イギリス詩/アメリカ詩とその日本語訳(自作)
English Poetry (Eng/Jap)
Shakespeare, "Ariel's Song"
ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)
「エアリエルの歌」
(「あなたの父は海のなか」)
あなたの父は海のなか、深さ30フィートものところ。
その骨はサンゴになり、
あの真珠は彼の目だった。
彼のからだは少しずつ消え、
すべての部分が海の力で変化する、
きれいで、そして不思議なものに。
海の妖精が、一時間ごとに弔いの鐘を鳴らす。
[妖精たちのコーラス]カラン、カラン
ほら、鐘がカラン、カランと鳴っている。
* * *
William Shakespeare
"Ariel's Song"
("Full fathom five thy Father lies")
Full fathom five thy Father lies,
Of his bones are Coral made:
Those are pearls that were his eyes,
Nothing of him that doth fade,
But doth suffer a Sea-change
Into something rich, and strange:
Sea-Nymphs hourly ring his knell.
[Burthen:] ding dong.
Harke now I heare them, ding-dong bell.
* * *
『あらし』(The Tempest)のサブ・プロットより。
(1)
アロンゾーAlonso(父)とファーディナンド
Ferdinand(子)らが乗っていた船を、孤島に住む
主人公の魔法使いプロスペローProsperoが難破させる。
(2)
アロンゾーと離ればなれになって、ひとりで
プロスペローの島にたどり着いたファーディナンドに対して、
妖精エアリエルArielがこの歌を歌う。
(プロスペローの命令で? )
(3)
本当はアロンゾーも生きていて・・・・・・。
* * *
以下、訳注と解釈例。
1 fathom
水深の単位。両腕を広げたときの、指先から指先までの
長さ。1 fathom = 6 feet = 1.8288m
2
構文は、Coral are made Of his bones
のはず。 Beは、原文で直前のbonesに引っぱられて
areになっているのかと。また、集合体という意識もあって?
サンゴ

http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Coral_fiji_moturiki.jpg
4 fade
しだいに消える(OED 6a)。今では、何かがゆっくり
消えるようすを映像で見せることができるが、もちろん
16-17世紀にそんな技術はなかった。が、OEDの
この箇所の用例を見ると、文学的に、言葉のなかで、
そんなようすが描かれていたことがわかる。(スペンサーの
『妖精の女王』、シェイクスピアの『あらし』からの例文がある。)
5 suffer
(特に変化などの)作用を受ける、過程を経る
(OED 8; この箇所が用例としてあげれらている)。
6 rich
価値のある、高価な(OED 4a)。
きらびやかな(ドレスなど)(OED 5a)。
8 Burden
歌の最後にくり返されるフレーズ、サビ(OED 10)。
ここでは、舞台裏から妖精たちが歌う、という演出。
9 ding-dong
動詞として解釈。コンマをとって、I hear them
[= Sea-Nymphs] ding-dong bell
(海の妖精たち鐘をカラン、カランと鳴らすのが聞こえる)
という構文にして。
Hear + (名詞) + (動詞原形)
(名詞)が(動詞)するのが聞こえる、
という(高校?)受験英語のパターン。
近年の版では、この最後のding-dong bellも、
舞台裏で妖精たちが歌うものとされている。
(手元にあるのは、1999年のArden版。)
こちらで訳せば、次のような感じに。
(エアリエル)
ほら、聞こえるよ。
(舞台裏の妖精たち)
カラン、カラン、と鐘の音。
* * *
以下、リズムについて。

基調はストレス・ミーター(四拍子)。
シェイクスピアの詩の作り方は自由(自然な会話に
近い)といわれるが、この歌も、語のストレス
(ふつうの発音で強く/大きく/長くなるところ)と
ビート(歌のなかで拍子がのるところ)が重ならない
ところが目立つ。
ストレスの位置や各行の音節数から、散文ではなく
歌的、というところまでは明らかに感じられるが、
どんなリズムの歌なのか、というところは明確でなく、
いろいろな解釈でいろいろな曲にすることが可能。
たとえば、2, 4, 6行目の7音節は、四つのビートに
のせることも、三つのビートにのせて一拍休む
(言葉なしにする)こともできる。
(3, 5行目も3+1にしようと思えばできる。
行のはじめのThoseとButのビートを落とせば。)
対照的なのが、バイロンの「オーガスタ」(20110211)。
こちらは、ストレスとビートが基本的に一致していて、
詩がはじめから特定のリズムを要求するタイプ。
