詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

八月納涼歌舞伎 第1部『刺青奇偶』『玉兎』『団子売』 2017年8月10日 歌舞伎座

2017-08-10 19:09:10 | 日記
中車、七之助、染五郎らによる『刺青奇偶』(いれずみちょうはん)は坂東玉三郎の演出。芝居が始まって驚いたのは、次の台詞が何か全部わかったこと。「えっ、何故?どうして全部知っている?」思い出したのは、若い頃の特技が一度観た芝居の台詞をほぼ全部覚えてしまうというもの。とても今の物忘れの激しい自分では想像できないけれど本当の話。もちろん良い舞台に限ってで、同じ頃観た演劇集団 円の『夜叉ヶ池』も全部覚えていた。同じ長谷川伸では『一本刀土俵入』もそうだった。

全部の台詞はともかく、今でも舞台の細部まで覚えるのは得意というか特技。演劇評論家の先生方の中には熱心にメモする人がいるけれど一度で覚えられなくて何が評論家?という思いがある。そして瞼に焼き付いているのは1978年9月に上演された『刺青奇偶』。半太郎を演じたのが先代の勘三郎、お仲が大抜擢された玉三郎。大好きだった勘三郎を観るために歌舞伎座に何度も通って通しで3回。幕見を合わせると5回は観ているのはず。それなら台詞も覚えてもおかしくない。

芝居が進むにつれ、現在58歳の自分が19歳だった自分出会っているような気持ちになったのと、舞台の上の悲しい物語に大きく心を動かされて涙が止まらなかった。以前の幕切れは一世一代の博打に勝ち死の床にある恋女房の所に急ぐ主人公に寺の鐘が鳴ってお仲の死を暗示させ、全てが手遅れという人生の苦さを感じさせる演出だったはずですが今回はありませんでした。

人生の残酷さを描き尽くした長谷川伸の名台詞を自分のものとして中車が入魂の演技をみせる。歌舞伎ならではの台詞回しも上手い。玉三郎直伝の七之助のお仲も素晴らしく傑出した舞台になった。染五郎もいい。それなのに笑いたがりのお客が雰囲気を壊す。終演後、後ろに座っていた女子大生の団体の「全然わかんない」に愕然とし、椅子から崩れ落ちた。君達に心はないの?同じ19歳だった39年前の自分には一生ものの感動した芝居だったのに。

休憩をはさんで今は亡き勘三郎の孫、6歳の勘太郎が『玉兎』を踊った。幼いけれど役者の子は役者。振りを間違ったり、物怖じしてしまったりという危うさが一切なく天下の歌舞伎座の大舞台で一人で踊りきった見事だった。達者に踊るけれど、所詮は子供の踊りと思ったら大間違い。可愛いだけではなく「カチカチ山」の踊りわけをきちんと見せきったのには驚くばかり。舞台度胸も満点で中村屋のDNAをしっかり受け継いでいるようだ。この子が『鏡獅子』を踊るまでは元気でいたいと思う。

『団子売』は勘九郎と猿之助。この二人も幼くして歌舞伎座の舞台に立ち満場をわかせている。当時の勘太郎は『供奴』を大人顔負けの躍動感あふれる踊りを披露。当時の亀治郎は猿之助と段四郎とともに『戻駕』を踊って澤瀉屋ファンを喜ばせた。今回も勘九郎と猿之助は思わず唸ってしまうような見事な踊りをみせる。特にお多福とヒョットコの面をつけての踊りの面白さといったらなかった。二人とも大人の踊りなのは当たり前だけれど歌舞伎らしさはここにあった。
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