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■野又圭司展 脱出-困難な未来を生きるために (2016年10月5日~12月4日、札幌)

2016年12月30日 10時01分52秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
(長文のため、2項目に分けました)

 ことし2016年をふりかえるとき、冬の谷口明志展(市立小樽美術館)と並んではずせない美術展が、野又圭司展だろう。

 野又さんの作品の意義については、考えるところを【告知】の記事に書いておいたが、もう一度繰り返しておくと、半径5メートルの身近な感情に寄り添ったり、大自然と向き合ったりする作家が北海道には多い中で、彼は数少ない、社会と渡り合う美術家なのである。
 たしかに、その社会批判が直球に過ぎて、見る人に幅のある解釈を許さない作品も一部にあるかもしれない。
 しかし、それでも彼の作品が見る者を撃つのは、なにより彼の真剣さ、怒りが、ひしひしと伝わってくるからである。

 野又さんの作品を鑑賞するには、画肌がどうの構図がどうのという面倒くさい知識は必要ない。
 自分が日々生きている世の中を考えるのと同じように、作品に向き合えば良いのだ。
 そうすれば、わたしたちが生きている社会が、このままでは持続不可能であり、滅亡はまぬかれないのではないかという作者の訴えが、感じ取れることだろう。

 彼の作品は、予言でもあるのだ。


 ただし、野又さんの作品が最初からそうだったわけではない。

 この画像は「無力の兵器(自分を撃ち込め!!)」(1997)。

 図録には
「美術家としての無力感にさいなまれていた当時、棺桶のような容器に自身の体を装填し、居場所を与えてくれない世間にぶつけたいという切実な心境を造形化したものだ」
とある。

 11月9日に行われたトークでも
「自分を弾にして敵陣に撃ち込むイメージ。やけくそな、すさんだ心境ですね。特攻を美化するわけではないですが」
などと語っていた。

 これ以前、野又さんがどういう作品に取り組んでいたのかあまり知らないのだが、1989年に新道展で協会賞(最高賞)を受賞し、97~99年には事務局長を務めている。
(団体公募展についてはこの図録ではいっさい触れられていない)
 新道展では、インスタレーション・立体造形の新進作家として期待された存在だったと推測されるのだが、野又さんには正当な評価の声が届いていなかったと感じられていたのかもしれない。

 筆者が個人的に気になるのは、両側についている羽のようなかたちである。

 後年、たまたま見ることができた、この時代のボックスアートでは、天使のようなイメージを描いていた(コラージュ?)のを記憶している。

 思えば、そういう造形上の嗜好を作品に反映させていたのは、この時代までであって、21世紀に入ってからは、野又さんの作品は、その手の「味」のような部分をどんどんそぎ落として、シャープでシンプルなものになっていく。
 直線が主体になるといえるかもしれない。


 2点目は「地球空洞説」(1998)。
 透明な半球の中に、箱庭のように樹木などを取り付けた立体。

(ちなみに、この展覧会には大きな作品が8点出展されている)

 これと似た作品を、2009年の「ハコトリ」で見たことを思い出す。
 あれは、旧作だったのか。


 そのハコトリで同時に展示されていたのが、冒頭画像の「遺跡」(2008)。

 高層ビルと、柵で隔てられた難民キャンプ。

 当時よりも、今のほうが、よりリアリティーをもって迫ってくる。
 この8年間に格差社会がより進行したためだろう。

 「遺跡」という題からは、格差の激化により滅んでしまった社会を想起させる。

 作者によると、イタリアのサンジミニャーノ村(参考リンク)をモデルにしたそう。
 中世に貴族が競いあって富や権力の象徴として高い塔を建て、40ほどもあったらしいが、現在では13か14しか残っていないという。
 


 4番目の作品は「存在の耐えられない軽さ」。
 誰がどうみても、ミラン・クンデラ(チェコの世界的小説家)の代表作から題を借りてきているが、インターネットの「炎上」を風刺している。

 ちなみに作者はインターネットをまったくやっていない由。通信料がもったいないと、トークで話していた。


 5番目は、2012年の「助けて欲しいんじゃないのか。」。

 札幌市白石区で実際にあった、姉妹の孤立死に着想を得て作ったという。

 となりがどんな人々かもわからない、都市の無関心な関係を図示している。

 これは、札幌から岩見沢の山奥にアトリエを移した作者の経験が反映しているようだ。呼び鈴を押す人などおらず、勝手に家の中まで入ってくるような人間関係。お互い助け合って生きている、そういう地区のほうが野又さんは「心地よい」という。

「ネット上の友だちは助けてくれない。実際に隣に住んでいる人がいざというとき助けてくれる人なんだ。高齢化がますます進むのだから、人間関係というものを考え直さなくちゃいけない」

 野又さんはトークでそんな意味のことを話していた。


(長文になったので、続きは別項で)


2016年10月5日(水)~12月4日(日)午前10時~午後5時(入館30分前)、月休み(祝日開館し翌火曜休み)
本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市中央区宮の森4の12)

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