村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

『グレート・ギャツビー』翻訳比較(31)

2016-10-17 12:28:33 | 村上春樹を英語で読む
論文等で引用する場合には、原典に当たってください。

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(201)‘But there’s a garage right here,’ objected Jordan. ‘
「でもそこにちょうどガソリン・スタンドがあるじゃない」とジョーダンは言い返した。(村上)

「でも、すぐそこに修理工場があるわよ」と、ジョーダンは不満そうに「あたし、こんな焼けつくみたいな暑さの中で立往生するの、いやよ」(野崎)

「すぐそこに修理屋があるのに」ジョーダンが意見をはさむ。(小川)

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(202)After a moment the proprietor emerged from the interior of his establishment and gazed hollow-eyed at the car.

ややあって経営者が建物の中から姿を現し、どろんとした目でしげしげと車を見つめた。(村上)

しばらくすると、家の中から主人が姿を現わした。そして、金壺眼で車を眺めやった。(野崎)

ほどなくウィルソンが店の奥から出てきた。この車を見て、目玉が消えうせたような顔をする。(小川)

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(203)In the sunlight his face was green.
明るい日差しの中で彼の顔は苔のような色をしていた。(村上)

日向に出ると、彼の顔は草のように蒼かった。(野崎)

日なたに出ると、顔色が異常に悪かった。(小川)

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(204)‘Big chance,’ Wilson smiled faintly. ‘No, but I could make some money on the other.’

「こいつはむずかしい」と言ってウィルソンは力無く笑みを浮かべた。「しかしあっちなら適当な金になります」(村上)

「冒険ですな」ウィルスンはよわよわしく微笑した「駄目ですよ。しかし、あっちの車ならいくらか儲かるんですがねえ」(野崎)

「こいつは当たれば大きいんでしょうが」ウィルソンは弱々しい笑みを浮かべた。「やっぱり小商いさせてもらいますよ」(小川)
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(205)My wife and I want to go west.
女房も私も西海岸に行こうと思っています。(村上)


女房もわしも西部へ行こうと思いましてねえ。(野崎)

女房と西部に行ってみます。(小川)

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(206)He rested for a moment against the pump, shading his eyes.
彼は少しのあいだ手で目の上にひさしを作り、給油ポンプに寄りかかって休んだ。(村上)

彼は、額に手をかざしながら、ポンプにもたれてちょっと休んだ。(野崎)

ウィルソンは手で日射しをさえぎりながら、ふらりとポンプに寄りかかった。(小川)
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(207)‘I just got wised up to something funny the last two days,’ remarked Wilson. ‘
「二日ばかり前、ちっと妙なことに気づきましてね」とウィルソンは持ち出した。(村上)

「つい二日前にちょっと妙なことに感づきましてね」(野崎)

「この二日ばかり、おかしなことに気づいていまして」(小川)

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(208)I stared at him and then at Tom, who had made a parallel discovery less than an hour before—
僕はウィルソンの顔を子細に見て、それからトムの顔を子細に見た。ウィルソンが気づいたのと同様の事実に、トムもまたつい一時間ほど前に思い当たったのである。(村上)

ぼくは、彼のようすを見つめ、次にトムを見てみた。トムも一時間たらず前に、これと同じような発見をしたわけである――(野崎)

私はこの男の顔をしげしげと見て、また同じようにトムも見てしまった。ほんの小一時間前には、トムが逆の立場でそっくりの発見をした。(小川)
(コメント)
小川の「逆の立場で」は原文にない。

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(209)So engrossed was she that she had no consciousness of being observed and one emotion after another crept into her face like objects into a slowly developing picture.
彼女は見ることに夢中になっていて、自分が誰かに観察されていることには気がつきもしない。様々な感情が目まぐるしく彼女の顔を去来した。まるで現像されていく写真の中に、いろんな形状が次第に浮かび上がってくるみたいに。(村上)

彼女はすっかり心を奪われていたので、自分が見られていることにはぜんぜん気づかなかった。そして彼女の顔には、いろいろな感情がつぎつぎに、ちょうどゆっくりと現出してくる印画の映像のように、浮び出てきた。(野崎)

思い詰めた顔になっていて、自分が見られているという意識はない。徐々に現像されていく写真のように、一つまた一つと感情が浮いてくる顔だった。(小川)
(コメント)
村上は、英文通り比較の対象を明らかにして訳している。

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(210)There is no confusion like the confusion of a simple mind, and as we drove away Tom was feeling the hot whips of panic.
単純な心に生じた混乱ほど始末に負えないものはない。トムの頭はパニックに襲われ、車で走り去りながら熱く鞭打たれていた。(村上)

 単純な心の混乱に比すべき混乱はない。車を駆って行くみちみちトムは、激しい鞭で打たれるような焦燥を感じていた。(野崎)

もともと単純な精神が混乱するとしたら、とんでもない混乱が生じる。ふたたび車を走らせたトムは、灼熱の鞭で打たれるような大恐慌を来していた。(小川)
(コメント)
小川の「ふたたび」は
原文にない。
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