浜菊会のブログ

半泣き老狼団。一道民が生き抜く為の記録。

原子力発電に係る政策提言について~3

2012-07-20 18:42:22 | 原発政策提言
(続きです)


【補論】


1)原油、天然ガス等の輸入増と貿易赤字

 震災後、原油やLNGの輸入が増加したのは事実である。ただし、データをもうちょっと見てゆくと、違った側面が読み取れる。
 2010年よりも2011年では、「原粗油と天然ガスの合計輸入額」は増加していた。金額としては約3.3兆円である。貿易赤字は約2,56兆円だったので、報道ではこれら燃料輸入が増加したことを主因として挙げられていた。すなわち、原発を止めたせいで燃料輸入が増えて貿易赤字となった、という理屈が報道などで散見された。

 しかし、輸出額が約1.85兆円減少していたこと、輸入額が約7.35兆円増加していたこと(燃料輸入増加以外に約4兆円分の増加)、この2点が関係しているのであって、必ずしも原発停止の影響ばかりとは言えない。貿易赤字発生をあたかも原発停止に起因するかのように主張(報道)するのは、極めて偏った意見であり、データを無視しているものである。


2)燃料輸入量は大幅に増加したか

 結論から言えば、必ずしもそうとは言えない。単純に2010年と2011年を比較すると、火力発電用燃料の約半分を占める石炭は輸入量が減少、原粗油も同じく減少した。増加したのはLNGであり、約12%の増加となっていた。2005年を基準年として、100とした場合の2011年までの輸入数量の相対値を記す(天然ガスにはLNGの他、液化石油ガスなどが含まれる)。


     石炭   原粗油   天然ガス
2005   100    100    100
2006   97.5    99.2    106.9   
2007   102.8   96.3    112.3
2008   105.4   97.2    115.5
2009   88.4    85.6    107.0
2010   101.0   86.3    114.5
2011   95.9    83.9    126.8


 ここから分かることは、石炭と原粗油は、趨勢的に増加というよりむしろ減少傾向であって、原発停止後に急増しているわけではない。更に、中東情勢がリスク因子として挙げられるが、原粗油に関しては中東依存度が高いと言えるが、天然ガスについては原油ほど高いわけではない。すなわち、原発停止で中東依存度が高いことによるリスク増大といった議論は、不適切である。逆に、過去7年間では最低の輸入量であった、というのが事実である。

 同時に、原粗油の輸入額増加は、数量要因ではなく価格要因である。輸入価格が上昇したことによる影響であって、数量は減ったことに変わりがない。

 また、LNG等天然ガスは趨勢的に輸入数量が増大してきている。原油の高騰という価格要因、温暖化対策という面、更にはエネルギー効率の向上、といった複数要因が考えられる。何故なら、震災以前から、既に輸入数量増加が始まっているからである。1995年水準との比較(長期的変化が観察できる)では、石炭が139%、原粗油は79%、天然ガスは157%(2010年時点でも142%)であった。つまり、石炭は年率換算で約2.3%増加、原油は約1.2%の減少、天然ガスは約3.4%の増加、ということである(中でもLNGが大きく増加しており、約4.9%の増加。原発を停止していない2010年時点で見ても、LNGは年率約4%の増加であったので、趨勢的には大きく変わらない)。


3)発電用LNGのエネルギー効率改善が全体を改善する

輸入LNGの約7割が発電用として燃焼されているとすると、個々の需要家レベルで燃焼させることによって、エネルギー効率が改善される。具体例として数値で示すと次のようになる。

輸入LNG 1000
 家庭用等個別需要 300
 発電所で使用   700 → 電力 280(損失60%) →エアコンなど

 従来の発電所で発電用として燃焼させると、700のうち電力として取り出せるのは最大でも約40%分、280しかない。これを用いて、エアコンで暖房するとロスが大きい、ということである。
 これを暖房用や給湯用の灯油や重油等の石油類の消費を抑制することと同時に、コージェネレーションで発電を行えば、同じLNGの燃焼であっても熱エネルギーとして利用する分と発電の両方が取り出せることになるので、個別の需要家に近い部分で燃焼させる方がエネルギー効率が高いはずであろう、ということである。

これまでの

 ①暖房・給湯用灯油+②発電所で使用する発電用LNG

と比較して、 

 ③コージェネ用LNG+④発電所で使用する発電量LNG

の方が高効率だろう、ということだ。


特に②の量と③+④合計量の比較がポイントとなるであろう。発電段階でロスの大きい電力を用いて暖房するのは効率が悪くなる、ということである。これは地域差が大きいはずなので、個々の地域特性に合わせたエネルギー戦略が求められる。



◆小括

・貿易赤字(約2.56兆円)の要因として、輸出減少(約1.85兆円)がある

・同じく、燃料以外の輸入額増加の方が大きい(約4兆円)

・石炭と原油は輸入数量が減少した

・燃料として増加したのはLNGだけ

・LNG増加は原発停止以前から

・原油は原発稼働時代より大幅に減少した(05年比-16%)

・発電用LNGはエネルギー効率が低い(約40%)

・コージェネレーションではLNGの効率が極めて高い(約9割)



すなわち、報道ベースでは、間違った説明が殆どである。





コメントを投稿