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news commentary

谷歌中国

2010-01-27 12:54:17 | Weblog
  悩ましき声の漏れ来る隣部屋障子に目はり壁に耳せん

中国には3億5千万人のインターネット利用者がいて、2009年のインターネット検索市場は約1千億円にのぼる規模にまで成長したそうである。最近のBBCサイトに書いてあった。2008年の日本のインターネット検索エンジンに連動した広告市場規模は1,254億円だった(総務省調査)ので、ほぼ似たような規模だ。

グーグルはこうした中国市場の将来性に魅力を感じて、検閲覚悟のうえで中国に進出した。進出当時は中国市場からの儲けのために情報アクセスの自由を売り渡したと批判された。

ところがそのグーグルが中国進出4年にして「中国の検閲やこのところのサイバーアタックはもうたまらん。中国からの撤退も考える」と言い出した。2009年にはYou Tube、Twitter、 Googleなどからのチベットや新疆・ウルムチの衝突、過去の天安門事件の資料へのアクセスがブロックされた。New York Timesなどアメリカの新聞サイトや、BBCの中国語サイトもしばしばブロックされている。11月にはアメリカ大統領バラク・オバマが訪問先の上海で学生を相手に演説したが、インターネット検閲に反対する内容が検閲の対象になり、多くの中国人がオバマの意見を目にすることはなかった、とAPが伝えた。

むかし中国の王朝は外敵の侵入を防ぐ目的で万里の長城を築いた。現在の中国政府がはりめぐらせているいわゆる Great Firewall of China は中国人の脳味噌が外へ向かうのを防ぐためである、と西洋は批判する。が、そのFirewallを築く手伝いをしているのも西洋のコンピューター関連企業である。

中国はわれわれのコンピューターに不正侵入していると西洋の政府は批判する。2007年のことだが、英国では外務省など政府機関のコンピューターが中国からサイバーアタックを受けたといわれる。MI5のチーフが300あまりの英企業に中国からのサイバーアタックにさらされていると警告した。中国人民解放軍が毎年コンピューター技術のコンテストを行い優秀なハッカーをリクルートしているという話も流された。ドイツのメルケル首相のオフィスのコンピューターから中国製のトロイの馬が見つかった。そういった話がメディアで報じられてきた。

このたびは、グーグルの肩を持ってクリントン米国務長官が「中国はサイバー侵入の徹底調査をすべきである」と情報への自由なアクセスの重要性を強調した。一理ある。

すぐさま中国は「最近のサイバーアタックの背後に中国当局がいるという主張には根拠がない」と否定した。1月23日のワシントン発新華社電は「クリントン発言はアメリカが使う二重基準の一例だ……9.11のあとアメリカでは治安当局に電話や電子メールの盗み聞き・盗み読みをテロ対策として認める権利を付与した愛国法を議会が議決しているではないか。ペンタゴンはサイバー部隊を持っているではないか」と自国のことは棚に上げて、他国のことをあげつらうのはよしてくれと、いらだって見せた。これも一理ある。

アメリカ合衆国には国家安全保障局(NSA)という組織がある。その規模はCIAとFBIをあわせたほど巨大で、6万人の職員を雇い年間6千億円の予算を使って、世界中に施設をつくって手当たり次第に通信を傍受している。アメリカ最大の盗聴組織だ。NSAはカナダ・英国・オーストラリア・ニュージーランドの英語国と共同で世界規模の盗聴網エシュロンを運営しているといわれる。

アメリカは日本占領中に日本国憲法の制定に関与し、日本に民主主義を教えたが、一方で、かれらの占領政策上の都合により、報道を検閲し、郵便を開封して信書の自由を侵した。グーグルと中国の軋轢を機に、米中のサイバー冷戦の局面がもっともっと浮上し、国家というものの二重基準や二枚舌を互いに暴露しあうことになれば、いろいろ面白いことがわかってくるだろう。

(2010.1.27 花崎泰雄)











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