道楽人日乗

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「今日もいい天気」上巻・田舎暮らし編/下巻・原発事故編

2015-02-22 16:10:57 | 漫画感想
漫画「今日もいい天気」上・下巻山本おさむ著




過酷な漫画連載で疲れ果てた著者が、TV番組「ダッシュ村」に憧れ、叔父のすすめもあって福島に転居することになった。なれない田舎暮らしの顛末と、同居することになった義父と義母。新たに迎える事となった飼い犬コタとの生活を淡々と綴った作品。

冬は大雪、草むしりをすれば庭に蛇。ご近所づきあいもあるし、義父の体は弱り気味、楽なことばかりではない。それでも一面の菜の花。とり放題のオニヤンマ、家庭菜園に近場の温泉。
上巻末のエピソードによると、著者はかなり精神的に疲れて切羽詰まっていたらしい。冒頭で奥さんが田舎暮らしを即 OKするところなど、読んだ時はオヤと思ったが、成る程そうだったのかと納得。田舎住まいには作者の息子さん夫婦なども立ち寄るようになり、義父たちも孫に囲まれ笑顔をみせる。著者自身のご両親が漫画に現れないことはちょっと気になったが、まずは、幸せな田舎生活と、楽しく読み終えた。これが上巻まで。

下巻ではその数年後。
義父義母を既に見送った著者夫婦をとてつもない、大災害が見舞うことになる。東日本大震災。原発爆発。著者達の田舎住まいは、福島だ!

原発から70キロの地点にこの家はあった。
著者は、埼玉に漫画の仕事場を持ち続けており、奥さんのコタを連れての埼玉への一人避難。刻々変わる原発の「その日」の状況が、一人の漫画家の目を通して描かれてゆく。TVでは「あの人」が「直ちに健康に被害はありません」と繰り返す。

なんと言うことだろうか。上巻であれほど愛情を込めて描かれた田舎暮らしが、一変してしまう。奥さんとコタに現れる体調不良(事故翌月の4月一ヶ月間を現地ですごす。奥さんの口内炎、犬の鼻血・声が出なくなる)。読者である僕にも自分自身の「あの日」の事が頭をよぎった。TVでは「直ちに健康に…」「原発は大丈夫」との報道が繰り返される。著者は必死でネットを探り、MBSラジオ 「たね蒔きジャーナル」の小出裕章助教による解説などを聞く様子が描かれている。当時僕も同じラジオ放送を、音声ファイルとしてネットにアップされたものを通じて毎日聞いていた。小出先生や、武田邦彦先生のブログなどがどれほど励ましになったか。

今となっては実感が薄れたかもしれないが、たまたま現実は現状のようになったに過ぎない。後に「日本列島の半分は住めなくなると覚悟した」という発言もあった。怖ろしいことだ。

昨年「おいしんぼ」の福島編における鼻血描写が喧伝されていたまさに同時期、著者は連載漫画「そばもん」で福島の食をあつかい、除染への取り組みを描いていた。著者は、まさに自分自身の経験に立って、福島について語っていたのだなあと、あらためて知りました。

下巻の、東電への怒り、失われた土地への哀しみ、そして除染や、新しい農作への試みなどの描写は迫力を持って胸に迫る。上巻を描いたときには全く意図されていなかった下巻だが、上巻を読むことにより、失われた物の大きさの一端にふれることが出来る。まさに希有な作品であったと思う。

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