札幌の画家木村由紀子さんの、6年ぶりとなる個展。
木村さんは2002~03年あたりから抽象に転じ、直線によるかたちがダイナミックに崩壊するような絵柄の作品を手がけてきました。この数年は、曲線が多くなるとともに、マチエールにはさらに工夫がこらされています。
1983年以来出品を続けてきた独立展ではこの数年活躍がめざましく、2009年佳作賞、10~12年に奨励賞、13年に「山田文子賞」、14年に奨励賞、15年に「中山賞」と、連続して賞を受けています。
(なお、全道展では、1999年から会員です)
今回の個展では「CERTOS」と題されたシリーズを中心に、2012年以降の作品を展示しています。
いずれもアクリル画です。
「CRETOS」は、古代ギリシャ文明揺籃の島であるクレタの古名。小説家の城山三郎さんの文章で見つけたことばで、彼が若いころ仲間とつくっていたグループの名だそうです。クレタ島の火山は休火山ですが、いつの日か噴火するエネルギーを秘めている―という意味合いをふくんでいるのでしょう。
これらの絵にも、木村さんの秘めた思いや叫びが込められていると思います。
上の画像は「CRETOS 2012」など。
これらの作品では中央部分が白っぽく、両端が黒くなっています。
それを逆に、つまり、中央部を暗く、周囲を白く描いたらどうなるか。ということで取り組んでみたのが、冒頭の画像の近作群です。
左は、中山賞を受けた「CRETOS 2015」。
これも、黒々とした穴が画面中央を大きく占めています。
しかしよく見ると、ただの黒ではありません。
赤い絵の具をまいて、拭き取った跡があります。周囲には青っぽい紫も描かれています。
一見、色数を抑えた表現のように見えながら、白や黒の絵の具の下に、いろいろな色彩が隠されているのです。
さらに、くしのようなもので表面をひっかいたり、紙粘土で下地を盛り上げたりといった工夫も重ねています。ただし「技法のための技法」には陥っておらず、それらの工夫が画面のバランスを崩すほど目立っているわけではありません。
仕上げには、画面の右側を縦に貫く直線が引かれ、画面をぐっと引き締めています。
「私もともと直線が好きなんですよ。コンテであたりをつけて、最後にぐっと線を引きます」
黒い部分が単に黒く塗られているだけでは、これほどの深みは、画面に感じられないでしょう。単なる黒ではないからこそ、見る者に、なにかしら迫ってくるものがあるのだと思います。
木村さんは、これまでの作品の、白の使い方に不満を抱き、今年の最新作では、白い絵の具の下の層から異なる色が見えるように、塗り重ね方を変えています。
画面からどういう感情を読み取るかは、見る側の自由でしょう。筆者は、あくまで個人的な感覚ではありますが、曲線から浮遊感を、黒い部分からは危機感や切迫感のようなものを受け取っていました。抽象画ならではのダイナミックな構図、色彩が、見応えある世界を創り出している個展です。
2016年9月5日(月)~10日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(札幌市中央区北1西3)
木村さんは2002~03年あたりから抽象に転じ、直線によるかたちがダイナミックに崩壊するような絵柄の作品を手がけてきました。この数年は、曲線が多くなるとともに、マチエールにはさらに工夫がこらされています。
1983年以来出品を続けてきた独立展ではこの数年活躍がめざましく、2009年佳作賞、10~12年に奨励賞、13年に「山田文子賞」、14年に奨励賞、15年に「中山賞」と、連続して賞を受けています。
(なお、全道展では、1999年から会員です)
今回の個展では「CERTOS」と題されたシリーズを中心に、2012年以降の作品を展示しています。
いずれもアクリル画です。
「CRETOS」は、古代ギリシャ文明揺籃の島であるクレタの古名。小説家の城山三郎さんの文章で見つけたことばで、彼が若いころ仲間とつくっていたグループの名だそうです。クレタ島の火山は休火山ですが、いつの日か噴火するエネルギーを秘めている―という意味合いをふくんでいるのでしょう。
これらの絵にも、木村さんの秘めた思いや叫びが込められていると思います。
上の画像は「CRETOS 2012」など。
これらの作品では中央部分が白っぽく、両端が黒くなっています。
それを逆に、つまり、中央部を暗く、周囲を白く描いたらどうなるか。ということで取り組んでみたのが、冒頭の画像の近作群です。
左は、中山賞を受けた「CRETOS 2015」。
これも、黒々とした穴が画面中央を大きく占めています。
しかしよく見ると、ただの黒ではありません。
赤い絵の具をまいて、拭き取った跡があります。周囲には青っぽい紫も描かれています。
一見、色数を抑えた表現のように見えながら、白や黒の絵の具の下に、いろいろな色彩が隠されているのです。
さらに、くしのようなもので表面をひっかいたり、紙粘土で下地を盛り上げたりといった工夫も重ねています。ただし「技法のための技法」には陥っておらず、それらの工夫が画面のバランスを崩すほど目立っているわけではありません。
仕上げには、画面の右側を縦に貫く直線が引かれ、画面をぐっと引き締めています。
「私もともと直線が好きなんですよ。コンテであたりをつけて、最後にぐっと線を引きます」
黒い部分が単に黒く塗られているだけでは、これほどの深みは、画面に感じられないでしょう。単なる黒ではないからこそ、見る者に、なにかしら迫ってくるものがあるのだと思います。
木村さんは、これまでの作品の、白の使い方に不満を抱き、今年の最新作では、白い絵の具の下の層から異なる色が見えるように、塗り重ね方を変えています。
画面からどういう感情を読み取るかは、見る側の自由でしょう。筆者は、あくまで個人的な感覚ではありますが、曲線から浮遊感を、黒い部分からは危機感や切迫感のようなものを受け取っていました。抽象画ならではのダイナミックな構図、色彩が、見応えある世界を創り出している個展です。
2016年9月5日(月)~10日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(札幌市中央区北1西3)