吃飯了マ? ~ごはん食べた?~

鷲津とめぐみの金融ラブストーリー

夜からの脱却について 4

2009年04月02日 | 創作小説
エレベーターから降りると、「よお」と親しげに声を掛けられた。

「女の子の部屋に突然やって来るってどうなんですかねえ」
「差し入れあるんだけど」

李とリチャードと鷲津の3人。
李がビニール袋をごそごそとかき回して、私に手渡したものは「たこ焼きの粉 関西だし風味」だった。
「たこ焼き機も買ってきた。ほら、早く家の鍵開けろよ。俺たちがここにどれだけ待たされたと思ってるわけ。脚が棒だよ」
「ちょっと。あんた…好きなことばっか言いなや」
そう言いながらも、私は彼が足元に置いているダンボールに目を向けていた。

~便利!24個いっきに作れるよ!~

「すいません。急に押しかけちゃって」
リチャードがしょぼんとした姿で頭を下げる。
「リチャードさんだったら大歓迎ですよ。私、オトコマエって大好きだから。はい、どうぞ~」
鍵を開けてマンションのドアを開ける。
靴を脱いで明かりをつけて、ふと思う。
「あ、荷物届いてたみたいなんですけど。いさ子さんからの」
「荷物?なんだろうな」
「私、お礼も言いたいから今から電話してみますね。鷲津さんにも代わりますから」
「えっ、いいよ。別に」
「いいから。いいから」
「とりあえず、そのたこ焼き機は居間に運んでね」
「はいはい。人遣いが荒いね」
李がぶつぶつ言いながらも、居間に荷物を運び入れている間に携帯から鷲津いさ子さんの家にコールした。コール3回目で相手が出る。
「もしもし」
少し語尾が上がった、いつもどおりの…
「いさ子さん。私です。こんばんは」
「あら~。西浦さん。荷物、届いたの?」
「はい。どうもありがとうございます。なんだか色々お世話になってしまって」
「いいのいいの。もうね、息子が自発的に女の子の話するんが嬉しいから」
「いえ。あの、マンションを貸してくださるという話なんですけど」
「いいのよ。あの子つかってないでしょ。私もそこ売ろうかと思ってたんだけどね、あの子の名義だから勝手なこと出来ないし、ほっといたのよ。だから、気にしないで、勝手に使っちゃって」
「あの…家賃とかって」
「なによ。あの子金取るって言ってる?いいのよ。気にしないで。稼いでるんだから。使い道なさそうだから溜め込んでるわよ。せいぜい貢がせてやればいいじゃないの」
容赦ないな、この母は。たじたじになっている私を見かねて、さっと横から手が伸びてきて電話を奪った。
「あのさ、この人困ってるからあんまりポンポン喋るなよ」
「何言ってんのよ。付き合いは私らのほうが長いねんで」
「そうかもしれないけどさ。…もう切るから」
「えっ、もう!?」
この言葉は私といさ子さんの言葉です。
鷲津さんは次の瞬間には携帯電話から指を離して私の手の中に戻していた。
「はい。苦手なんだよ。母親」
「だからってそんな…」
もうちょっと話をさせてよ。お礼もまだろくにできてないのに。










夜からの脱却について 3 幕間

2009年04月02日 | 創作小説
増田武彦のブログより

読者のみなさん、お久しぶりです。
宣言通り、アメリカですごい噂仕込んできましたよ。
これからクル銘柄、というか山ね。金鉱山!鉱山を買うべきなんじゃないかって最近思っててそのことを恩師のキムたちに相談した結果「ゴー!」の判子をいただきました。
やったね(^▽^)

そして、ある投資銀行のディーラーと偶然レストランで会いました。このレストラン、最近NYにも店を構えたばっかりなんだけど、緑茶のテイスティングとかしてくれんるらしいんで一回は行きたかったんだよね。で、空き時間に一人でぶらっと行ってきたんだけど、すごい待たされてさ。もう、他の店でもいいかなって思ったときに上記の人物が店から出てきたのです。
高そうなスーツ着てて、靴もピカピカ。金持ってるディーラー特有の空気醸してましたよ。仮にミスターAとしておきましょうか。。

