詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

七月大歌舞伎 夜の部 『駄右衛門花御所異聞』

2017-07-15 20:49:41 | 日記
今日からホテルより東京ディズニーランドと新宿高島屋に向けてバスツアーが始まった。最初の便に自腹で乗車。東京ディズニーランドを横目に見て舞浜駅、新木場駅と乗り継いで永田町。国立劇場で歌舞伎鑑賞教室を観る予定だった。本当は歌舞伎座昼夜の予定だったが、昼の部のチケットは知人に差し上げて菊之助初役の大蔵卿を観るはずだった。ところが入場しようとしたらチケットがない。入れておいた長財布ごとないのである。国立劇場の入り口で茫然。駅前の駐車場に入れた時にチケットの有無を確認したので愛車の中に忘れたに違いない。販売の記録があるので入場は可能だけれど、知人に手渡ししようと考えていたミュージカルのチケットがどうしても必要。ということで成田にトンボ帰り。車の中で財布を発見して再び東京へ逆戻り。

最愛の妻である小林麻央さんを亡くしたばかりの海老蔵。昼夜6役を演じる大活躍で歌舞伎座初の座頭公演。精神的にも肉体的にも過酷な公演となったようだ。二幕目の最後に息子の堀越勸玄くんと親子揃っての宙乗り。その人気で異例の開幕前に全席売り切れの大盛況。今日から発売されたらしい堀越勸玄くんの舞台写真も大人買いした。

演目の『駄右衛門花御所異聞』は『秋葉権現廻船語』を原作に四人の補綴・演出によって書き換えられたほぼ新作。原作自体が忘れられたような存在だったのでどのような物語か検討もつかなかったが結論から言うと冗漫で退屈な芝居だった。それでも面白いと思えるのは役者の魅力に満ち溢れていたから。

まずは中車。毎年七月の歌舞伎座といえば父親である先代猿之助の奮闘公演が長く続いた。映像の仕事も続けつつ歌舞伎役者として舞台に立ち続けている。襲名した5年前に比べれば周囲の歌舞伎役者から浮かなくなった。動きもそれらしくなった。新歌舞伎だけではなく古典作品でも勝負できるようになりつつある。立ち回りを見ていて踊りもいけるのではないかとも思った。

そして巳之助。父親である三津五郎を亡くしてスーパー歌舞伎の『ワンピース』で一皮むけた。役者ぶりが格段に上がった。今回は二枚目の役だが遜色なく演じている。海老蔵、猿之助に重用され、菊五郎劇団一員でもある。そして当然ながら踊りも上手い。若い頃は本当に役者としてやっていけるだろうかと心配していたが大きく成長した。今回も手堅い。

さらに児太郎。病で長期に舞台から遠ざかっている父親の福助の復帰はまだ先のようだが、今回は先代の猿之助の相手を次々と演じていた福助を彷彿とさせる活躍をみせてくれた。伝法な悪婆、突然男の声を出して驚かせるコメディアヌぶりとか福助とそっくりだった。巳之助同様にこの人も苦労している人だが、芝居の神様は見捨てていない。

海老蔵は序幕から早替りなどで大活躍なのだが、目に残る先代猿之助のエネルギッシュな芝居から比べると物足りない部分が多かった。歌舞伎の先行作品を取り入れてスピーディーに芝居が進むのだが、全体的に仕掛けがあるのに退屈だったのが不思議。趣向に囚われすぎて本筋のドラマを忘れてしまったからかもしれない。安直な芝居作りと言われても仕方ない。

もっとも輝いていたのは二幕目の最後。アクロバットや映像演出も取り入れ飽きさせない工夫が多数。それらを吹き飛ばすような堀越勸玄くんの登場が全て。花道から一人で登場。花道で見得をして天狗に連れられ秋葉権現に扮する海老蔵の元へ。やがて花道のスッポンから白く輝く衣装で登場。堀越勸玄くんの役は白狐。海老蔵の右手に抱かれるように一気に空中へ。椅子状のものに座り安全ベルトも締めているけれど幼い子供なら泣いてしまっても可笑しくないレベル。

まして幼くして母親と別れなければならなかった事、舞台に立たなければならない事。幼い背に背負いきれないほどの重荷を抱えているのに懸命な芝居。これをどんなに観たかっただろうか、また観せたかっただろうかと思うと泣けて泣けて。そんなおじさんの気持ちを知って知らずか、宙乗りをしながら手を振ったり、自分で考えた台詞を大きな声で言ったりと劇場の大声援に応えた役者っぷりに感動。ずっと勸玄くんばかり観ていたので海老蔵の宙乗りの印象が薄らいでしまったくらい。

その海老蔵、荒事の飛び六方や睨みなど得意技を次々に繰り出したが、一番感心したのは大詰の最後。緋毛氈の三段に上がっての大見得。主な登場人物が着飾って並ぶ中央で刀を頭上にあげていく部分。これは座頭にしか許されない演出。精神的にも肉体的にも過酷な今、よくぞ最後まで大きさを損なう事なく演じ続けてくれたと、そこに大きな感動があった。悲しみは一切見せずに舞台を務める姿は感動的だった。海老蔵大当たりである。
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