収録が始まった。
田中秀幸さん、山口奈々さん、青森伸さんがセリフを口にする……
え?
鳥肌がたった。
長年連れ添った夫婦がいる! マスターがいる! 喫茶店が思い浮かぶ!
テーブルで向かい合いながら、窓の外を眺める夫婦がいる!
僕が書いた登場人物達は、既に僕の手を離れていたが、それはまだまだぼんやりしているものだった。
だが、聞こえてくる会話はどこかに実在する「ある夫婦」だ。
アイスコーヒーが見える・・・。
やばい、泣いてしまいそうだ。グッと堪える。
収録が終わり、田中秀幸さんが話しかけてきてくれた。
「いい作品をありがとう、本をもらった時、嬉しかったよ」
山口奈々さんも
「素敵なセリフをありがとう」
と声をかけてくれた。
お礼を言いたいのは、僕の方だった。
登場人物に命を吹き込んだのは、田中さん、山口さん、青森さんなのだ。
少し業界的な話をすると、この時点で音楽や音はついていない。なのに、この完成度は凄すぎる。
YプロデューサーとKデレクターも興奮している。手応えを感じる。
そして、放送日を迎え、音楽や音が入った完成されたものを聴く。
感無量。
この作品に関わったすべての人に感謝だった。
ツイッターでの評判も良い。
放送終了後、劇場支配人の古川登志夫さんからメールを頂く。
そこには、作品に対する感想、ラジオドラマに対する思いが綴られていた。
ラジオドラマを愛していて、芝居が好きという気持ちが、ビシビシと伝わってくる。
後日聞いた話では、古川さんは放送終了後、感動した思いを伝えたくて山口さんに電話をされたらしい。山口さんも、珍しく古川さんから電話があって驚いたと、聞いている。
納谷さんの『風』 かやくごはんの『棘~トゲ~』 『モンタージュのスキマ』から続いた「マーラー」「夫婦」「死後」をキーワードにした物語は、こうして『最後の言葉』へ繋がったのだった。
そして、ある日、峰不二子役で有名な増山江威子さんが、青山二丁目劇場に初出演するという企画のコンペがあることを知る。青二プロが力を入れている企画で、文化放送もスペシャル企画で放送する予定だ。
是非やってみたい。僕は増山さんだから出来る役、言えるセリフを考える。
そして、『最後の言葉』を思い返す。
僕はあるアイデアを思いつき、コンペに参加した。
後日、Yプロデューサーから連絡があり、なんと僕の企画が採用に!
こうして、『ラストシーン』の制作が始まった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます