こうの史代 著
映画を先に鑑賞。あれだけ精緻に作られた映画を見た後でも、手書きの柔らかい線が見せる表情の豊かさ素朴さが心にしみる。すずさんは「夢見る心」を一時見失ってしまうが、漫画でのその「夢心」はすずさんを離れても存在し、日々出来事に因果の網を絡めているようだ。
電車内で読み、駅をいくつも乗り過ごすほど没入。上中下巻それぞれの巻をおくごとに、見上げた日常の光景がそれまでとどこか違って見えるような気持ちになった。映画で削られたリンさんのお話も、切ないながらも彼女の気概を感じる。水原水兵の行く末は漫画で初めて理解できた。
重々僕の理解が悪いのだが、映画版の座敷童のお話、あの優しいおばあさんがそんなこと…これも時代?というのが苦いしこりだった。漫画版で前と後とは違う人と理解できた。映画での空襲場面の恐ろしさは音響によるところも大きかったと思うが、漫画でもそれは充分感じられた。
すずさんのいう「ありがとう。この世界の片隅にうちを見つけてくれて」という台詞、映画はすずさんらしいやわらかな幸せそうな口調。漫画は、加えて少し苦さと決意のまじった含意、漠然とした不安が感じられる。リンさんの事もあるかも知れないが。ここは漫画の方が味わい深い。