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ギュンター・グラスもびっくり 日本の戦後レジーム

2006-09-07 23:15:00 | Weblog
「現代ドイツ文学の最高峰」と絶賛する人が多かった『ブリキの太鼓』の作者ギュンター・グラス氏が「ナチスの武装親衛隊に所属していた」と告白して、大きなニュースになったのは8月のことだ。グラス氏に対して、自主的にノーベル文学賞を返還するよう求める声が、ドイツで高まっているそうだ。一方、告白と同時に売り出した同氏の自伝の売れ行きは上々という。

元国連事務総長でオーストリア大統領だったクルト・ワルトハイム氏もナチスに関わっていた。ヒトラー・ユーゲントを経てナチス突撃隊員になった。しかし、この経歴にもかかわらず、1986年には大統領選挙で当選した。しかし、大統領であるにも関わらず、多くの国からペルソナ・ノン・グラータ扱いされた。ナチスに関係した人物の入国を拒否しているアメリカ合衆国は、ワルトハイム・オーストリア大統領を要注意人物のリストに加えた。

一方、東条内閣で商工大臣を務め、敗戦後A級戦犯容疑で逮捕された岸信介氏――安倍晋三氏が敬愛する母方の祖父――は、のちに日本国首相に返り咲き、米国訪問の際は上下両院で演説する栄誉を受けた。

アジアにおける冷戦の本格化を受けて、米国は日本を共産主義に対する防波堤にするため、戦犯として巣鴨プリズンにいた、使えそうな人物を不起訴として釈放した。アメリカは途上国でこのような手を良く使う(たとえば南ベトナム)。ハリウッド映画風にいうと「くそったれだが、おれたちのくそったれだ」というわけだ。岸信介氏は冷戦のおかげで巣鴨プリズンから解放されたA級戦犯容疑者の1人だった。1948年のことである。

岸氏は1953年に衆議院議員に当選し、自由党と民主党の保守合同に一役かって、1955年には自由民主党の初代幹事長に就任した。この年、分裂していた社会党が合同した。戦後政治史を象徴する55年体制の始まりである。1960年には新しい日米安全保障条約強行採決し、反米・反安保・反岸の闘争に見舞われた。安保闘争に対して自衛隊の治安出動を計画したが、赤城宗徳防衛庁長官に拒否された。日米安保条約が自然成立した後、首相をやめた。

ところで共同通信が伝えたところでは、「米中央情報局(CIA)が1950年代から60年代にかけて、日本の左派勢力を弱体化させ保守政権の安定化を図るため、当時の岸信介、池田勇人両政権下の自民党有力者と、旧社会党右派を指すとみられる「左派穏健勢力」に秘密資金を提供、旧民社党結党を促していたことが18日、分かった。 同日刊行の国務省編さんの外交史料集に明記された。同省の担当者は『日本政界への秘密工作を米政府として公式に認めたのは初めて』と共同通信に言明した」(共同通信2006年8月19日)。さらに共同通信の記事は「またCIAは59年以降『左派穏健勢力』を社会党から分断し、『より親米で責任ある野党』の出現を目指した『別の秘密計画』を展開。民主社会党(後の民社党)が誕生する60年には、計7万5000ドルの資金援助を行い、秘密工作が打ち切られる64年まで同額程度の支援が続けられた」と続く。

日本の「戦後レジーム」を作り上げた政党が米CIAから資金提供を受けていたという話は、すでにニューヨーク・タイムズ(1994年10月9日)が書き、1995年にはアリゾナ大学のMichael Schaller教授(歴史学)が論文 “America's Favorite War Criminal: Kishi Nobusuke and the Transformation of U.S.-Japan Relations”でふれていた。

Schaller 教授は

● Evidence in a variety of open and still classified U.S. government documents strongly indicates that early in 1958, President Dwight D. Eisenhower, making what he and his aides earlier called a ‘big bet,’ authorized the CIA to provide secret campaign funds to Japanese Prime Minister Kishi Nobusuke--formerly an accused war criminal--and selected members of the Liberal Democratic Party.

● With the aim of both strengthening Kishi's grip on the LDP and stemming Socialist gains in the upcoming Diet election, the CIA utilized nominally "private" Americans to deliver money to Kishi's circle within the LDP. This allowed both donor and recipient to deny any official foreign involvement. Additional money reportedly went to so-called moderate elements within the JSP, with the aim of securing political intelligence, boosting their numbers, and encouraging ideological warfare within the party. While the exact amount of secret funding remains uncertain, sums as high as $10 million may have been spent annually between 1958 and 1960.

と、CIA資金が岸信介氏に渡ったと書いている。

以上、日本の「戦後レジーム」の暗部のほんの一面を紹介した。

(2006.9.7 花崎泰雄)

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