浜名史学

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『信濃毎日新聞社』の社説

2017-06-16 21:28:21 | その他

共謀罪法成立 民主主義の土台が崩れる


 議会制民主主義を破壊しかねないやり方で共謀罪法が成立した。参院法務委員会での審議を与党が一方的に打ち切り、本会議での採決に持ち込んだ。

 加計学園問題での追及を避けるため、会期は延長しない。共謀罪法案は何としても成立させる―。政権の意向に従い、「中間報告」という奇策で委員会採決を省く強硬手段に出た。

 国会議員は、主権者である国民を代表する。数の力に頼んで反対意見を封じる姿勢は、立法府の存在意義を根本から損ない、国民をないがしろにするものだ。



   情報統制と監視強化

 どう洗い出したのかはっきりしない277もの犯罪について、計画に合意しただけで処罰を可能にする。実行行為を罰する刑法の基本原則を覆し、刑罰の枠組みそのものを押し広げる。

 内心の自由や表現の自由を脅かし、民主主義の土台を揺るがす立法だ。個人の尊厳と人権を重んじる憲法と相いれない。

 戦時下、思想・言論を弾圧した治安維持法に通じる危うさをはらんでいる。政治権力によって異論や抵抗が抑え込まれていく、息苦しい社会を再び招き寄せないか。懸念が膨らむ。

 政府が持つ広範な情報を隠し、漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法、固有の番号で個人情報を管理するマイナンバー制度…。情報を管理・統制し、監視を強化する法整備が安倍晋三政権の下で次々と進められてきた。

 改定された通信傍受法は、対象犯罪を拡大し、捜査機関への縛りを大幅に緩めた。憲法が「通信の秘密」を保障しているにもかかわらず、電話などの傍受(盗聴)が市民の活動や生活に広く及びかねない状況になっている。

 そして共謀罪によって、監視国家化は一段と進むだろう。



   弾圧が強まる怖さ

 まだ起きていない犯罪を取り締まるには、「危険」とみなした組織や個人の動向を常日頃からつかんでおくことが欠かせない。通信傍受のほか、室内に盗聴器を置く「会話傍受」の導入を求める動きが強まりそうだ。

 ひそかに市民の情報を収集して思想信条を調べる、協力者を送り込んで組織の内情を探る、といった公安警察的な活動を正当化する根拠にもなる。その実態を把握する仕組みはない。

 公安警察による人権侵害はこれまでも度々表面化してきた。2010年には、イスラム教徒を広範に監視していたことを示す内部資料が流出している。

 岐阜では14年、風力発電施設の建設に反対する住民らの情報を集め、事業者と対応を協議していたことが明るみに出た。警察庁は国会で「通常の業務の一環」と答弁している。住民を見張ることが警察の仕事なのか。

 市民運動を敵視するような警察の姿勢も目につく。沖縄では、米軍基地反対運動のリーダーが器物損壊などの疑いで逮捕、起訴され、5カ月も勾留された。現場で抗議行動に参加する人たちの強制排除も繰り返されている。

 共謀罪は、市民運動へのさらに厳しい弾圧につながりかねない。適用対象の「組織的犯罪集団」とは何か。何をもって合意したと判断するのか。核心部分はぼやけ、裁量の余地は広い。警察権限が歯止めなく拡大する恐れがある。

 誰か1人でも「準備行為」をすれば、合意した全員を一網打尽にできる。何が準備行為にあたるのかも曖昧だ。資金・物品の手配や下見を例示しているが、日常の行為とどう見分けるのか。

 基地建設を阻もうと座り込みを計画した人たちが、組織的な威力業務妨害の共謀罪で一掃されることさえ起こり得る。原発再稼働や公共事業への抗議を含め、政府の方針に反対する人たちが標的にされる心配がある。



   廃止を見据えつつ

 密告を促す規定も人を疑心暗鬼にさせるだろう。目をつけられないようにしようと人々が縮こまり、口をつぐめば、民主主義は窒息してしまう。

 共謀罪法案は2000年代に3度、廃案になっている。政府は今回、「東京五輪に向けたテロ対策」を前面に出したが、法案にその実体はない。五輪、テロという“錦の御旗”の陰で、国民を監視下に置く体制の強化が進む。

 テロを防ぐためなら仕方ない、と思い込んで、監視が強まっていくことへの警戒を怠れば、権力の暴走は止められなくなる。プライバシーの不当な侵害は、個の尊厳を脅かす。

 共謀罪が民主主義と両立しないことは明らかだ。廃止を見据えつつ、人権侵害や市民運動の弾圧につながらないよう、運用に目を光らせることが欠かせない。

 安倍首相は、9条に自衛隊を明記することを含め、20年までに改憲を目指すと表明した。権力の強化は憲法を空洞化するとともに、改憲に結びついている。政権の動きに厳しい目を注いでいかなければならない。

(6月16日)
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