弱肉強食資本主義への回帰は、
老人(医療)攻撃から始まった
老人医療無料化の実現
老人医療無料化運動は、1969年12月革新美濃部都政のなかで実現し、1970年代初頭には全国の革新自治体に拡大しました。さらに、全国の自治体に波及するなかで、1973年政府をして老人福祉法を改正させ、自己負担部分を助成する老人医療費助成制度、老人医療の無料化が法制化されました。
このことをうけて、さらに自治体では、助成対象者の制限を緩和し、年齢を65歳へと前倒しをするなどの改善を図ることとなりました。
老人医療に引き続き、乳児医療・障害者医療、少し遅れて母子家庭医療の無料化が実現します。 さらに、健康保険法を改正させ、月額医療費30000円以上の負担が償還されるという、高額療養費が制度化されることとなりました。
老人(医療)への攻撃開始
1980年代に入り、第2臨調・行政改革路線に基づく、老人医療攻撃がマスメディアのデマ宣伝・キャンペーンとして開始されました。
老人の医療費が無料になったことから、年寄りが頻繁に医療機関に受診し、さながら病院の待合室は「老人サロン」化しているというものであり、そのため、医療費が増大を重ねているというものでした。
このデマ宣伝は、執拗に手を変え品を変え、四半世紀にわたって繰り広げられたことから、少なからぬ市民の「常識」として定着しています。
(デマ宣伝だという一例は、老人医療の負担が、無料から1~3割負担となった現在でも、朝の病院待合室はお年寄りでいっぱいです。その風景は昔も今も変わっていません。)
なお、臨調行革攻撃の標的は、国鉄をはじめとする私(民)営化攻撃、福祉国家施策の担い手である公務員への攻撃などがありますが、本質的には軌を一にするものであることから、老人(医療)攻撃に絞って話を進めたいと思います。
老人保健法による改悪
老人医療に対するデマ宣伝・キャンペーンが展開されるなかで、老人保健法が制定されます。
この老人保健法が1983年に施行されたことにより、老人医療制度は「質的に大きく転換」させられることになりました。その質的変化はさまざまの要素を含んでいましたが、自己負担分を助成するという制度から、老人医療をすべてこの法で統括することや、少額であっても無料から一部負担を持ち込んだことなどが特徴です。
1970年代は福祉医療の充実、健康保険の給付率引き上げ、高額療養費の制度化など、医療費負担を軽減させる方向で、大きく前進してきました。しかし、1980年代からは、この法の成立により、まったく逆の方向に進むこととなりました。
したがって、この老人保健法が施行されて以降、老人医療の制度改悪や負担増が繰り返され、とりわけ、1990年代には負担増が繰り返され、さらに、2002年10月から1割もしくは2割の原則定率負担となりました。
老人医療改悪が福祉医療・若年層に波及
老人保健法により、無料から一部負担金が導入されることとなりました。そして、健康保険本人1割負担が1984年に導入されます。健康保険制度の基本であった、健保本人10割給付が崩されたのです。
1990年代は、老人医療の一部負担金のさらなる増額が続きます。そして、1996年には健保本人2割負担とされます。
このように、老人医療の負担増にみあって、若年者の健康保険の改悪が進みました。また、福祉医療と呼ばれる、自治体での老人医療・乳幼児医療・障害者医療・母子家庭等医療などの医療費助成事業も、後退を余儀なくされてきました。
介護保険創設に向けたキャンペーン
1990年代半ばから、介護保険制度創設に向けてのキャンペーンが、きわめて長期間、かつ執拗に意図的な宣伝が、マスメディアを総動員して展開されてきました。
その宣伝は、介護問題の深刻化、介護保険の必要性を説くだけではなく、老人の社会的入院、少子高齢化社会の到来、などなど、かなり体系的で念入りのデマ宣伝でした。
なぜなら、「社会福祉・社会保障の理念を覆す」という大転換を、この介護保険導入によって達成しようとする、そのような企図が隠されていたからです。
政府・厚生省も、社会福祉・社会保障の理念を露骨に否定する、この介護保険制度を国民が受け入れるのか、内心ヒヤヒヤものであったと思われます。だからこそ、きわめて長期間にわたる、かつ執拗で体系的なデマ宣伝のキャンペーンを、展開したのではないでしょうか。
(デマ宣伝という一例は、少子高齢化で就労人口が減少し、扶養人口が増大するという喧伝は正しくありません。100年前から現在、さらに将来も、就労人員1名につき扶養人員2名という比率は変わっていないし、将来も変わらない、公的統計からも明らかです。それは、就労年数の上昇と女性の就業機会の増大によるものです。)
介護保険制度は社会保障制度改悪の雛型
2000年にスタートした介護保険制度には、質的な転換はもちろんのこと、社会福祉・社会保障制度改悪のための仕掛けが、数多く盛り込まれています。
