、交渉のより良い結果を生むための必須要素になります。



  さて、講義の後は、いくつか質疑応答が行われました。まず現代で良き交渉者(リーダー)として誰が挙げられるかという質問に対しては、ドイツのメルケル首相が、サーバント型であり、問題を伝える能力に長けているという点でそうであろうということでした。また、質問をしながら相手の考えを引き出しより良い成果を上げるという点では、助産師さんなどまさに良き交渉者と言えるであろうということでした。

  次に恐らく多くの人が抱くであろう、とても交渉になりそうにない、例えばテロリストのような相手にこの原則を当てはめた場合のポイントは、という質問に対しては、問題の焦点を絞ることが大切であるということでした。

  三つめは、『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』でも強調されていたアクティブ・リスニング(積極的傾聴)について。良き交渉者(リーダー)とは、問題の解決策を出す人ではなく「より聴くことができる人」。お話の中でアメリカ民主党の元下院議員ハワード・ウォルプ(1939~2011)の例が挙げられました。死刑制度に反対する彼は、死刑制度を支持する人々の集会に乗り込み、自分の価値をただ押し付けるのではなくひたすら彼らの話に耳を傾け、かつ自分の理解が間違っていないか尋ねたそうです。相手の言うことを正確に理解することはそれほどまでに難しいからで、これからの交渉者(リーダー)必要なのは”Active Listening”というより、むしろ”Active Perceiving”(積極的認知)であるとさえ言えるかもしれないということでした。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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