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■北見・現代写実の眼 展(2012年6月12~17日、北見)

2012年06月15日 22時36分58秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 本格的な絵画の展覧会を、北見では久しぶりに見た。
 大作が並び、見ごたえがあった。 

 展覧会のタイトルに「現代写実」とあるが、とくに最先端の絵画というわけではなく、むしろオーソドックスな写実絵画である。8人のうち、1人が水彩でもっぱら人物を描いているが、のこる7人は油彩の風景画が大半だ。
 「現代」というのは、時代認識なのだろう。
 題名などを書いた紙に、つぎのような「主旨」が印刷されていた。

CGや3D映像が普及しバーチャルリアリティがあふれる現代。
仮想現実の世界に囲い込まれようとしている人間。
このような時代に生きる我々われわれ
現実を直視し、存在するとは何かを
自分ので見、自分の手で描くという
絵画の原点に立ち返り追求する。


 コンピュータグラフィクスに対抗しようとするならば、正統派の油彩、水彩の具象絵画ということになるのだろうか。
 「絵画の原点に立ち返り」というくだりが、グループの、いわば基盤になっているように思われる。

 もちろん、最初から「原点」とか「スタンダード」として想定され出発する様式というのは、存在しない。
 たいがいは、歴史的な過程の中で、ある様式が標準的なものとして、徐々に認知されていくのだ。
 ここで出品者の念頭にある「絵画の原点」というのも、相対的に、標準的なものと思われている様式にすぎないだろう。
 きわめておおざっぱにとらえれば、西洋画であれば、輪郭線を消し、透視図法を採用し、仕上げにニスを塗ったスタイルが、近世から19世紀後半まで優勢であった。
 日本における西洋画のアカデミスムは、その古典的な様式と、絵画の革命として起きた印象派とを折衷させて移入されたものにほかならない。
 つまり、日本では、古典的な西洋画よりは筆触などが表に出て、印象派的ではあるが、モネや、後期印象派の画家たちに比べると、微温的な画風が、とくに日展や一水会などではメインストリームとされて、今日に至っているといえるかもしれない。
 早い話、金融機関がサービスで配布しているカレンダーに最も多く採用されているのは、このタイプの絵であろう。

 多くの人が取り組んでいるように考えられがちなタイプの絵であるが、実際、道内では、写実的な風景画などをよくするのはベテランが大半で、もっと若い世代は、団体公募展などでも、複数の異質な要素を組み合わせて画面を作り込む人が多い。
 これは、先行世代との差異を際だたせるためにはある種必然の流れなのだが、個人的には、日本的なアカデミスムの風景画を継承する人が少ないのは残念に思う。

 個人的には、現代美術も嫌いではないけれど、オーソドックスな風景画が好きなんです。


 さて、概説はこれくらいにして、個々の作者について述べよう。

 8人とも北見市内在住で、オホーツク管内の団体公募展である「オホーツク美術協会」の会員である。
 ちなみに、同協会はことし50周年をむかえる。

 これまで何度も書いているのだが、やはり勝谷明男さん(一水会会員)の描写力には舌を巻かざるを得ない。
 氷点下1度ぐらいの、3月下旬から4月初めの頃の空気感、降ってから少し時間がたった雪の上についた足跡やタイヤ痕といったものを、これほど的確に描写できる人は、道内にはほかにいない。
 しかも、近づいてみるとタッチは生々しいが、離れてみると写真のようにリアルで、職人芸ともいうべき高度なわざを堪能できる。
 新興住宅地のなんでもない風景を、きっちり1枚の絵に仕上げる力量は、驚くべきものだ。

 荒田長太郎さん「記念写真」は、段ボールの壁の、あいたところに人形を整列させて描いた。
 手前の畳の目が垂直に描かれており、また、壁のほうは、透視図法的な奥行き感を排除しているあたり、現代の絵画だなと思う。
 さびの描写などには、神田日勝の残響を聴くことができるようだ。

 岡崎公輔さん「雪舞う層雲峡」も、縦位置。峨々たる山塊と崖、舞う雪などが描かれ、奥行きのある構図である。
 もっとも、この作者の真骨頂は「麦刈あとの大地」など、日本離れした広さを有する道東の農業地帯を描いた作品かもしれない。あまり高い山が視野に入ってこないオホーツクでは、ともすればメリハリを欠いた構図になりがちだが、きっちりと絵に仕立てている。

 阿部賢一さんは一貫して海辺をモティーフに、丹念な筆運び。
 安藤志津夫さんは、旧日本軍の軍事設備を描き、不気味な存在感をかもし出す。
 加我宏一さんも、水辺に題材を得た絵が多い。「古いサイロ」も、雪解け水に、季節への感受性がこめられている。
 金谷武敏さんは、どこかアンリ・ルソー調の、ほのぼのとした描線。「初夏の濤沸湖」は、藻琴山を背に馬が緑の草をはむ、平和な風景だ。
 武信芳子さんは全点が水彩。モデル役を務める身近な人々への視線が優しい。
 田代巌さんは、どの色にもホワイトを混色して明度を上げる、古くからの手法を踏襲。「白樺と小路」は、富里湖森林公園が題材だろうか。
 内藤栄子さんは、このメンバーの中では比較的おおまかなタッチ。「春望」は、早春の丘の上から平らな畑を望む構図だが、中村善策の絵に似た構図のものがあったように思う。 
 

 出品作は次の通り。

阿部賢一  待春の河畔(F100) 番屋のある相泊浜(F100) 桃内海岸(F100) 朽ちしもの(F100) 海辺の廃屋(F100)

荒田長太郎 移転(F100) 物品庫の中 I(F50) 物品庫の中 II(F50) 記念写真(F100)

安藤志津夫 クサビのあるトーチカ(F100) 逆さのトーチカ(P100) 日ざしのあるトーチカ(F100) 晴れた日のトーチカ(F100) 初冬の渓流(P100)  

岡崎公輔  山道 春の兆し(F30) 雪多い農道(F30) 雪舞う層雲峡(P80) 晩秋山並(P100) 麦刈あとの大地(P120) 大地盛夏(F100) 

加我宏一  チミケップ湖の秋(F100) 美幌峠(石)(F100) ポプラ(F100) 早春の湖畔(F100) 古いサイロ(F100) 

勝谷明男  雪積む集落(F100) 雪の里(F100) 雪解道(F100) 初冬の丘陵(F50) 北四線の家(F30) 農場残雪(F50、水彩)

金谷武敏  初冬の濤沸湖(F100) 夏のトド原(F100) 初冬のオホーツク海辺(F100) 秋の羅臼岳(F50) 初春の農村風景(F40)  

武信芳子  子犬を抱く娘(F80) 静日(F60) 微睡まどろむ(F60) 花の駐車場(F40) 由美子さん(F40) ワッカオイ(F40) コブシ(F30)=以上7点水彩

田代 巌  白樺と小路(F100) 清流I(F100) 清流II(F100) 朽ちて行くもの(F80) 雪の道(出勤)(F80)

内藤栄子  早春(F100) 斑雪(F100) 木の芽時(F100) 春望(F100) 山峡の秋(F100) 


2012年6月12日(火)~17日(日)9:30~4:30
北網圏ほくもうけん北見文化センター美術館(北見市公園町)
入場無料



・JR北見駅から約1.7キロ、徒歩22分
・北海道北見バス「1 小泉三輪線」で「野付牛公園入口」降車。約5分
※この路線は日中15分間隔で運行。北見駅の前にバス停あり


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