日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(22)

2017年03月20日 17時02分51秒 | Weblog

 葉子さんが、応援団の女性群に押圧されて突発的にプールに突き落とされた野球部員の織田君達3人を、彼女の兄が迎えに来た自動車に無理やり乗せると、他の二人を順次自宅に送り届け、最後に織田君を人目につかないようにあたりに気を配りながら自宅に連れ込んだ。

 理恵子は、深い意味もなく咄嗟の思いつきで、自転車に乗ると大急ぎで葉子さんの自宅に向かい、その様子を見届けてから吹奏楽部の練習部屋に戻り、他の部員同様に自分の使用する樂器の手入れにかかったが、自分でもはっきりした理由も判らないままに、何か気の抜けた様にやるせない気持ちで、手を休めて窓辺で青空と校庭のポプラの並木に見とれていると、部員の中でもリーダー的存在の奈津子さんや他の5人の者が
 「理恵! なにぼんやりしてんの?」「葉子さんに織田君を連れて行かれたので寂しいの?」
 「理恵の気持ちもわかるけど、そんなことで、くよくよすることないわ」
と、それぞれが口々に同情的な言葉を浴びせ元気ずけたが、理恵子が何も答えずにいると、奈津子が
 「みなさん! 若い女性なら、いちいち説明しなくても理恵ちゃんの気持ち判るでしょう~」
 「理恵ちゃんに聞くのは酷よ!」「わたしたちで、いま、彼女にしてあげられることは、みなさんで葉子さんのところに行き、せめて、織田君のユニホームを返してもらい、理恵ちゃんに洗濯させることよ。わたしの提案をどう思いますか?」
と発言するや、皆が「そうだぁ~」と声をあげて、奈津子の提案に賛成し
 「わたしも、一緒にゆくわ」
と、たちまち皆の意見が一致し、外出の準備にかかった。
 理恵子は、とんでもないことになったと驚いて
 「みなさん、お心遣いは大変嬉しいですが、織田君とは普通の友達ですので、やめて下さい」
と、自分も尊敬する先輩の葉子さんのところに大勢で押しかけて、もし、葉子さんの機嫌をそこねて、今後、少しでも冷たくされる様なことになっても困ると考えて、押しとどめ様としたが、情熱的な彼女等の勢いは一度燃え盛ると消えることはなく、誰が言うともなく
 「葉子さんも勝手すぎるわ」「いくら成績が優秀な先輩でも、親切が行き過ぎて人の心を傷つけるのは許せないわ」
と、いかにも自分が当事者であるかの様に言うと、他の者達も益々勢いをえて、各自が自転車で奈津子を先頭に走り出した。

 理恵子も、自分のことが問題の発端であるので、この先どうなるのかと不安な気持ちで5人の最後尾に着いてゆき、葉子さんの家の前に着くや、みんなが玄関前で石畳に踏み込むことを躊躇ったが、またもや奈津子さんが
 「さ~ みなさん、ここまで来てオロオロしていても仕様がないわ。勇気を出してよ」
 「わたしが 先に行きますから、ついてきてね」
と、声をかけて石垣に取り囲まれた葉子さん宅の玄関口の石畳を歩いて玄関にさしかかるや、突然、横手の庭の植木越から大きい男の図太い声で
 「やぁ~ 可愛い貴女たちの姿が見えたので、我が家ではこんなことは珍しく、何の御用ですか!」
と声を掛けられたので、一同が、びっくりして返事もできないでいたところ、縁側から葉子さんが首を伸ばす様にして
 「兄さん そんな大きい声を出してどうしたのよ」
と言いながら顔を覗かせ、玄関先に奈津子さん達を認めるや
 「兄さん わたしの友達よ」「そんな大きい声を出さなくてもいいでしょう」
と言ってから、奈津子さん達の方に出てきて
 「みなさん お揃いで、どうしたの?」「プールのことで、なにか問題がおきたの?」
と、彼女らしく何時もの落ち着いた声で聞いてきたので、皆は少し落ち着き平静さを取り戻したあと、奈津子さんが
  「あのぅ~ プールと言えばプールに関係あるかも知れませんが・・」
  「お邪魔にあがりました訳は、実は織田君のユニホームや下着類を理恵子さんに返して戴きたいのですが・・」
と、恐る恐る訪問の理由を告げると、葉子さんが
  「あらそうなの、私も急いでいて気ずかなかったけど、そう言はれれば、織田君は時折理恵子さんに勉強を教えていて、家族の人とも親しくしているとのことなのね」
  「わたしも慌てていて、理恵ちゃんに寂しい思いをさせて御免なさいね」
  「わたし織田君とは特別な感情は有りませんので誤解しないで下さいよ」
  「いま、織田君はシャワーを浴びているが、貴女達の来た理由を説明してきますから」
と言って、奥に消えていった。

 やがて、葉子さんが風呂敷包みを持つて玄関に現れ、理恵子に
 「はいっ どうぞ。理恵ちゃん御免ね」「決して貴女に意地悪をする気は無かったので、理解してね」
と言って風呂敷包みを奈津子に差出したところ、両頬に薄く髭をのばして黒く日焼けした、いかにも精悍な顔つきの葉子さんの兄が
 「な~んだ 葉子。 織田君はお前の彼氏ではなかったのか?」
 「最も、お前みたいに、常に俺にもズケズケ文句を言う女では、可愛げなく、あんなイケメンの彼氏が靡く訳はないな」「がっかりしたよ!」
と口を挟んだので、葉子さんは
 「兄さんみたいな乱暴な口を利く兄がいたら、わたしが、いくら努力しても無理よ」
 「来年大学に進学し寮で一人住まいになったら、素晴らしい恋人を見つけるわ」
と、口応えして笑っていた。

 奈津子達は、そんなやり取りをクスクス笑って聞いていたが、皆が安心感から笑いながら軽く頭を下げて
 「葉子さん 有難うございました」「貴女のお陰で野球部員も助かり、内心では喜んでいるんじゃないかしら」
と皆が口を揃えて挨拶して玄関を出ると、自転車のあるところまできて、奈津子が「あ~ 汗臭い」と言いながら理恵子に包みを渡すと、織田君が慌てて追いかけてきて、理恵子に
 「今晩、君のお父さんに、盆踊りのことで相談に行くことになっているが・・」
と一方的に言って、再び葉子さんの家に入ってしまつた。

 理恵子は、織田君の一言でそれまでの緊張感がほぐれて気が楽になり、みんなに向かい
 「お礼と言うほどのことでもありませんが、よろしかったら、これから私の家にきませんか」
 「丁度、池で冷やしておいたスイカがありますし・・」
と、誘ったところ一同が目的達成感から
 「わ~ 賛成 御馳走になるわ」「それに 理恵子がどんな生活をしているのかも見たいし・・」
と、たちまち意見がまとまり、今度は来るときとは反対に理恵子が先頭になり、6台の自転車が縦に並んで近道である、陽光の照りつくヨモギ等雑草が道端に生茂る村はずれの農道を、首や髪に巻いたスカーフを靡かせながら銀輪を輝かせて、まるで勝ち誇った様に一目算に走りだした。
 

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