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強制ボランティア労働

2006-09-16 10:52:35 | Weblog
日本の国立大学の入学時期は現在4月だが、それを欧米の主流である9月に変える。3月の高校卒業後から9月の大学入学まで間に、入学予定者に「ボランティア活動をやってもらうことも考える必要がある」と奉仕活動の義務化を、安倍晋三氏が9月14日自民党本部で開かれた公開討論会で表明した(朝日新聞9月14日夕刊)。

森・元首相の私的諮問機関だった教育改革国民会議が2000年に提唱した「小・中学校では2週間、高校では1か月間、共同生活などによる奉仕活動を行う。将来的には、満18歳後の青年が一定期間、環境の保全や農作業、高齢者介護など様々な分野において奉仕活動を行うことを検討する」というアイディアの踏襲である。

学校での奉仕活動の義務化はすでに始まっている。一例をあげると、東京都は都立高校で奉仕の授業1単位をいくつかの研究校でテスト的に始めた。2007年度から全都立高校で必修科目にする。

「ボランティア」という言葉は英語volunteer のカタカナ表記で、強制や義務ではなく自発的に行為することである。したがって、安倍氏が言った「ボランティア活動」の義務化は論理的に矛盾している。volunteer という語はもともと「志願兵」という意味で、徴兵される兵と対比された。同時に、volunteerには通常の兵には支払われる代償なしで兵役に従事するという含意があった。17世紀ごろに使用例が多い(Oxford English Dictionary)。義務化されたvolunteershipはconscription (徴兵)と同じである。

日本国憲法はその18条で、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と、国民に強制労働をさせることを禁じている。ベトナムでは、国民を徴用し1年のうち10日間、国家への労働奉仕を義務づける法律が、1999年に成立したそうである。日本の学校での奉仕活動の義務化が強制労働ではないという理由づけは、それが教育カリキュラムの一環という解釈である。

さて、国立大学入学予定者の奉仕活動の義務化に関わる安倍発言だが、奉仕活動を義務づけられる入学予定者は、4月から8月にかけて、実は、高校生でもなく大学生でもない。したがって、教育カリキュラムとしての奉仕活動を義務づける根拠はどこにもない。この時期の国立大学入学予定者は一般国民となんら変わらない。したがって、自由主義者・安倍氏の“ボランティア奉仕活動”の義務化の発想は、1999年の社会主義共和国ベトナムのそれと通底している。

ところで、日本におけるボランティア活動の現状だが、総務省統計局の2001年社会生活基本調査によると、2000年10月から2001年10月の1年間に何らかのボランティア活動を行った人は3263万人で、10歳以上の人口の約30パーセントだったそうだ。その5年前の1996年調査に比べて、443万人、3.6ポイントの上昇になった。さらに、10歳代前半から20歳代前半で大幅に上昇したという。

(2006.9.16 花崎泰雄)

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