ミスターA曰く、いま一番稼いでるのはATGのディーラー(自己売買部門)連中らしい。
A氏自身はNY銀行のCDS系のディーラーなんだけど、どうも今度本国ATGが日本に送り出したワシズ君という投資ファンドマネージャーに注目しているらしいのだ。名前からいって日本人らしいけど、僕は知りませんでした。どういう経歴の男なの?って聞いたらもともとは日本の銀行マンだったらしいのだが…。そんなすごい人間がそういうところから出てくるんだなあ。最近は。知的なエリートってやつなのか?それとも嗅覚が優れているタイプなのか?
とにかく日本に帰ったらチェックしてみようと思ってる。
でも、日本でもだいぶファンドマネージャーって広く認識されるようになりましたね。
ワシズ君も日本で雑誌なんかには取り上げられたらしいし、僕も早く日本に帰って新しい情報をみんなと交換したいな。

ということで、次回のブログ更新は3日後の予定。よろしく。





夜からの脱却について 2

2008年10月14日 | 創作小説
ぐったりと身体を横たえてしまいたい。

管理人の武田さんに挨拶をして、マンションのエレベーターの昇降ボタンを押す。少し、あわてた声で私の名を武田さんが呼んだ。
「ごめん。西浦さん。今日荷物の配達あったからね、代わりに受け取っといたよ」
「荷物?」
新しい家具や電化製品は休日に配達してもらえるように要望を出してあるから、こんな平日にやってくるわけがない。だいたい、新しい住所を実家の両親にも教えていないのだから。
「すみません。どこからの荷物でしょうか」
「これこれ」
武田さんが差し出したのはピンクの包み紙でラッピングされたごついダンボール箱だった。なになに…差出人は「鷲津いさ子」鷲津…。あぁ!
「奥様からだね」
「そうですねえ。これ、なんだろう」
「引越し祝いじゃないのかい」
「えっ、だったらお礼しなきゃ。私まだ部屋のお礼もろくすっぽできてないんですよ」
「だめだよ~。よくしてもらったら、すぐにお礼しなくちゃ。こんないい部屋貸してくれるんだからさ」
「そうなんですよねえ。仕事が忙しいとか言ってる場合じゃないわ」
「うんうん。あ、それとね、君にお客さん来てるよ」
「お客?上に?」
「下でお茶飲んで待てばいいのにって言ったのに、上で待つって聞かなくてさあ。まあ、男4人も管理人室に詰め込んだらパンパンだけどね」
「あの、誰が来てるんですか」
「いや、だから。その息子さんのほうだよ」
「あ、鷲津さんが来てるんですか。なんでだろ」
「一人じゃなかったけどねえ」
「ふーん。なんだろうなあ」
「まあ、早く行ってあげなよ」
「はーい。すいません。ありがとうございました。おやすみなさ~い」
「はい、おやすみ」
鷲津が来ている。
なんだろう、私最近あの人のこと考えると、ちょっとドキドキするような気がするんだよな。いや、まあ気のせいなのかもしれないよ。多分、まあ気のせいなんだろうけど。




人物紹介1

2008年10月13日 | 閑話休題
どうもすいません~
月1更新を心がけてはいるものの、先月は気力が湧かなくて更新できませんでした。下げ相場の物語を書いているうちに、本当に下げ相場に突入しちゃうしで、なんか縁起が悪いですよね…

今回はおまけ更新って感じ&自分でこのブログ小説書くときの頭の整理のために、登場人物の人物紹介入れておきます。
これやらないと、自分でも、もう何がなんだかわからなくなってきてやばいので…今後追加もしていくかと思われます。

○西浦めぐみ
このお話の主人公。性別・女性。28歳。出身は関西圏。
大学ではアジア文化研究が主な勉強分野だった。専攻は中国語。日常会話レベルなら話せる。
卒業後に山本証券に入社。
リテール営業を6年経験した後に東京転勤となる。
現在は東京投資相談インターネットセンター・センター長代理。

○鷲津達彦
このお話のヒーロー。それでいて、この恋愛小説においてヒロインのお相手になる(はずの)男。
性別・男性。36歳。独身。未婚。
大学で経済学を学んだのち、日本で一番大きなシティバンクに4年勤めて外国へと渡った。
ATG投資銀行リサーチ部門に配属されたが、そこから大抜擢で自己投資部門→投資ファンド部門(アジア)のファンドマネージャーに。
現在アジア部門のなかの独立した組織「日本支社」を任されている。
以外に小食。


