離れ人ママキの、奇妙な放浪と生活。

現実と非現実が錯綜し入り混じる。狂気と妄想のカレイドスコープ。

世にも奇妙なカレイドスコープ

2017-04-29 03:26:24 | 小説


部屋の中に飾る物が欲しくなって、アンティークショップに行ってみる事にした。
沿線に小さいけど個性的な店が集まってる有名な所があった。
アフリカかポリネシアの怪しげな神の彫像か凝ったデザインのコーヒー器具みたいのがあればなと思った。

駅の改札口に、街中にあるアンティークショップを紹介するパンフレットが置いてあった。一枚手に取り、好みに合いそうなショップを探す事にした。

その店は何故かパンフレットには記載されてなかった。見つけたのは偶然。
喉が渇いたので、お茶でも買おうと自販機を探しに入った路地裏に入った所にあった。店頭のワゴンに変わったデザインのマグカップが500円均一で売られていた。
マグカップを手にとって、店の中をうかがうと、どうもアンティークショップというよりリサイクルショップに近いようだ。
値段も安そうだったし、場所的に掘り出し物が見つかるかもと思って入ってみる事にした。




店の中は予想していたよりも綺麗だった。高価なアンティークも扱っているようだ。そういうものには縁がないので、僕はもっぱら床に置かれた大きめのカゴに入ってる雑貨を見て回った。
その中に気を惹かれる物があった。長さ30センチ程の筒状の品物。金属製で持ってみると結構重たい。表面にぎっしりと文様が刻まれている。
なんだろうと思って、取り上げてみたけれど何なのかわからない。



万華鏡ですよ。

いつの間にか後ろにいた店主らしい白髪の老人が言った。

古くて、とても珍しい物です。以前はちゃんと棚に置いてあったのですが、なかなか興味を持ってくれる人がいませんで、しょがないので雑貨扱いです。でも、私としてはおすすめの品物です。
それから、しばらくアンティークの買い付けについて変わった話を店主から聞く事になった。お客が来ることもなく、話は長くなった。そうなると何か買わないと悪い気がしてくる。万華鏡の値段を聞いてみると、カゴに入っていた雑貨にしては高いなと思ったけど、予定していた予算の範囲内だった。

いいものですよ。これは、個人が趣味でやられている鏡の博物館の展示品だったものです。展示品としての役目を終えたので買い取らないかという話があったので、買い取らしてもらいました。こんな形で、売り物を手に入れたのは、私としても初めての事でした。アンティークの手鏡とか、いいものが、いっぱいあったのですが、みんな売れてしまい、この万華鏡だけが残りました。でも、私が一番気にいったのは、この万華鏡なんですよ。

僕は万華鏡を買う事にした。店主は、オマケとして僕が店先で眺めていた黄道十二宮の細密画が描かれたマグカップをつけてくれた。

アパートに帰り、部屋に戻るとさっそく、万華鏡を見てみる事にした。接眼部には、蓋が付いていて、無くさないようにだろう細いチェーンが付いていて本体と繋がっていた。この蓋を開けるにはコツがあってショップでは、それがわからず万華鏡を覗くことが出来なかった。
蓋を外して、万華鏡の中を覗いてみる。しかし、何も見えない。万華鏡の中は真っ暗だ。接眼部から目を離し、万華鏡を軽く揺すってみる。カサカサと何かが動く音がする。もう一度中を覗いて見たけど、やっぱり何も見えない。
騙されたかなと思いかけた時、万華鏡の本体中央が動く事に気がついた。その部分を回してみると接眼部が明るくなった。覗いてみると、そこは色と形の迷宮だった。








かなりの時間、万華鏡、つまりカレイドスコープを見ていたようだ。時間の感覚が無かった。接眼部から目を離した後も、赤道直下に現れたトロピカルなオーロラに囲まれているみたいな感じでクラクラした。
写真を撮ってみようと思いついた。接眼部にスマホのカメラを当ててシャッターボタンを押してみる。こんな単純なやり方で上手く撮れるとは思えなかったけど、撮れた写真を見てみると素晴らしい出来映え。
極彩色のビッグバン。あまりの強烈さに長いこと見つめていることが出来ない。ちゃんと見るにはサングラスが必要なくらいだった。
自慢したくなったので、アンティークの素敵な万華鏡を手に入れた事、万華鏡が見せてくれる幻想的な世界の写真をSNSに投稿した。スマホの待ち受け画面に使うのもいいなと思いつき設定する。
オマケにもらったマグカップがあったことを思い出し、コーヒーを淹れてカップに注ぐ。マグカップに描かれた黄道十二宮の細密画も改めて見ると、なかなか良くってコーヒーを飲みながら今日はいい買い物ができたなと大満足だった。

翌朝、昨日SNSに投稿した万華鏡の記事について、何かコメントが届いてないかなとスマホを開いて驚愕した。
スマホの待ち受け画面にあったのは万華鏡の写真では無かった。
万華鏡を持って、何かにひどく驚いた様子の自分の写真。それも、分身写真になっている。正面を向いた写真の両脇に、斜め右後ろを向いた姿と斜め左後ろを向いた後ろ姿の自分が写っている。
何だこれは、いったいどういうことなんだ。スマホの中の他の写真を見てみると、万華鏡の中の写真もちゃんとあるのだけど、その中に自分の分身写真が何枚か入っていた。
一枚の写真の中に、後ろ姿、右横、左横、右斜め前、左斜め前、正面といった具合にいろいろな方向を向いた自分が、何人か一緒に写っている。

