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ART TODAY サッポロトリエンナーレ略史

2010年11月17日 22時18分20秒 | 情報・おしらせ
 吉田豪介著「北海道の美術史 異端と正統のダイナミズム」(共同文化社)は、その書名のとおり、北海道のアートシーンを振り返ろうとする者にとっては必読書である。

 とある札幌の新進気鋭の美術家が、いま札幌芸術の森美術館で開かれている「札幌・昭和三十年代」展の感想にちなみ、かつて札幌トリエンナーレという展覧会が開かれていたことを知らなかったという趣旨の発言を、ツイッターでしていたので、吉田豪介さんの本の要約というかたちになってしまうのだけど、この展覧会のことを簡単に紹介しておきたい。わたしが、その適役とは、とても言いかねると思うのだけど。

 1979年、国際展の開催を目指してグループTODAYが結成された。
 メンバーは、阿部典英、一ノ戸ヨシノリ、上田公夫、岡部昌生、後藤和子、後藤充弘、杉山留美子、田村佳津子、田村宏、丹野信吾、千葉豪、丸藤信也、矢崎勝美、米谷雄平の14氏。
 77年に道立近代美術館という新しいハコができたことが、意欲を後押ししたのであろう。

 第1回は1981年5月1~10日。
 前述の14人と、フィンランドの10人が参加している。

 第2回は84年7月5~15日。
 日本側は14人。米国、カナダ、韓国、フィンランドから11人が招待された。
 韓国の河東哲さんは「水脈の肖像」などで、知られていますね。
 これをきっかけに、TODAYメンバーが海外の展覧会に招待されるという事態に発展。とくに韓国との交流は盛んになっていく。

 第3回は87年11月21日~12月6日。
 田村夫妻と矢崎さんが「TODAY」を退会したので、日本は11人。
 海外はほぼ顔ぶれを一新し、米国3、カナダ2、フィンランド1、韓国3、スウェーデン2、西ドイツ1の6カ国13人。

 1990年に分厚い記録集が発刊されている。


 豪介さんの本をざっと要約するとだいたいこんな感じだろう。
 TODAYのメンバーは、60年代から現代まで、もっぱら団体公募展とかかわりない地点から、北海道の美術を最前線で担ってきた作家が多いのは、一目りょう然だ。

 記録集はたぶん道立近代美術館1階ロビー奥の書架にあるんじゃないかな(未確認。なかったらごめん)。


 3回で幕を閉じた理由について明確には書いていないが、つぎのくだりが注目される。

フィンランド側の作家が参加する費用として、同国政府と芸術協会の年次計画の中で、すみやかに1万5千ドル(330万円)が調達されていたが、北海道側の展覧会助成としては、北方圏センターから85万円、札幌市の芸術活動援助資金から40万円助成されただけという落差が明らかになった。(266ページ)

しかし彼らが全てを手作りで運営していくには手続きと容量が大き過ぎたに違いない。記録集にも垣間見られるが、不断に煩雑に続けられる外国作家との通信ひとつとってもそれが理解できる。(268~269ページ)


 インターネットとかskypeとか、ない時代。
 しかも、費用は作家の大幅持ち出しであったのに加え、キュレーションから雑務からすべてが作家の負担だったのだ。

 TODAYのメンバーは、阿部典英さんを見ていれば分かるとおり(?)並外れたエネルギーの持ち主が多いけど、それでもタイヘンだったに違いない。


 さて。
 これより若い世代のグループ展はやはり道立近代美術館で、1989年に開かれている。
 題して「RENEWAL1990への前哨展」。
 しかし、出品者はTODAY世代ほどガマン強くなかったのか、煩雑な作業に耐えられなかったのか、わずか1回で空中分解している。
 井桁雅臣さん、佐々木徹さんが出品しているが、端聡さんも出してたんじゃなかったのかなあ。
※端さんによると、当初から1回限りの予定だったとのことです。


 で、90年代後半以降が、筆者がリアルタイムで知っている時代となる。
 ただし、道立近代美術館での大規模グループ展となると、「HIGH TIDE」や「水脈の肖像」までのあいだ、しばらくはなかったということになるのだろう。 


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2 コメント

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北海道の美術史から (怜な)
2010-11-25 13:07:10
「北海道の美術史 異端と正統のダイナミズム」の本が届きました。難しいような内容ですね。
来年から?札幌ビエンナーレがあるようで、この機会に現代アートを少しでも理解したい、
まず、美術史を読もうと思いました。

吉田豪介著の「はじめに」に、北海道の風土に根づいた独自の美術文化が今田氏の夢」と記されていますが、実現されているのでしょうか・・。少しずつ、読み進めたいと思います。
わー! (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2010-11-25 22:26:27
怜なさん、吉田豪介さんの本を買ったんですね~。
この本は、現代アートの理解にはどれだけ役立つかわかりませんが、北海道の美術史を振り返るには最適な1冊です。
今田さんの「北海道美術史」は、1970年あたりで終わっていたはずですし、古書価は15000円ぐらいするので、推薦するにはためらいます。

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