夜からの脱却について 1

2008年10月13日 | 創作小説
ボーナスも期待できないこんな時期に引越しするなんて、あんたも大変だねと総務部の皆から慰めの言葉をもらった。しかも、営業部長が経費削減の一環として「エコロジー会議」というものを開催しようと思っていて「西浦めぐみ」を呼ぶって言ってたよ、なんておまけ付だ。
そのうえ、相場の下げ幅がひどくて東証・大証ともに15分間のシステム停止で、現在ネット顧客が一斉に相談センターに押しかけている。鳴り止まない電話を一本ずつ捌きながらも、頭の中では貯金通帳の残高を必死で計算していた。
「会社のMMFの残高が300万で銀行の普通預金が15万。郵便局に200万で…。これって、この歳の女にしては多いの?少ないの?よくわからんなあ~」
「すいませ~ん。代理、ちょっといいですか。なんか今日やたらFXの資料請求多いんですけど、面談手伝ってもらっていいですか。今日センター長それどころじゃないみたいで」
「ん、代理って私のこと。あ、そうか。うん、いいけど」
「すんません。いちおう説明は一通りしてます。初心者じゃないみたいなので、即口座開設させて欲しいらしいんですけど」
「飯島さん、それってダメだよね」
「そうなんですけど、ちょっとややこしい感じなんで…お願いします」
「外線何番なの?」
「23番です」
「わかりました」


一仕事終わった後のお酒って格別なんじゃなかったっけ?
でも、ここにいるメンバー全員は精魂尽き果てたって感じだね。
就業時間もとうに過ぎた夜の八時半。いつもは人もまばらなオフィスだけれども、今日は比較的沢山の人間が残っていた。
我らが東京投資相談部インターネットセンターではカップ酒片手にセンター全員(総員5名)で「お疲れ会」が敢行中である。


「ほんとに疲れました~。入社して一番忙しかったのが今日じゃないかって思いますもん」
と言うのは最年少・森本奈津。小柄で目がグリグリした女の子だ。好きな色はピンク。文房具はほとんどがネコのキャラクター入り。いわゆる今時の女の子かと思ってたけど、駅の本屋で経済誌をレジに持っていくのを見かけた。まあ、証券会社で働いてると、そういう変なバランスつくよね。
「投信や外債の解約相談、かなり多かったみたいだけど」
「私、その電話とってないなあ。でも電話取るたびに投信の解約相談だったらどうしようって思いましたけどね」
「確かに。扱ってる数が多すぎて、『世界中のお財布と幸福の金貨って大丈夫なんですか』なんて急に言われてもピンと来ないよな」
「ふふ、変な商品みたいよね」
「あの愛称って微妙なんですよね」
「しょうがないわよ。愛称じゃなかったら漢字で10文字とかだよ?もっとややこしいって」
「でも、解約じゃなくて、買い付けの相談とかもありましたけどね。ソブリン債権とかは人気なんじゃないですか」
「格付け高いと安心…なのかな」
「今債権も売られてるらしいですけど」
「外人の換金売りらしいって」
「うーん。どうするのが一番いいんだろうなあ」
「それがわかれば苦労ないって」
「ですよね~」

ふかいため息に包まれるオフィス。
今日はここいらでお開きとしますか。






フォースの力 2

2008年08月30日 | 創作小説
三連休はひたすら動き回っていたように思える。マンションの管理人さんや住人に引越しの挨拶にも行ったし、近所の探検、もとい散策にもでかけた。ここは閑静な住宅街なのだが、自転車で10分も走ると家族連れが訪れる大きな公園がある。そこを中心として、郊外型の中型SC。大型のホームセンターに本屋さん。なかなか便利である。
私はここで、新しい電化製品を購入した。たな卸し在庫セールというのにたまたま直面して思わずカードをきってしまったのだ。テレビは奮発して27型を買った。電子レンジは迷った末にオーブン機能搭載型を買った。レンジ単体より3000円高いだけだったし。まあ、料理なんてほとんどしないんだけどね。
まとめ買いが功をせいして、合計金額から10%の割引を適用されてしまった。もともとは、しなくていい買い物だったわけだけど。