万華鏡を手に取り、よく調べてみる。見た目はアンティークだけど、実は覗き込む人の姿を撮って万華鏡の中に投影することの出来るハイテクオモチャではないかと思ったのだ。どこかに単三電池が装填出来るところがあるのでは考えて探してみたけどそんなものは無かった。

それでは、この現象をどう説明する。万華鏡とマグカップを買った時入れてもらった紙袋があったことを思い出した。そこにショップの電話番号とメールアドレスが書いてある。
昨日の話だとこの万華鏡は、鏡の博物館の展示品だったらしい。店主に電話して鏡の博物館が何処に在るのか聞いてみることにした。そこに行けば、この現象について何か分かるかもしれない。
このままにしておけないと思った。スマホに写った自分は何か重大なことを伝えようとしている。それは間違いなかった。何といっても写っているのは自分だし。



鏡の博物館は案外近いところにあった。街はずれに樹齢を重ねた大きな樹をよく見かける小高い土地がある。この街で最も歴史のある所だ。以前は家があって人が住んでいたのはそこだけ、周りは使い道の無い湿地が広がっていた。今はそのほとんどが住宅地に代わり、緑が残っているのは逆に古くから利用されていた小高い土地の周辺だけになった。一部が公園になっている。だけど、この街に住んでいる人はあまり利用しない。来園するのは他所の人が多い。
有名な心霊スポットなのだ。

ここに鏡の博物館がある。アンティークショップの店主に電話で場所を聞いたのは正解だった。そうでなければ、何処に在るのか絶対わからなかった。
鏡の博物館は、かつて畑で使う資材や肥料を保管しておく倉庫を改装して作られていた。小高い土地のはずれにあって樹木に囲まれていた。
青いペンキが塗られた古い木製のドアには表札も看板も無かった。



本当にここでいいのだろうか、疑問を感じながらもドアを開けてみた。
店主の言っていた通り、そこは小部屋になっていて、かなりレトロな自動券売機があった。たぶん僕の父親が産まれる前に作られたものだと思う。
コインを入れてレバーを押し下げると、これはきっと壊れているに違いないと思い始めた頃になって、やっとチケットが発券口にハラリと落ちてくる。
チケットには緑色のインクで鏡の博物館とだけ書かれている。取り敢えず読めるのはそこだけ、後は見た事のない外国の文字がびっしりと並んでる。アラビア語に似てなくもない。

チケットを指に挟み、奥の扉を開けるとそこはもう展示室になっていた。陳列ケースの中には古い時代の手鏡が並べられ、壁には映画でお姫様の部屋の場面で見かけるような、凝った装飾に縁取られた卵型の大きな鏡が掛けられていた。
誰もいない。係員も現れる様子もない。
展示品には、何か説明が書かれているらしきプレートが横に置かれているのだけど、すべてチケットに書かれていたのと同じ見た事のない外国語が使われているので1つもわからなかった。
ここを作った人は相当なこだわりを持っているみたいだ。それは構わないのだけど、せめて日本語のパンフレットぐらい用意して欲しいものだと思う。一応、料金だって払っているわけだし。

細長い展示室を歩いて行き、突き当たりを曲がってすぐの所にステンドグラスの壁があった。その横に黒い扉があって、そこに貼ってあるプレートには、カタカナでカレイドスコープの 部屋と書かれてあった。
やれやれ、やっと意味の分かる言葉に出会えた。あの万華鏡について何か分かるかもしれない。



扉を開けて中に入ると、そこは正三角柱の空間になっていた。天井は高く丸い磨りガラスの窓から自然の光を取り入れるようになっていた。壁はすべて白い珪藻土が塗られているみたいだ。
展示品は1つしかない。青いペンキが塗られたかなりガタがきている鏡台。
見た感じただ古いだけで、特に価値があるものには見えない。



他に見るべきものがないので、青い鏡台の前に行ってみる。鏡台の上には何も置いていない。何気なく引き出しを出してみると、そこには古い万華鏡が入っていた。
昨日アンティークショップで買ったものとそっくりだった。手にとって見てみると細かいキズとか小さなヨゴレまで全く同じだった。まるで鏡に映した物を取り出したみたいだ。接眼部の蓋を外して、万華鏡の中を覗き込む。

そこに見えていたのは、青い鏡台の前に立ち万華鏡を覗き込む自分の姿だった。おそらく、その万華鏡の中でも青い鏡台の前に立ち万華鏡を覗き込む自分の姿が見えていたはずだ。そしてその万華鏡の中でも、やっぱり青い鏡台の前に行って万華鏡を覗き込む自分の姿があったはずだ。それがどこまでも無限に続いていたに違いない。

万華鏡から顔を上げてみると、思った通り周りの壁が鏡に変わっていた。
横を向いていたり、後ろ姿だったり、斜めを向いていたりする自分の姿が分裂し増殖しながら鏡の水平線まで続いている。

閉じ込められてしまった。ここはカレイドスコープの中だ。魔法が解けない限り、この鏡の結晶から永遠に出られない。






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