北海道美術ネット別館

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■吉成翔子個展 そよそよのものがたり (2016年12月7日~21日、札幌) と彫刻のメインストリームについて

2016年12月20日 12時12分12秒 | 展覧会の紹介-工芸、クラフト
 
 道教大在学中から盛んに制作・発表を続けてきた若手金工作家の個展。
 札幌の共同スタジオを拠点に制作を続けながら、故郷・上川管内幌加内町政和地区で毎夏「政和Fes」というアートフェスティバルの開催に尽力している。

 吉成さんのインスタレーションは、リズミカルで、かわいらしい。
 力強さもあるし、なにより見ていて心がなごむ。
 だけれど正直なところ、心のどこかで、ロダンやブランクーシといった近代彫刻のメインストリームとは違って、作品のどこかに「甘さ」があるという印象をぬぐえなかった。
 「甘さ」というのは造形の甘さであり、また文字通りの意味での「甘美さ」ということでもあった。

 しかし、会場に貼られた次のステイトメントのような文章を読んで、そんなことはもうどうでもよくなってしまった。

 引用する。

故郷の山を想ったときの気持ちを形にしました。
光がさして、風が吹いて、水が流れて、草木が揺れて、動物が棲む。
し色ママも悲しい色も、優しい音も切ない音も、あたたかさも冷たさも、そこに存在するすべてのもの、そこで起きるすべての出来事が大切で愛おしい、そんな形です。
素材は硬くて冷たい鉄ですが、柔らかくてあたたかくて抱っこして撫でたくなるような愛おしくて仕方ないそよそよたちです。


 これを読み終えたとき、まるっこい金属の立体がならぶ目の前の部屋は、ことしの夏に見た幌加内のソバ畑に変わっていた。




 わたる風。
 光る空。
 それこそが、芸術家にとっての真実である。個人的な真実であるが、それだからこそ普遍性を持ちうるのではないか。
 教科書に書かれているような教則は、最大公約数的に正しいのかもしれないけれど、ついに各個人にとって「いちばん大切な思い」にならないのではないか。

 筆者は先に、近現代芸術のメインストリーム的な造形について書いた。
 しかし、それらは一見普遍性を持った顔をしているようでいて、じつは「白人男性」「西洋中心主義者」にとってのユニバーサリズムに過ぎないのかもしれないではないか。

 そう考えると、吉成さんの仕事をむりに「近現代彫刻」の延長線上に位置づけることは、あまり意味のあることではないように思えてきた。
 自分に素直で、環境に真実で、見る人を楽しませたら、それ以上に何を求めることがあるだろう。
 近現代彫刻の骨太さをそこに求めることは、むしろ彼女の作品の美質を殺してしまう恐れがある。

 そこに北海道の自然があり、四季がある。

 それが吉成翔子の、そよそよの世界なのだ。

 なお、この文章では「金工」と「彫刻」の区別についてはあえて掘り下げなかった。

 北海道では以前から金属工芸の分野で、彫刻的な仕事をする作家が多数出ている。
 嚆矢としてまず挙げるべきは小林繁美であろう。近年の各種大型展には出品していないので半ば忘れかけられているきらいがないでもないが、アフリカ彫刻を思わせる土俗的なフォルムは、一度見たら忘れられない力をもっている。
 彼に近い世代のレリーフ作家はやや通俗的であるが、その下の世代では武田享恵をはじめとする多くの女性作家が力強い造形に取り組んでいる。

 造形という観点からは彫刻と遜色がなく、陶芸や木工と異なり「用の美」をほとんど求められない金工をどのようにアート全体のなかに位置づければいいのかという問題は、今後の筆者にとっての、あるいは北海道美術界の課題です。


 あと、2階の小品をご覧になるのをお忘れなく。


2016年12月7日(水)~21日(水)正午~午後8時(最終日~午後6時)、火休み
北海道教育大学アーツ&スポーツ文化複合施設HUG(札幌市中央区北1東2)


関係記事へのリンク
政和アートFes ■続き (2016年夏)

あな展 吉成翔子 (2010)
吉成翔子個展 (2010年9月)

遠くを聴く この言葉で繋がる7人の世界 (2009年11月)
金工時間 金属造形作家3人による展覧会 松田郁美・町嶋真寿・吉成翔子(2009年9-10月)
金工展(2008年)=画像なし


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