あまりにも多くて紹介しきれませんが、公費での措置から保険制度に、必要な介護サービスが給付されるのではなく介護サービス費の給付、認定された介護サービス費の限度を超えると全額自費負担(医療に置きなおすと混合診療)、65歳以上の被保険者の保険料は年金天引き、公租公課の対象とせず天引きが禁止されていた遺族年金・障害年金からも天引き、などなど、数え上げれば限がありません。
そして、介護サービス費の給付を受けた場合は、1割の自己負担が導入され、そのことが、老人医療に波及します。
老人医療に定率負担導入
2001年、介護保険にみあって、定額制であった老人医療の一部負担金に1割負担が、導入されることとなりました。
そして、2002年に小泉政権の医療制度改革関連法案が強行成立、老人医療・健康保険などの改悪が進められることとなります。
その改悪法によって、老人医療に完全定率負担が導入され、そして、さまざまな負担増がなされ、さらに、2003年には健保本人に3割負担が導入されることとなりました。
その結果、健保組合・政管健保・国保を問わず、また、本人・家族ともすべて原則3割負担とされてしまいました。
小泉政権の2度にわたる医療制度改悪
2002年の医療制度改悪だけでも、凄まじい内容であるにもかかわらず、さらに、2006年にも医療制度改革関連法案が、前回同様に審議らしい審議も無く、会期末に一括強行成立させられてしまいました。
6ヶ月超入院患者の特別負担の導入、介護保険の利用者負担増として食事負担と居住費負担が、増額・導入され、これにみあって、療養病床の食事負担増と居住費負担が導入されました。さらに、70歳以上の高齢者に対して、課税所得145万円以上には、現役並み所得者として3割負担が先行実施されました。
このように、すでに改悪が実施されたものもありますが、高齢者医療確保法などは、2008年4月からの実施であり、また、2012年に向けて介護療養病床の廃止医療療養病床の縮減など、小泉政権の改悪の置き土産がまだまだあります。
老年者非課税措置・老年者控除の廃止、年金所得控除の切り下げ
平成17年(2005年)税制改悪によって、65歳以上の老年者にとって信じられないほどの負担増が進行しています。
65歳以上の老年者非課税措置が廃止されました。さらに、所得税で50万円、住民税で48万円あった老年者控除が廃止されてしまいました。そして、年金所得控除が、最低でも140万円あったものが120万円に切り下げられてしまいました。
住民税でいえば、年金額は変わらないのに、所得が少なくとも68万円増えたとして、その部分に課税され増税になります。
非課税措置の廃止では、かつては266万6666円以下の年金であれば、無条件で非課税でしたが、単身者では155万円以上の年金で課税世帯に、控除対象配偶者があっても211万円以上の年金では、課税世帯になってしまいました。
課税世帯ということになれば、さまざまな福祉施策から除外されますし、国民健康保険料の減額措置からも外れ、基本の均等割・平等割に加えて、税額に応じた所得割の加算までされてしまいます。介護保険料などは、区分が何段階も上がり、信じられないぐらいの大幅な負担増が、現在進行形なのです。
高齢者の医療を確保しない高齢者医療確保法
高齢者医療確保法に基づく新高齢者医療制度が、2008年4月からスタートします。
75歳以上の後期高齢者だけの健康保険が創設され、平均月額6200円の保険料負担と、原則1割の自己負担となります。
75歳未満の前期高齢者は、2割の自己負担とされ、70歳未満は引き続き3割負担とされています。
70歳以上の現役並み所得者は、先行実施どおり3割負担が継続されます。
高齢者の医療を確保しない法律と言うのは、75歳以上の後期高齢者だけを組織するこの健康保険は、一般の健康保険とは異なる診療報酬体系とすることが、条文に明記されています。
その詳細は審議会で審議中ですが、その検討の中身は「後期高齢者の心身の特性に応じた医療サービス」と表現されています。解りやすく言えば、後期高齢者の医療について制限をするということです。その制限の内容を、診療内容にするのか費用額とするのか、その併用とするのかを議論しているのです。
後期高齢者医療制度を創設する企図は
75歳以上の後期高齢者だけを組織する健康保険、誰が考えても保険としては成り立たないことは明らかです。成り立たないと解っているのにあえて、高齢者だけの医療保険を創設するには、当然のこととしてその企図があります。
保険料は公費5割、若年者からの支援4割、後期高齢者の保険料1割とされていますが、赤字につぐ赤字で保険料の見直し、すなわち、介護保険料と同様の、引き上げにつぐ引き上げとなることが予測されます
