日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (35)

2023年01月15日 04時01分17秒 | Weblog

 よく晴れた日の昼下がり。
 大助は、健太郎が川海老を救う網の手入れをしている傍らで、みよう見真似で面白そうに手伝いをしているところに、美代子が母親のキャサリンと連れ立って大きな手提げ袋を持って訪ねてきた。
 美代子は大助を見つけると、キャサリンの手を振りほどいて彼のそばに行き 
 「これ、お爺さんからのプレゼントだけど受けとってぇ」
と言って、大助のために老医師の祖父が用意した盆踊りに着る法衣等が入った大きな袋を差し出して中を見せたあと、別の手提げ袋を少し開いて
 「これは、わたしの水着ョ」
と言ってチョコット中身を見せて、これから二人で泳ぐのを楽しそうに肩をすぼめてクスッと笑っていた。

 キャサリンは、節子さんに対し挨拶のあと、診療所では話すことのない愚痴をこぼすように、田舎に暮らす様になってから、それまでの親子三人での新潟市内での生活と異なり、老医師を交えた診療所での暮らしは、習慣の違いもあり村人との付き合いに判らぬことばかりで悩みも多い。と、普段は言わないことを珍しく零したあと、大助の傍らにいる美代子を見ながら
 「あの子ったら、昨日遊んでいただいた興奮がさめやらず、朝早くから、大助君のところに早く連れて行って」
とせがみ、お爺さんも珍しく「早く連れて行ってあげなさい」と怒鳴り、考えてみれば、あの子も肌と目の色が違うとゆうだけで、学校では理由もなくいじめられたりして、悔しい思いをしているらしく、大助君と遊んで貰えるだけで心が救われると、昨晩、嬉しそうに夫や祖父に話していたことなど、昨日の彼等の遊びの様子を話したあと、私もあの子の心の痛みがよく判るので、厚かましく早々とお邪魔に上がりましたが、今日も大助君と遊ばせて下さい。と、熱心に頼んでいた。 
 美代子は、その間も大助と楽しそうに話しながら、慣れない手付きで網の修理を手伝っていた。
 健太郎も、教師上がりのため若い二人の扱いも慣れたものでニコニコしながら相手をしているので、節子も安心して見ていた。
 キャサリンとは何時も診療所で顔を合わせている節子も、これまで聞いたことのない彼女の深刻な悩みを聞くと、彼女の立場が良く判るだけに
 「わたし達も、子供達と一緒に行って、河原の杉の大木の木陰で色々とお話ししましょうょ」
と快く返事をして誘ってくれた。

 山上家から川までは、裏庭から通ずる河川敷の畑の中を通り、良く伸びたトウモロコシや向日葵それにトマトやキュウリと西瓜等が稔る畑の小道を通り過ぎると、すぐに目的の川原に辿り着く。
 理恵子と珠子それに美代子の三人は、家で水着に着替えると大きいバスタオルで身を包み麦藁帽子をかぶりサンダルを履いて、楽しそうにはしゃぎながら健太郎と大助のあとについて行き、 節子とキャサリンも、半袖のシャツにスニーカーの軽装で、紫外線よけの眼鏡をかけて日傘をさし、軽食や麦茶のペットポトル等の入った大きな籠の取っ手を二人で分けて持って、彼等のあとに続いてゆっくりと歩きながら子供達のこと等を話しながらついて行った。