連休明けに出勤すると、今まで、あまり話したこともない第一営業部所属の大島という若い営業マンが話しかけてきた。
「大丈夫だったんですか?あの、事件」
「えっ、ああ。あれ?」
「だって、西浦さんの住んでる棟でしょ。あの高校生が薬物乱用してたの。爆発事故が起きたってニュース、心配してたんですよ。現場に走っていったんですけど、西浦さんはいないし」
このオトコ、なんで私の住んでるマンションを知ってるんだ?現場に走っていった、ってなんだ?
「もしかして、気づいてなかったですか?」
何を?
「僕も、あそこに住んでるんですけどねー」
えっ、嘘。
「これ、ホントの話です。何回か駅に向かう道でも会ってますよ。でも、西浦さんっていっつも音楽聴いてて、なんか話しかけにくい雰囲気なんですよね~。それで、僕も言い出せなくて」
「そうだったんだ~。ごめん。私、なんかよくそういうこと言われる」
「あ、そうなんすか。でも、話してみたらちょっと印象変わりますね」
「そう?」
「うん。大分ね。それよか、あの棟の人ってどうなったんですか?立ち退きって聞きましたけど」
「それねえ。まあ、ちょっと友達に協力してもらって新しいマンション見つけたんだ。この三連休はずっと部屋の片付けしてた」
鷲津から貸してもらったあのだだっ広いマンション。毎月の家賃、は適切な価格では払えそうにもない。そういう意味での話し合いをなんらしていなかった。だいたい、こちらの連絡先は伝えたのに、こちらは鷲津の連絡先も知らないのだ。
(そうだ…。いさ子さんにもお礼の電話せんなあかんな)
「じゃあ、総務部に行って住所変更しないといけませんね。新しいマンション、どこなんですか」
「えっとねえ、0駅の近くなんだけど」
「へえ、いいとこじゃないですか。家賃高くないですか」
「うーん。まあ、ね」
まさか、本当のことをここで言うわけにもいかない。私は大島に曖昧に笑いかけると朝礼前に総務部へと向かった。





フォースの力 1

2008年08月30日 | 創作小説
荷物を運ぶのには手間取らなかった。だって、ほとんど荷物なんてなかったから。

家具はほとんどが使い物にならない状態で、全部諦めることにした。ダイニングのテーブルは5万もしたのに。奮発したのに。カードの支払いが終わったのなんて、ほんの先月のことなのに。信じられない。一人の部屋でずっとぶつくさ言っていた。
テレビとか、電子レンジとか、冷蔵庫などの電気製品もいかれてた。洗濯機はセーフ。お風呂場は無事だったみたい。おかげで、タオルや下着類は無駄にせずにすんだ。
いらいらしていても仕様がないので、大家さんから紹介してもらった引越しトラックに少ない荷物を積んで、鷲津のマンションにまで運んでもらう。
「すいませんね、急にこんなことになってしまいまして…」
「いえ、そんな。まあ、困りましたけど」
でも、大家さんのほうが可哀想、なのかな。私たちが出て行った後の部屋はどうなるんだろう。全部リフォームしちゃうとか。それでも、こんな事件があったところって風評被害が大きそう。
「あの、短い間でしたけどお世話になりました」
大家さんに頭を下げて、私は足早にその場を立ち去った。


夜、ふたりきり その3

2008年08月23日 | 創作小説
気がつくと朝の5時半だった。
至近距離に鷲津がいる。ほんのすぐそこ。5センチも離れていない。
昨日の晩、私たちはウーロン茶4リットルで「出来上がって」しまったのだ。何がそんなにおかしいのかわからないが、鷲津はずっと笑っていた。得意な物真似も披露してくれた。「岸辺に上がったカバの親子」と「中国人の飲食店でのオーダー」っていうやつ。
正直そんなにおもしろいのかよくわからない精神状態の私だったんだけど、大笑いしてしまった。お返しに私も「名古屋弁で話す同期の物真似」という思いっきり内輪ネタで対抗。
その後も、ピスタチオをどれだけ早く殻から出すことができるか競争したり、缶詰に貼ってあった応募シールをはがして私のメモ帳に貼り直したりした。懸賞葉書に貼って投函すると、一等賞で可愛くもないブタの人形が当たるらしい。
「こんなん当たってもいらへんわ~」と言うと、鷲津は「だったら、僕のオフィスに飾ったるわ」と砕けた関西弁でおどけた。

「それにな、君の指」
「うちの指?なに」
「僕が昔持ってたカバの人形の指みたいなんやわ~。こう、ふっくらしてて、やわらかくってなあ」
「カバぁ?ホンマに鷲津さんはカバ好きなんやなあ、さっきの物真似といい…」
「いやあ、触らせてもらうわ~」
そう言うと、むんずと私の指を掴んで、ひと撫でした。
「ぽちゃぽっちゃやな!」
「でかい声だすな!」

おお、思い出すだけで赤面もんかも。
だって私たちこのテンションで「素面」だったのよ。

で、気がつくと今。

二人して床に色気もなくごろ寝していた。おでこをくっつけるかのようにして。まるで学生だ。

よく見ると、彼のまつげは物凄く長い。なんかズルいな。肌も白いし。でも、男の人だから、うっすらと髭が見えた。そういうのを見ると、途端に現実に引き戻されてしまう。
起きなきゃ起きなきゃ…と私は床から身体を引っぺがす。