しかし、高齢の年金生活者が中心の健康保険ですから、保険料の引き上げにも限度があります。
そこで発動されるのが、医療や診療の内容に制限を加える、また、医療費総額に限度を持ち込む、という医療水準の抑制です。(もうすでに介護保険では、認定区分ごとに介護サービス費に上限が決められています。)
制限された治療内容や薬剤、医療費総額など限度を超えたものは、自費診療となります。そのために、「混合診療の解禁」が準備されたのです。
ここで出番を迎えるのが、その限度を超えて自費とされた診療を、肩代わりする私的健康保険です。もうすでに、ハイレマスハイレマスという宣伝で、高齢者を囲い込んでいるカタカナ医療保険が、療養給付型の私的健康保険として大化けすることになると思われます。
老人攻撃はさらに続き、それが若年層にはね返る
老人医療が前進すれば、福祉医療や健康保険の給付が改善されてきました。老人医療が後退すれば、福祉医療も健康保険も改悪されたことを見てきました。
1983年制定の老人保健法での改悪は、この四半世紀(25年間)ですべてやりきったのです。したがって、新たな高齢者医療確保法で、次なる改悪を進めようとしているのです。制度発足当初から、本性をあらわにしてその牙を剥いているとは思いませんが、後期高齢者だけを組織するということから、その行き着くところは想像に難くないといえます。
それが、次なる改悪の対象として、公的医療保険の水準を切り下げ、私的健康保険に加入しなければ、十分な医療給付が受けられないという改悪が、若年者に襲い掛かってくることも、また当然過ぎるほど当然です。
政治の流れを変える以外にすべは無い
中曽根政権に始まり橋本政権そして小泉政権と続いた、行政改革・規制緩和・構造改革という露骨な攻撃は、現在では新自由主義と呼ばれる弱肉強食資本主義へ回帰しようとする、なりふりかまわない攻撃といえます。それは、アングロサクソン改革とか、サッチャー・レーガン・中曽根路線などと呼ばれましたが、イギリスのサッチャー政権がお手本です。
保守党のサッチャー政権、後継のメイジャー政権、そして政権交代した労働党のブレア政権、こうした事例や経過に学びながら、権力側のプロパガンダ機関としての、マスメディアのデマ宣伝や誘導に惑わされないようにしなければなりません。
弱肉強食剥き出しの資本主義に先祖がえりさせないために、現在たたかわれている参議院選挙で、憲法9条のみならず25条を護り生かす「党派」を、大きく前進させなければ、さらなる老人(医療)攻撃を止めることもできませんし、弱肉強食資本主義への回帰をも、止める展望も開けないと考えます。
2007・07・15 harayosi-2
一応勉強して知っているはずの内容ですが、こうして整理されたものを読むと、怒りが新たになります。
殺される前に、政権交代をしなければならないですね。
結局、庶民のための福祉はを今の政権が作る訳がなく、私たちが勝ち取らなければならないということですね。
ただ、このままでは、一時良くても、すぐに改悪をするという権力ですから、シッカリとした政府とそれを支える庶民の力が必要なのだと思います。
大企業と結び付いた政府や官僚を候補者にする政党では、庶民の力にはならないことが明白だと思います。
久々に「革新美濃部都政」という言葉を聞きました。
保坂展人のどこどこ日記
街頭で国会論戦でのテーマを受け止める
身辺コラム / 2007年09月15日
街頭で国会論戦でのテーマを受け止める「年金記録問題」にも関心が強い。「障害者自立支援法の凍結は出来ますか」と車イスを止めて聞いてくれた人もいる。「75歳以上の高齢者を対象とした後期高齢者医療制度」について、世帯単位の保険料が個人単位になるので年金からの「天引き」が始まりますよという訴えにも多くの人が足を止めた。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007091301000488.html
平成18 年度健保組合決算見込の概要
平成19 年 9 月6 日
健康保険組合連合会
http://www.kenporen.com/press/pdf/20070906180530-0.pdf
次の公明党の負担軽減主張は正しいのでしょうか?キッチリと検証していくべきだと思います。
★この課題 公明党がこう前進
公明新聞:2007年5月24日
高額療養費 ~ 高額医療・介護の合算制度
http://www.komei.or.jp/news/2007/0524/8863.html
★医療、介護 合計負担額に上限
公明新聞:2007年2月26日
来年度からの高額合算制度で厚労省 一般世帯(75歳以上)で約42万円軽く 公明が強く推進
http://www.komei.or.jp/news/2007/0226/8209.html