 川原に着くと、大助と美代子は夫々勝手に膝の屈伸など準備運動のあと勢いよく川に入り、上流に向かいクロールで泳ぎだして行った。 
 流れがあるためか、美代子は流石に体力で勝る大助に少し遅れ気味だが、それでも、水泳が得意なだけに懸命に泳いでついてゆき、織田君の待つ船に辿りついた。
 ところが、先に自力で船に上がった大助に対し、美代子は船に上がる要領を知らないのか
 「大助くん~、わたしを引き上げてェ~」
と金きり声で叫んだので、大助は再び川に飛び込み、彼女の腰の辺りを抱えて、やっとの思いで船に乗せるや、顔の面前に現れた彼女の丸い尻の辺りを悪戯ぽくピシャッと叩いて川にもぐってしまった。
 美代子は「痛いッ。大助君のエッチ!」と振り返る様に彼に向かって声を上げたが顔は笑っていた。
 理恵子と珠子は、そんな二人を見ていて、それが深い意味のない純粋にユーモアにあふれた、自然な戯れた仕草と映り不快感も覚えず、平泳ぎで水を楽しみつつ、ゆっくと船に着くと、織田君に手をとられて船にあがった。

 大助と美代子は、少し休んだあと船から下りて、健太郎と織田君が川べりで網を使い、川海老や沢蟹を取るのをバケツをもって愉快そうについて回っていた。
 終わると二人は再び川下に向かい泳ぎだした。 
 今度は、流れに乗って速く泳ぐ美代子に大助の方が遅れ気味になったが、大助は川幅の広い流れが緩んだところで泳ぐのをやめて、ゆるい流れに仰向けに身体を浮かせていたところ、美代子が戻ってきて、大助に身体を寄せて二人が並んで手を繋ぎ青空をながめていた。 そんな大助に対し美代子は
  「大助君、青空にポッカリ浮かんで流れる白い雲を見ていて・・」「何を考えているの」
と聞いたので、彼は
  「特別に考えていることもないが、唯、小さい白い雲が、ゆったりと流れるうちに、くっついては離れる模様が面白くてさ」
と答えると、彼女は
  「ネェ~ 大助君 何時帰るの」 「君が帰ったあと、わたし、きっと胸が潰れそうに寂しくなるヮ」
  「来年も、また、このように逢って遊べるかしら。どうなの、教えてェ~」 
  「わたしの夢を壊すことはないわネ」
  「わたし、来年、もし東京の高校に行く様になったら、どうしてもお付き合いして欲しいヮ、約束してくれるでしょう」
と聞くので、大助は深く考えることもなく漠然とした思いで
  「あの雲の様に、僕達も、いつかは離ればなれになって消えてしまうかも知れないなしなァ~」
  「僕も、君とこのまま付き合いが出来ればと思っているけれども、先のことは、わからないよ。ケッセ・ラー・セラー さぁ~」
と微笑んで答えると、彼女は顔を近ずけて握っている手に力を込めて

 「ソンナ ココロボソイコト イヤダヮ」  「ワタシハ キミガ トッテモステキデ ゼッタイニ ハナレナイヮ」

と青い瞳に涙を浮かべて、今にもすがりつく様に言うので、彼も予想もしない言葉の勢いに困って仕舞い
  「東京の道案内くらいならできるが、それ以上のことは、僕と君では家庭的にも立場が違うので、深く付き合えば付き合うほど、楽しさの反面悲しさも増すと思うと怖いなぁ」
と、彼なりに思いつきだが将来を考えて精一杯、現実的なことを返事すると、彼女は彼の返事に刺激されて少し興奮気味に
  「立場も何も関係ないヮ」
  「去年の夏、偶然、この河で一緒に泳いで知り合ったとき以来、河の聖霊が、わたし達を引き合わせてくれたのょ」
  「誰が反対しようとも、わたし自分の夢を何処までも追い駆けるヮ」「イイデショウ」
と言って、あくまでも自分の考えを貫こうとする意思の堅さに、彼も圧倒されてある種の畏怖さえも覚えて逃げるように泳ぎだしたら、美代子も懸命に泳いで大助のあとを追ってきた。 

 強い日差しを避けるように、川辺の木陰では、節子とキャサリンが世間話にまじえて、美代子をとりまく学校生活や家庭内の様子などを雑談を交えながらも語りあいながら、そんな二人を微笑ましく遠くに眺めていた。


  

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