浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】ポール・ギャリコ『雪のひとひら』(新潮社)

2017-03-13 10:44:24 | その他
 ある冬の寒い日、遙か空の上で、ひとひらの雪が生まれた。そして彼女は、真っ白に覆われた山村に舞い降りた。雪に覆われたそこは、とてもとても静かだった。彼女は、そこで雪のひとひらの生をはじめた。

 雪だるまのひとひらになったり、後から降り続く雪の下に埋もれたり、しかし春になり、彼女はとけてながいながい旅に出る。谷川からだんだん大きな河に入り込み、途中水車でまわされたり、火事を消すホースの中に吸われたり、下水溝から再び大河に流れ込み、そして大海原へ。その間、雨のしずくと結婚しこどもができ、しかし雨のしずくとは死に別れ、大海原に入る前に子どもたちと別れ、そして大海原を漂ううちに熱帯地方で、彼女は昇天する。

 人の一生を暗示するような雪のひとひらの生。その生が、美しいことばに囲まれてたどられていく。そしてその生は、造物主のまなざしのもとで展開されていく。途中、彼女は、何故に私はこの世界に生まれてきたのか、という問いを繰り返す。私とは何か、私の生とは何か。その問いに、造物主は応えてはくれない。造物主は「沈黙」を守る。

 しかし彼女は、昇天を前にして、思う。

 「むなしく生まれてきたのではなかった」

 「雪のひとひらは、自分の全生涯が奉仕をめざしてなされていたことを悟りました。彼女は野の花をうるおし、蛙を憩わせ、魚を泳がせ、人々のパンのために水車をまわし、火事を鎮め、巨大な艦船の運航をたすけたのでした。生まれおちてこのかた、彼女の身に起こったあらゆることどもの裏には、何とまあ思慮深くも周到な、えもいわれず美しくこまやかで親身な見取図がひそんでいたものでしょう。いまにして彼女は知りました。この身は、片時も、造り主にわすれられたり見放されたりしてはいなかったのです。」(96~7)

 「だれひとり、何ひとつとして無意味なものはありませんでした」(98)

 彼女が消えるとき、彼女はなつかしいやさしいことばを聞く。

 Well done,little Snowflake.Come home to me now.

矢川澄子さんの訳は、「ごくろうさまだった、小さな雪のひとひら、さあ、ようこそお帰り」。

私は、「よくやったね、小さな雪のひとひら、いま、帰ってきたのだね、お帰り」。

 美しい文、雪のひとひらへのやさしいこまやかな愛情、字のつながりが、こころを洗う。

 キリスト教の信仰を背景にした短い物語ではあるが、生を考える契機にもなる。

 Well done よいことばだ。私はキリスト教徒ではないから、造物主はこういうことばをかけてはくれないだろう。だが、私は、自分自身に向けてこのことばがかけられるような生をおくりたいと思う。

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