赤い彷徨 part II
★★★★★★
永田充不安クラブ♡
 



大ヒットした出口治明さん(ライフネット生命保険会長)著「仕事に効く教養としての世界史」の発展的続編と私は理解しているので、発売を非常に楽しみにしていた前後半の2冊です。紀元前3000年から現代2000年までの人類史5000年を第1千年紀から第5千年紀までの5パートに分けた上で時系列に、前作と同様に出口さんがまさに「講義」のように語りかけるような調子で歴史を「点」ではなく「線」として解説してくれます(ただ、初見かつコンパクトに1冊にまとまっていたという意味でやはり前作の方がインパクトは強かったとは思います)。「歴史を点ではなく線で」といった表現のはいささか使い古されたものに思えますが、本書は、時間をもちろんのこと、国や地域をも超えた事象について、政治、経済、そして時に地政学的な側面からもそれぞれの因果関係を明らかにしようとトライしてくれています。要は「面」としても説明をしてくれるということです。

そうした点で本書で取り上げられた数多のトピックの中でも、個人的に最も印象深かったものがふたりあります。まずは19世紀後半から「栄光(名誉)ある孤立」として非同盟政策をとっていた英国が当時の日本と1902年に同盟を結んだ背景についてのくだり。ざっくり言うと、20世紀初頭前後に英国は3C政策という、カイロ(現エジプト)、ケープタウン(南ア)、カルカッタ(現コルカタ(インド))を結ぶ三角形を中心に世界戦略を描いていて、このうちカイロ~ケープタウンを結ぶ縦線はフランスのアフリカ横断政策に対抗するものという側面があった。そしてこれに対し、同時期のドイツは3B政策というものを執っており、これはベルリン~ビザンティウム(現イスタンブール)~バグダット(現イラク)の3地点を鉄道で結ぶことにより最終的にペルシャ湾からドイツ兵を送りインドを我が物にしようという企て。

ただ、インド進出というドイツの野望は、英国の3C政策でカイロとカルカッタを結ぶ横線が上記ドイツの3B政策によるインド進出の線上に横たわり目の上のタンコブとなる。つまり、バグダットからインドへドイツ兵を持って行こうにもそこには大英帝国の艦隊が待ち受けているということを意味します。他方、その頃英国はアフリカにおいてはオランダ系土着民のボーア人と激烈な戦争を展開していた。南アがオランダ植民地から英国植民地になったことを嫌って北上したボーア人が作った国(ここもまた3Cの三角形上にあり)にあった金鉱脈やダイヤモンド鉱脈が発見されたことにより英国がこれを奪おうと50万人という膨大な戦力を投入していたため、英国としてはアジアで中国に食指を伸ばしていたロシア対策まではとても手が回らなかった。だからこそ英国は英国らしく柔軟に孤立政策をあっさり捨て、同じくロシアを敵視していた日本を「いわば極東における『憲兵』として利用できる」と考えた末の日英同盟だった、という説明ぶりでした。他の書物でもこうした説明は恐らくなされているものはあるのでしょうが、個人的には初めてで、時間と地理的関係を越えた因果関係を説明してくれたので非常に腹に落ちました。

また、もう1つ印象深かったのは我が国の持統天皇以降の女性天皇に関するくだりです。600年代から700年代にかけての白鳳時代/奈良時代の日本には女性天皇が何人も登場しています。その「女帝」たちについて、病弱な皇嗣たちの中継ぎだったとする一部の説に対して、本書では当時の中国・唐に誕生していた強力な女帝・武則天をロールモデルにしたのでは、という仮説を提示しています。その根拠として、白鳳・奈良時代の政策の多くが武則天の政策を真似している、と主張しており、これも本当ならまさに「海を越えた因果関係」ということになりますが、なかなか面白い指摘だなと思いました。そもそも持統天皇以降の皇位継承というのはなかなかユニークなところがあり、議論を呼び、まさに先日法案が参議院で可決され成立したばかりの「生前退位」(6/13訂正)を考える上でもヒントに満ちていると思われるので、これについては自分でも時間がある時にでももう少し研究してみたいところです。

なお、本書の記述内容についてですが、著者自身が「僕は素人だから自分の学説があるわけではない」としっかりと断りを入れた上で、「この本に書いてある説は、すべて世界中の優れた学者が書いたものです。たくさんの本を読んで、(著者が)腑に落ちたものだけを自分の言葉で書き直した」としているおり、そのあたりの潔さもまたよし、と感じています。まあ当然と言えば当然なのですが。

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