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(2)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」ー野外彫刻よじ登り事件

2017年11月22日 17時53分40秒 | 札幌国際芸術祭
承前

 札幌国際芸術祭のなかでもやや地味な扱いになっていた公募プロジェクト「ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip『アートは旅の入り口』」が一気に有名になったのは、9月初旬に、同プロジェクトの会場のひとつであった「ゲストハウスやすべえ」のブログに「私が札幌国際芸術祭2017の作品展示を終了した理由 」がたくさんのアクセスを集めてからだった。

 話題をよんだブログ記事は現在でも全文を読むことができるが、非常に長い。
 こういうとき、筆者が言うのもなんだが、新聞記事というのは無味乾燥なかわりに要点が手短にまとめられていて、短時間でポイントをつかむのに都合が良い。
 北海道新聞の9月5日付札幌圏に掲載された記事は、11月20日現在でもネットで読むことができる

 札幌市内で開催中の札幌国際芸術祭(SIAF(サイアフ))の会場の一つ「札幌ゲストハウスやすべえ」(中央区南10西7)で、作品の公開が中止になり、6日から大洋ビル(同南3西8)で展示が再開されることになった。

 やすべえでは芸術祭が開幕した8月6日から、札幌出身の美術家東方ひがしかた悠平さんの作品を屋外に展示。頭部に植物を植えたマネキン12点などを置いていたが、展示の企画者らが水やりなどの管理をやすべえ側に任せきりで、何者かにマネキンが他の場所に動かされるなどいたずらもされていた。このため、やすべえが同18日に会場提供を断った。

 一連の展示はSIAF実行委の公募企画の一つで、応募した企画者は、会場と作家の選定から運営までを担うことが実施の条件。今回は市内のギャラリー運営者らが企画者となり、ゲストハウス8カ所と作家10組を選んで展示していた。

 やすべえのオーナーは「近所から怖がる声があり、営業に支障も出ている」と話した。企画者の一人は「配慮が足りず、負担をかけてしまい申し訳ない」、実行委事務局の市は「細部まで企画に目が行き届かなかった」とし、やすべえ側に謝罪した。



 企画者側が管理を怠ったことに加え、作家も札幌にいたりいなかったりで、連日様子を見に行くことがかなわなかったことなど、いろいろ残念な要素が重なったのではないかと推察されます。

 もしこれが一般のギャラリー空間であれば、日々世話が必要な作品について、ギャラリストも作家も、何日も放置しておくなどということは考えられまい。
 またふつうのタブロー(絵画や写真)なら、作品にさわりそうな人をチェックすれば良いので、ゲストハウス側の管理でも足りるかもしれない。しかし、東方さんのインスタレーションは日々メンテナンスが必要な作品であり、やはりギャラリー側の見通しが甘かったといわざるを得ないだろう。

 現代アートの作品には、世の中の常識とは相容れないものがたくさんある。それ自体は悪いことではもちろんない。
 ただし、それは
「ここには現代アートの作品があるからなあ」
と事前にナットクして訪れる人々ばかりだという前提が必要で、このゲストハウスのように、ふつうにコーヒーを飲みに来たり、泊まりに来たりする人がいる場合には、事情が成立しない。

 コーヒーを飲みに来る常連のお客さんが避けるようになってしまったやすべえさんには、お気の毒としか言いようがない案件だ。

 冒頭と2枚目の画像は、会場を大洋ビル地下の空き室に移動してからのもの。

 これで見てもわかるとおり、東方さんのインスタレーションは、水が循環し、人工的な緑がそこらへんにワサワサと生えている。
 明快な主張を感じるというよりも、見る人によって見方が異なる作品のように感じられる。

 作者は、自然物や人工物による“庭”をつくりあげ、人間の矛盾を提示するつもりのようだったが。


 ところで、この会場には、ゲストハウス×ギャラリープロジェクトのもうひとつの作品である南阿沙美「ハトに餌をやらないでください」も展示されていた。

 これはカラー写真100枚ほどもある。ちょっと見ると、ファミリー写真に分類されそうだが、ひとりが裸になっていたり、自撮りをしている場面だったり、「どこかヘンな写真」が多く交じっている。
 演劇的な一種のわざとらしさのような空気も感じられるし、よその家の見てはいけない部分を垣間見てしまったときのような決まりの悪さを覚えてしまうのだ。
 家族スナップのようでありながら、川内倫子ともアラーキーともまったく違う作品をつくってしまった南さんの手腕は、評価せざるを得ないと思う。

 しかし、この作品は当初、別のゲストハウスに展示されていた。
 「やすべえ」の件と違い、この作品が移設されたことについては、SIAF実行委からもゲストハウス×ギャラリープロジェクトからもなんのアナウンスもなく、理由も明らかになっていない。


 さらに一般にはあまり知られていない事件がもうひとつ起きている。
 「ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip『アートは旅の入り口』」の一環として「Touching Sculpture! 夕暮れ彫刻ピクニック」が9月3日に行われた。親子で、スマートフォンを使って野外彫刻のある風景を撮ってみようというプログラムだ。

 ところが、この行事の最中、ある子どもが「花の母子像」にアクロバティックな乗り方をして、その画像がホールの壁面に大きく投影され、さらにそのようすがウェブサイトにアップロードされたのだ。
 これに対し、市や札幌国際芸術祭実行委に抗議が相次ぎ、それを知った札幌彫刻美術館友の会メンバーが驚いて、市側から説明を受けることがあった。
 「友の会」は、街なかにある野外彫刻の清掃などを活発に行っている団体で、考えてみれば、野外彫刻の上によじ登るというのは、そういう日々の功績を著しく損なう行為としかいいようがない。そればかりか、万が一の場合、野外彫刻が壊れる可能性もある。

 さらに「友の会」が鋭く反応したのは、じつはちょうど40年前の1977年9月6日、おなじ「花の母子像」の腕などに子どもが挟まれてしまい、かけつけた消防署の救助隊員が像の一部をカッターで急きょ切断する―という痛ましい事故が起きていたためだ。
 それを思い起こせば、野外彫刻の上に乗っかるというのは非常に危険な行為であり、札幌国際芸術祭の一プログラムの中で行われるというのはあり得ないことと言ってもいい。


 総じて言えば、さまざまなハプニングがあった前回に比べれば、ことしの札幌国際芸術祭は、これほど会場やイベントが増えたにもかかわらず、事故や不祥事はきわめて少なかったと総括できよう。
 その「きわめて少ない」不祥事が、たくさんのプロジェクトのなかで「ゲストハウス×ギャラリープロジェクト」に集中してしまったことは、不思議としか言いようがない。

 また、ギャラリーというアートの扱いにはプロフェッショナルのはずのチームで担当したプロジェクトにハプニングが集まっているのも、皮肉といえば皮肉だ。
(※追記。アーティストのせいでは、ほとんどないと思う)


 次項では、これまで触れなかった他の会場について、かんたんに振り返ることにしたい。


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