詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

『演劇界』若手花形讃歌 市川亀治郎 再創造から継承へ その後 

2017-08-13 23:46:53 | 日記
今月の納涼歌舞伎でも舞踊に芝居に演出に大活躍している猿之助。『野田版 桜の森の満開の下』にはお呼びがかからなかったようだけれど、亀治郎から猿之助を襲名したことだし、慣れない野田芝居に無理して手を出す必要もない。秋のスーパー歌舞伎Ⅱ 『ワンピース』で独自路線を目指すべきだと思う。「再創造から継承へ」という言葉は今も生きている。



花形讃若手讃歌 市川亀治郎 再創造から継承へ

 成人の日に新春浅草歌舞伎へでかけた。市川亀治郎が六役を早替わりで踊りぬく『蜘蛛絲梓弦』が終わり場内アナウンスが流れても拍手は鳴りやまなかった。若手の歌舞伎とはいえ初日でも千秋楽でもない普通の日にカーテンコールなどあるはずがない。それなのに今味わったばかりの感動を幕の向こうにいる出演者たちに知らせたくて拍手の音はどんどん大きくなっていった。ミュージカルにはカーテンコールの盛り上がりを演出して興奮を高めるような作品もあるが、これは多くの観
客が素直に気持ちを表現したものだった。

 予定外の出来事ですでに後片付けが始まっていたからだろうか幕は最後まで開くことはなかったが、碓井貞光の獅童、源頼光の勘太郎、坂田金時の七之助が扮装のまま幕前に進み声援を受けた。拍手は一段と大きくなったが、肝心の主役がなかなか出てこない。どうやら一度脱いだ衣裳を再び着るのに手間取っているらしかった。女郎蜘蛛の精の姿で登場した亀治郎は花道で両手を挙げて拍手に応える。歓声とともに観客が次々に立ち上がりはじめてスタンディングオベーションとなった。賛否両論があろうが強制されない自然な形なら歌舞伎にもこんな瞬間があっていい。
 
 会場の浅草公会堂には仮設の花道はあっても回り舞台もなければスッポンも舞踊に使えるような迫りもない。そこで『蜘蛛絲梓弦』を今までの演出で上演することは不可能である。通常の平舞台の装置を二重の御殿に変えて、ちょうど『義経千本桜・四の切』の舞台のようになった。そして後半には短時間で岩屋に転換させるという工夫もあった。常磐津は上手の山台に、長唄は御殿の襖が左右に引かれて舞台奥に並んでいた。

 六役の最初の童は常磐津の山台の下から出現する。次の薬売りは御殿の床に置かれた碁盤を蹴破って平舞台へ飛び降りるという離れ技。花道を入ると早替わりで新造姿で登場。さらに下手の壁に消えると四の切のように階段から座頭の姿で忽然と現れる仕掛け。同じく下手黒御簾の位置に飛び込んで一瞬に姿を消す。やがて御殿の御簾が上がると勘太郎の頼光と傾城薄雲の姿で並んでいる。階段で狐忠信のように後ろに反り返る大技を披露。そして再び御簾が降りて頼光ら一行が花道に去
ると蜘蛛の巣の描かれた幕が下がり大薩摩。幕が飛ぶと御殿は一変して岩屋の装置。おなじみの土蜘蛛のような隈取り姿に変身。最後は舞台一面に蜘蛛の糸が落ちてくるという派手な幕切れで場内の興奮も最高潮に達した。
 
 こうした流れは初役で演じましたという段階ではなく、亀治郎流の再創造といえるものだった。初めての観客は歌舞伎の多彩な表現に感嘆しただろうし、古くからの贔屓は猿之助の活躍に胸躍らせた日々を思い出したに違いない。もちろん初舞台の『戻駕色相肩』の禿たよりで唸らせて以来の舞踊の上手さには、ますます磨きがかかって各役とも大いに楽しませてくれたのはいうまでもない。

スーパー歌舞伎へ『八犬伝』の犬江親兵衛での登場は鮮烈な印象を残し、『新・三国志』の関平安良での奮闘は当たり役となった。叔父の猿之助のもとでは、創造の精神を学び大きな刺激を受けたことと思う。浅草という修練の場を得て、さらに亀治郎の会で古典の大役に挑戦しているのは頼もしい限りである。
 
 新之助との『宮本武蔵』、菊之助との『NINAGAWA十二夜』、『児雷也豪傑譚話』、さらにパルコ歌舞伎『決闘!高田馬場』で染五郎らと共演するなど同世代との新しい芝居への挑戦が続いているのも心強い。必ずや将来に役立つ時がくるはずだからである。
 
 恒例のスーパー歌舞伎が今年は上演されないが、復活した通し狂言は継承されることだろう。しかし創造の力をもって新作を生み続けなければ猿之助歌舞伎の命脈は尽きてしまう。その未来を託せるのは亀治郎ではないだろうか。さらに家の芸を特に『黒塚』演じる機会が一日も早く来ることを切に望みたい。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ミュージカル『にんじん』 ... | トップ | 2008年8月歌舞伎座 『野田版... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。