B級会社員のOFF日記(現在無職です)

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お浪草・・・山県市

2016-07-17 23:11:34 | 岐阜県のものがたり

お浪草・・・山県市

 

むかし柿野という村に、咲いたばかりの水仙のようなお浪という娘がいた。

若い男たちは「柿野小町」と噂した。

お浪は美しいばかりではなく、働き者で、親孝行であった。

とても評判が良かったので、あちらこちらから嫁にほしいという話が多かった。

しかし、お浪は以前から源蔵という若者を好いていた。

お浪と源蔵が好きあっていることは、村の誰もが知っていた。

あれなら、良い世帯をつくるだろうと噂しあった。

 

源蔵は一日の山仕事がすむと、谷川で顔を洗う。

そこに、お浪は菜っ葉や大根を洗いにくる。

二人は目と目で心を通じ合う。

 

祝言の日も決まっていた。

 

紅葉した山で、一日働いて、夕方いつもの谷川に降りてくると、お浪は大根を洗っていた。

いつものように源蔵はお浪の顔を見たが、どういう訳か目と目があわなんだ。

確かにお浪は目をそらしていた。そして急いで立ち去っていった。

「祝言も近いし、ちいと話もしなきゃならない。」と言った。

<何か気に障ることがあるのか。お浪のあんな顔を見たことがない>

源蔵はだんだん心配になってきた。

 

夕ご飯は喉を通らなかった。夜寝ようと思っても寝ることはできなかった。

その夜は不安で不安でしかたがなかった。

源蔵はむっくりと起き上がった。

そうしてお浪の家に出かける。

 

お浪の部屋の前に立った。

部屋の中で物音がする。

源蔵は愛しさに思わず、

「お浪」と呼んだ。

すると訳の分からない形が障子にうつった。

よく見ると、太い太い蛇であった。

蛇は鎌首をあげて、大きな口を開けた。 

源蔵はひっくりかえった。

気づいたときは自分の寝床の中でがたがた震えていた。

どこをどう走ってきたか覚えていない。腕と膝をけがしたらしく、それが傷む。

 

その頃から雨が降り出した。

お浪の家ではお浪がいないと大騒ぎになった。

村中の人が探したが、どこにもいなかった。

 

それから何日もたった。

ある夜、源蔵の枕元にお浪が来てすわった。

「どうか許してください。私はあの山に住む龍の子供を七人も生んでしまいました。

あなたと睦まじいところを山に住む龍に見られて、私は連れて行かれてしまいました。

他の良い人を探してください。」

手をついてそう言ってから、お浪の姿は消えた。

 

柿野あたりでは、今まで見たことがない白い花が草の中に咲くようになった。

誰かがそれを「お浪草」と呼ぶようになった。

 

源蔵は山仕事はしないで、お浪草をつんでふらふらと歩きまわっていた。

秋になるとその白い花はあちこちに咲いて、源蔵を呼ぶように揺れている。

 

(完)


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
その花に (末摘花よりちょっといけてるねーちゃん)
2017-10-06 10:02:21
いいね✖️10

その花に会ってみたい、、、
東海道に伝えられている話をします (助左衛門)
2017-10-06 20:42:45
先日 大学時代の友人と東海道のウォーキングをしています。 その街道筋の話をする予定です。

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