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■北海道の水彩画 みづゑを愛した画家たち (6月8日まで)

2008年05月27日 23時57分52秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 あまり批判はしたくない。でも、美術館側の意図がいまひとつつたわってこない展覧会だったと言わざるを得ない。

(目次)
1.道外画家の作品の意味は
2.オホーツクの画家にスポット
3.平沢貞通を展示


             ●1●

 年間日程表で展覧会名を目にしたときから疑問を禁じ得なかった。
 なぜなら、「北海道の水彩画」という展覧会が5年前に道立三岸好太郎美術館でひらかれたばかりだからだ。
 5年間に2回も実施しなくてはならないほど水彩画というのは時宜にかなったテーマなのだろうか。そんなに道立美術館は企画のネタに窮しているのか。

 「北海道の水彩画」という展覧会なのだから、当然、道内に材を得た風景画や、道内出身画家による絵が展示されているのかと思って、見に行った。
 ところが、会場の入り口にこそ、開拓使の絵師だった疋田敬蔵の画帳が展示され、茨戸(ばらと。現札幌市北区)の風景がみずみずしいタッチで描かれているものの、あとは、ワーグマンや丸山晩霞、大下藤次郎など、どこが北海道と関係あるのかわからない作品の展示が延々とつづく(なお、重箱の隅をつつくようで恐縮だが、当時は石狩川下流の切り替え工事前なので、茨戸川ではなく石狩川である)。
 手っ取り早くいえば、道外と道内の関係づけが、見ていてもよくわからないのである。
 大正以降でも、中西利雄「札幌の夏(北大構内)」は、展示されていてもナットクできるが、小堀進というのは、どんな意味があるのだろう。水彩業界では大物なのかもしれないが…。
 まあ、水彩ブームの立役者だった大下や、名手・三宅克己の絵を見られること自体は良い機会だ。(ただ「明治の日本の水彩」というくくりであれば、なぜ浅井忠がないのかとも思うが)

 じつは5年前の「北海道の水彩画」と今回の展覧会では、多くの作品が重複している。
 全47点(三岸好太郎をのぞく)のうち25点が今回も出品されているのだ。
 したがって、道外分は、今回を特徴づける重要な要素なのだが、その意義付けが弱いのがなおさら惜しまれる。 

 「明治-大正」「大正」「昭和」
という区切りも因襲的ではないか。「昭和」になってからも、繁野三郎の絵が、戦前と戦後にわかれて展示されていることを思えば
「前史-全国の水彩」
「大正・戦前-黒百合会と北海道での萌芽」
「戦後-繁野三郎、佐藤進と新たな展開」
あたりが適当なのでは…という気もする。

 「大正」の途中から後は、道内作家の作品が続くので、見ていて気分的に落ち着く。さっきも述べたように、5年前の展覧会が下敷きになっているので、かなりの既視感があるのは否めない。
 作品的にもそうだが、流れ的にも前回を踏襲している。つまり、「道展-日本水彩画会」中心史観であり、水彩連盟については、図録の年譜で分離独立が触れられている程度。全道展についてはスルーされているので小野垣哲之助や八木保次はまったく登場しないし、道彩展は年譜にすら1行も登場しない。
 このへんは、それぞれの見方があるだろうから、とくべつおかしいと言い立てるつもりはないのだが。

 また、話が前後するが、筆者の知る限りでは、北海道を描いた最初の水彩は川上冬崖の手になる風景画である(長野県信濃美術館蔵)。これはできたら展示してほしかった。



             ●2●

 ケチばかりつけてきたので、意義めいたことも記しておこう。

 この展覧会で良かったのは

1. 5年前は白江正夫あたりがいちばん後の世代だったが、今回は宮川美樹や安田祐三をラインナップしたこと

2. ふだんあまりふれる機会のないオホーツク地方の絵画に着目したこと。とくに松本早苗を発掘(いやなことばだけど)したのはすばらしい。勝谷明男、松田陽一郎は知っていたが、納直次も初めて見た。

の2点ではないか。

 「北海道美術ネット」ではもう何度も書いているけれど、宮川美樹の絵はすばらしいと思う。
 スーパーリアルな技術水準の高さに加え、無常観のような静けさが全編に染み渡り、見る者を思索にいざなう。

 松本早苗は、全オホーツク展が主な発表舞台なので、札幌の筆者が知らないのも道理である。
 広がりのあるシンプルな風景に孤独な内面を投影しているかのような画面を見ていると、明治期からぐるっとひとまわりしてきたみたいな感じもある。もっとも、大下や三宅のような「味」のかわりに、清澄さがきわだっているように思う。その点では、札幌の水彩画のホープ石垣渉とも共通性を感ずる。
 「ひこうき雲」というのは、荒井由実の初期の名曲とおなじ題だ。ユーミンのように、明るいのにどこか悲しげなところがあると思った。

 個人的には、佐藤進、宮川美樹、松本早苗が見られたので、「入場料を損した」という気分は起きなかった。



             ●3●

 もうひとつの話題は、帝銀事件で知られる平沢貞通(本展では、号を尊重して「平澤大」と表記している)の絵が5点展示されていたこと。
 これまでほとんど事件とか人権の話題の中でしか語られてこなかった平沢を、画家として正当に美術史に位置づけようとする試みは、評価されて良いだろう。

 ただ、個人的には、今回展示されていた5点を含めて何点か彼の絵を見たことがあるのだけれど、正直なところどこがいいのかさっぱりわからない。
 今回の「うろつく不具者」など、なんだか陰気で、ちっともおもしろくない。
 今後、発掘や調査が進んで、戦前の有名画家の真価が明らかにされていくのだろうか。


08年4月26日(土)-6月8日(日) 月曜休み
道立近代美術館(中央区北1西17 地図D)

一般1000(790)円 高校・大学生600(480)円 小学生300(200)円。
これくしょん・ぎゃらりいとの共通券は一般1200円 高校・大学生650円
 =( )内は、10名以上の団体料金および、リピーター、ファミリー料金


北海道の水彩画(2003年、画像なし)


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4 コメント

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Unknown (SH)
2008-05-28 22:14:35
ヤナイさん、こんばんは。

私は繁野三郎がやっぱり好きだということを再認識したのですが、宮川美樹(良く見てます)、松本早苗(初めてです)の素晴らしさには同感です。この展覧会のハイライトといっても良いと思います。

平澤大は評価されなかったあまり、過大評価されているというのが私の率直な感想ですが、今回の作品の中では「春近し」などは意外と「見られる」という気がしました。
SHさん、こんにちは (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2008-05-29 06:37:27
いまひとつコンセプトのはっきりしない展覧会でしたが、SHさんの挙げておられる画家の作品が見られたのは良かったと思います。たしかに「ハイライト」でしたね。

たぶん平澤は、もうちょいまともな作品があると思うのですが、なにせ死刑囚ということで、かなりの数が廃棄されてしまったのではないかと懸念されます。
同感です (竹津昇)
2012-10-20 11:34:33
この企画は北海道の水彩を通観した
本が下敷きとなっていると思いますが、
とくに現代の水彩画の流れについては
調査不足と思います。もっとも、現代の
流れはうつろうので、調べる意欲がわ
かないのかもしれません。
竹津さん、ごぶさたしております。 (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2012-10-22 16:30:44
コメントありがとうございます。
「北海道の水彩を通観した本」
というのは寡聞にして知りませんでした。ご教示願えれば幸いです。

公立美術館が現在進行形の事象をあまり取り上げないのは、やむを得ないことだと思っています。

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