高原千尋の暗中模索

行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しく止とゞまる事なし。

MBO

2007年03月27日 | ビジネス
仕事の話をひとつ。
 最近、業務に関係するセミナーに参加する機会が増えている。TOC理論、ブランド戦略、M&Aなど経営戦略の核に関する難度の高い内容だ。時代の変化がさらに加速する感のある今日、サラリーマンはこうした勉強をしないと生き残れない。

 先日参加したセミナーで久しぶりに素晴らしい経営の事例を知った。アパレルの有名企業で、2005年MBOによって経営陣が当該企業を買収し非上場化を成功させたW社である。このMBO(マネジメント・バイ・アウト=経営陣の自社買収による上場廃止)は、投資ファンドが入らない純粋MBOとして日本では初めての成功事例で、資本市場では有名な事例らしい。

 W社経営トップのT社長は、もともとデザイナーとしてこの会社に入ったが、自分の思い通りに仕事を進めたいがために、コントローラー、マーチャンタイザー、ブランド長と這い上がり、最後に社長にたどり着いた、という猛者だ。T社長のもと事業は順調に成長し、他社を圧倒する競争優位をすでに確立していた。それにもかかわらず、T社長をはじめとする経営陣は何故、MBOという手段を選んだのか。

 上場企業の場合、株主に対して短期的な成果を常に示していかなければならない。中長期的な高い目標をおいて冒険できない、チャレンジできない。また、そうした戦略を進める場合、内容を具体的に公開しなければならず、その結果ノウハウが流出する。T社長は上場していることで、逆に成長力が鈍化していると感じるようになった。そうした苛立ちを覚え、打開策を模索するなかでMBOを、しかも投資ファンドに踊らされない純粋MBOを外部ブレーンとともに見出すこととなった。

 W社は昨年、直営店で販売に携わるパート、アルバイト約五千人を正社員として採用した。これによる人件費の増加は22億円。もし上場企業であれば、なにを血迷ったのかとパッシングの嵐だろう。このことについてT社長は「人材の取り合いが始まっている。一生の仕事として取り組んでもらえるためにも正社員が望ましい」と語っている。長期的な高い目標があるからこそ為しえる経営判断である。
 つい前日、競合のUアローズが長期アルバイト約1000人を正社員化することを発表した。また、ユニクロが4月から2年間で5000人のアルバイトと契約社員を正社員化する計画をすでに打ち出している。W社の戦略が業界を揺り動かしている。戦略とは何かを考える、またとない事例である。WEBで見つけたT社長のことばを紹介しよう。

  ―― T社長が目指す理想の企業像は。(インタビュアー)

  T社長: どのような会社にも、夢があり、ロマンがあり、社員の目標が
  あります。結果よりも、それらを形作っていくプロセスこそが重要だと思
  います。例えば、演劇では本番の舞台よりも、稽古をしながら作品を作り
  上げていく時間の方がはるかに楽しいという役者は数多いでしょう。
  それと同じように、経営者および社員がさまざまなことを試みるプロセス
  こそ、価値を持つと考えています。だからこそ、中長期的な目標は持ちな
  がらも、常に景気状況や社会的情勢に合わせてフレキシブルに戦略を変え
  ていく必要があります。これだけ不透明な時代にあっては、柔軟性こそが
  重要なファクターになっているのです。
                    (商業施設新聞HP 2006年11月より)


 MBOに関しては、某焼肉チェーンによる詐欺まがいの事例や、某旅行会社、某編集会社など、面白い話もあるが、それらはまたの機会としたい。
 W社のMBOが本当に成功するかどうかはこれから試されることになる。強力なノウハウと経営の求心力によってさらに企業価値を伸ばすことになるのだろうと感じている。W社をまだ知ったばかりであり、少ない情報だけで評価するのは軽々かもしれないが、その動向からは今後も目を離せない。

追記;28日の日経16面に「MBOのレックスHD」として、上記に記載した某焼肉チェーンの事例が掲載されています。ご参照ください。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« カヴァレリア・ルスティカー... | トップ | 座右の銘(其の一) »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL