浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】松下竜一『ルイズ 父に貰いし名は』(講談社文庫)

2016-12-10 09:20:48 | その他
 松下竜一の作品には、失敗作はない。すべて名文である。彼の本は、「松下竜一 その仕事」として、河出書房新社から発売されているが、私が読んだこの本は講談社文庫。1985年刊である。書庫の中にあったのだが、購入したときに読んだのかどうか。おそらく読んでいなかったのだと思う。

 読み終わった後、表現できないような感慨にふけった。

 大杉栄・伊藤野枝との間に生まれた子どもたち。その両親は、国家権力によって殺害された。この殺害は、今以て未決であるが、しかしであるが故に、幼い子どもたちに大きな重荷を負わせることになった。

 いつでもつきまとう大杉と野枝の子どもという事実。無数の差別の視線が、彼らを射る。そのなかを生きていかなければならない。

 もちろんこの本は、大杉がルイズとなづけた伊藤ルイを中心に記されているが、魔子ら他の姉妹のことも記されている。中でも魔子についての記述は多い。長女として生まれた魔子は、両親に関する記憶を多く持っているが故に、両親をこころのなかに閉まっておくことはできなかった。いきおい、大杉と野枝の子であることを、堂々と示して生きていかなければならなかった。外見では、強く装うしかなかった。しかし内面では、他の姉妹と同様に、つねに生き方に掣肘を加そのいきかたもえられる。それだけでなく、自分自身を抑圧しながら生きていかざるを得ない。

 その苦しさが、ルイと魔子に関して記されている。

 ルイは、その苦しさに耐えながら、しかしその苦しさを直視し、それを醸成する中で自らの生き方を発見していく。その発見は、同時に大杉と野枝の発見でもあった。みずからを生んだ親としてではなく、あの時代を生きた先達として、他者として発見していった。

 野枝は、誰憚ることなく、自らの生を追求し、創造していった。そういう生き方は、なかなかできるものではない。私自身も、それができないから、野枝の生き方にまぶしさを覚える。野枝が生きた時代、そうした生き方を理解できた者は少ないだろう。だからこそ、そうしたものを押しのけてでも生きていった。

 ルイは、みずからの生き方を発見した後、日本各地の人々との交流の中で、みずからの生を育み、彼らに支えられ、また創造していった。その生き方もまた、まぶしい。

 野枝の時代は、しかし、そういう人々は圧倒的に少なかった。孤立無援、孤軍奮闘。厳しい時代であった。その厳しい時代は、野枝のような生き方を許さなかった。

 もうルイさんも亡くなった。大杉や野枝の孫たちも、すでに高齢期にはいっていることだろう。

 大杉・野枝の虐殺から90年以上も経過しているが、しかしこの事件は今も未決のままである。
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