浜名史学

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『西日本新聞』社説

2017-06-16 21:35:20 | その他

「共謀罪」法成立 憲政史上に汚点残す暴挙

2017年06月16日 10時47分



 市民社会を脅かしかねない法律が十分な審議を経ないまま、奇策に類する手段によって成立した。これを暴挙と言わずに何と言うのか。議会制民主主義の放棄、国民無視も甚だしい。自民、公明の与党は憲政史上、取り返しのつかない汚点を残したといえよう。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法がきのう、参院本会議で与党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。与党は「中間報告」という手続きで参院法務委員会の採決を省き、本会議の採決を強行した。

 ●「禁じ手」の中間報告

 国会は委員会の審議と採決を経て本会議に議案を付すのが原則だ。委員会が専門的に審議し、論点を深めるのが狙いである。例外として国会法は、衆参各院が特に必要とするときは委員長らに審議の中間報告を求め、それを受ける形で本会議の審議を認めている。

 臓器移植法やその改正法で、ほとんどの党が死生観に関わるとして党議拘束を外したため、本会議で議員個々の判断に任せようと中間報告をしたのが代表例だ。

 今回は特別の事情などない。与党は改正処罰法を成立させて国会を早く閉じたいだけだ。文部科学省の再調査で「総理のご意向」文書が確認され、安倍晋三首相が矢面に立つ学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題で野党の追及を避けたかったのだろう。

 公明党が重視する東京都議選の告示も23日に迫っており、18日に会期末を迎える今国会は延長せず閉じるに越したことはない。いわば「禁じ手」の中間報告による採決強行は、首相と与党の事情を優先した結果である。

 衆参両院で単独過半数を占める巨大与党の「自民1強」に支えられ、首相の在任日数が戦後3位(第1次政権を含む)になった長期政権だからこそ成し得た強権的な政治ともいえるだろう。

 今回の「共謀罪」法成立が、いわば1強政治の頂点となるのか、それとも、首相が悲願とする憲法改正へつながる潮流となるかは、なお予断を許さない。

 政府は「東京五輪に備えたテロ対策」「組織犯罪防止の国際条約締結のため」と主張した。テロ対策や国際条約と言えば国民の理解が得やすいと考えたのだろう。

 対象犯罪は277もあり、テロと無関係と思われる森林法や商標法などを含む。条約はマフィアなどの経済犯罪防止が目的で、現行法で締結可能との指摘もある。

 結局、政府から明解な説明はなかった。いくら「テロ対策」と力説したところで改正法は実質的に国民や野党の反発を浴びて過去3回も廃案になった共謀罪の焼き直しにすぎなかったことを物語る。

 多くの人は「テロや組織犯罪とは無関係な市民に影響はない」と考えるだろう。だが金田勝年法相らは「一般の団体が組織的犯罪集団に一変した場合に構成員は一般の方々でなくなる」と答弁した。

 一般の団体がいつ組織的犯罪集団に変わるか、捜査当局の市民監視は強化されるだろう。しかも組織的犯罪集団の定義は明確でない。法相は「組織的犯罪集団の構成員でないと、犯罪が成立しないわけではない」とも語った。捜査対象は当局の恣意(しい)的判断でいくらでも拡大する。

 ●権力の暴走を許さず

 安倍政権は、国民の知る権利を侵害しかねない特定秘密保護法、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法に続いて、市民社会を萎縮させかねない今回の改正法も強引に押し通した。野党の反対、国民の不安、専門家の懸念を「数の力」で一蹴する政治手法は共通する。

 しかし、このまま市民が縮こまってしまってはいけない。国家権力や捜査当局がどんなことをしようとしているのか、逆に私たち市民は監視していく必要がある。

 2003年の鹿児島県議選で公選法違反に問われた12人全員の無罪が確定した志布志事件、16年の参院選で大分県警別府署員が野党の支援団体が入る建物の敷地に隠しカメラを設置した事件など不正捜査や冤罪(えんざい)事件は後を絶たない。

 国家権力や捜査当局の暴走を許してはならない。憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の三大原理をよりどころに、物言う市民であり続けたい。また私たちは、そんな市民を支え、守るメディアであり続けたいと思う。


=2017/06/16付 西日本新聞朝刊=
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