さてと、今から引越し準備か。


夜、ふたりきり  その2

2008年08月23日 | 創作小説
私の買い物籠の中を見て呆れている。
「だめですか、これ」
「だめじゃないが」
軟骨のから揚げに、揚げ出し豆腐。ビーフジャーキーにピスタチオに裂きイカ。
「当たり前田のクラッカーも欲しいとこなんですけど、ここ置いてないみたいなんで」
「ピザとか…買っていいかな」
「あ、いいですよ」

あれから二人でやってきたのは、マンションから歩いて2分という立地最高のコンビニ。規模はそう大きくはないけれど、雑誌とデザートは充実している。まあ、その分お弁当類と酒類は少ないんだけど。おかげで、おつまみの類も隅に追いやられていた。
「メインターゲットは働く女性、って感じなんかなー。このお店」
「そうかもしれんが、最近は男性もデザートを好むからな」
そう言った鷲津の視線の先には巨大プリン。プリン好きなんかな。
「買いますか?プリン」
「胃もたれしそうな大きさだな。やめとく」
「ふーん。そういえば、ここ。カレー煎餅も置いてないみたいなんですよ。ちょっとイマイチですよね」
「君は…ウーロン茶にそのアテをあわせるつもりなのかな」
「そうですよ。明日朝から忙しいだろうから、酔ったらだめかなと思いまして。鷲津さんはお酒、いいですか」
籠の中を凝視する鷲津。
今、ぜったいこの人私のこと「おっさんみたい」って思ってるわ。
別にいいねんけどな。この人の前でかっこつけてもしょうがないなって思ってるし。
「じゃあ、お会計行ってきます」
「ちょっと待って」
鷲津がさっと私の手から買い物籠を奪った。ほんの一瞬の出来事である。そして、その籠にチーズ蒲鉾をぽんと放った。そして、棚から缶詰を籠の中に落としこんでいく。鯖の味噌煮缶に焼き鳥缶(塩味とカレー味)、おでんに黒豚の煮込み。わお、そんな種類の缶詰が東京では手に入るのね、なんて感動してしまう私。
あ~
バカバカバカ。
これって、鷲津がお会計してくれるってことなんじゃないのか。
だめ。それはダメ。これ以上頼ったらダメ。
そう思っていたのに、彼はレジにて電子マネー決済を行いあっという間に清算を済ませてしまったのである。
「金、ないんだろ」
店を出て振り向いた彼からの一言。
鋭すぎて、何にも言えんわ。


夜、ふたりきり  その1

2008年07月13日 | 創作小説
「すぐそこがコンビニだから、必要なものはそこで調達すればいい。明日には君は自分のマンションに戻って、使えそうなものだけ持ってここに戻ってくるんだな。ここには、生活用品は何もないから」

鷲津のマンションは閑静な住宅街の一角にあった。茶色の落ち着いた外観で6階建て。そこの5階に私は案内された。
東京で、この広さ。
ちょっとありえないです。
4LDKのマンションの部屋はどこも明るくて、荷物がないのでがらんとしている。ここのリビングはゆうに24畳はある。この調子でいけば他の部屋が6畳とか7畳であるというのはありえない。
「ほんとにいいんですか?こんなとこ…」
「別に構わないさ。誰かが住んでないと家も痛む。現に、埃だらけだ。ここに住んでもらったら助かる。こっちもな」
確かに、床は少しざらついているかも。
「掃除しないと、ダメですね」
「明日から三連休だ。何か予定があったんならキャンセルするんだな」
「予定なんてないですよ。こっちには友達いないし。ほんと、疲れました」
「晩御飯は?」
「へっ」
「食べてないだろ」

そうだった。時刻はすでに八時半。お腹が減っているのか良くわからない状態ではあったが、そう言われると何か食べておいたほうがいいような気がする。

「じゃあ、ちょっとそこのコンビニで買います。鷲津さんは今から車で帰るんですよね。下までご一緒しましょうか」
「車には先に帰ってもらった」
「えっ」
「君と晩飯を食う」
「はあ。それはまあ。じゃあ、ファミレスとか行きましょうか」
「コンビニで買うんじゃなかったのか。ご飯は」
「そのつもりでしたけど、ここで二人で床に座って食べるのありですか?私一人なら構わないんですけど」
「僕も別に構わないさ」
「そ、そうですか」

鷲津が財布を手に玄関の扉をあけたので、私も走って後を追う。
「あとで、オートロックも説明するから」
「はい。ありがとうございます」
「うん」
この時、ふと鷲津を見上げると思いっきり彼と目があった。彼は気まずそうに目を逸らしてしまったが。