(この特定の、タンゴ的なリズムがまずバイロンの頭に
あって、それを詩のなかで、言葉だけで伝えたいので、
ストレスをビートにきちんと重ねた、ということ。)
* * *
このような対照は、日本語でいえば、七五調の詩と
そうでないものの関係に近いのでは。
七五調の文章は、歌(メロディとリズム)なしで
ふつうに読んでも、明確なリズムを感じさせるが、
七五調でない文章は、歌にのせようと思えばのせられるし、
のせなければ、ふつうの散文や会話文。
七五調の歌:
昔々、浦島は、
助けた亀に連れられて、
竜宮城に来てみれば……
七五調でない歌:
何ひとつ確かなものなどないと叫ぶ
足りないものがあるそれが俺の心
満たされないものがあるそれが人の心……
バイロン「オーガスタ」は上のタイプで、
シェイクスピアの「エアリアル」は下。
時代、雰囲気など、もちろん、いろいろ違う
ということは、差し引いて。
(この下の曲、ビートを無視した、かなり散文的な
歌詞ののせ方をしていますが、意外と歌詞自体は
七五調を基調としているようで、少し驚きました。
先入観なしで見てもらえれば、と思いますので、
あえて作者、タイトルは記しません。Oさんです。)
* * *
「エアリエル」の歌のように自由で散文的な
詩は、17世紀末から18世紀にかけての詩論では、
「詩」と認められていませんでした。
(シェイクスピアやミルトンなどの自由なスタイルは、
彼らは天才だから別、とか、いや、あれは実は散文、
などとかたづけられたりして。)
……というようなことが書かれた次の本を、
今(さら)読んで、イギリス詩の歴史を学んでいます。
P. Fussell. Theory of Prosody in Eighteenth-Century England.
(1966).
これはおすすめ、本当に必読です。誰か訳すべき。
(以前から紹介していたものとあわせ、いつになるか
わかりませんが、また後日、おすすめ本/論文のリストを
まとめたいと考えています。)
* * *
英文テクストは、ヴァージニア大学のサイトにある
フォリオ版を、現代英語にしたもの。
http://etext.lib.virginia.edu/etcbin/toccer-new2?
id=ShaTemF.sgm&images=images/modeng&data=/texts/
english/modeng/parsed&tag=public&part=1&division=div1
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
「エアリエルの歌」
(「あなたの父は海のなか」)
あなたの父は海のなか、深さ30フィートものところ。
その骨はサンゴになり、
あの真珠は彼の目だった。
彼のからだは少しずつ消え、
すべての部分が海の力で変化する、
きれいで、そして不思議なものに。
海の妖精が、一時間ごとに弔いの鐘を鳴らす。
[妖精たちのコーラス]カラン、カラン
ほら、鐘がカラン、カランと鳴っている。
* * *
William Shakespeare
"Ariel's Song"
("Full fathom five thy Father lies")
Full fathom five thy Father lies,
Of his bones are Coral made:
Those are pearls that were his eyes,
Nothing of him that doth fade,
But doth suffer a Sea-change
Into something rich, and strange:
Sea-Nymphs hourly ring his knell.
[Burthen:] ding dong.
Harke now I heare them, ding-dong bell.
* * *
『あらし』(The Tempest)のサブ・プロットより。
(1)
アロンゾーAlonso(父)とファーディナンド
Ferdinand(子)らが乗っていた船を、孤島に住む
主人公の魔法使いプロスペローProsperoが難破させる。
(2)
アロンゾーと離ればなれになって、ひとりで
プロスペローの島にたどり着いたファーディナンドに対して、
妖精エアリエルArielがこの歌を歌う。
(プロスペローの命令で? )
(3)
本当はアロンゾーも生きていて・・・・・・。
* * *
以下、訳注と解釈例。
1 fathom
水深の単位。両腕を広げたときの、指先から指先までの
長さ。1 fathom = 6 feet = 1.8288m
2
構文は、Coral are made Of his bones
のはず。 Beは、原文で直前のbonesに引っぱられて
areになっているのかと。また、集合体という意識もあって?
サンゴ
http://commons.wikimedia.org/wiki/
File:Coral_fiji_moturiki.jpg
4 fade
しだいに消える(OED 6a)。今では、何かがゆっくり
消えるようすを映像で見せることができるが、もちろん
16-17世紀にそんな技術はなかった。が、OEDの
この箇所の用例を見ると、文学的に、言葉のなかで、
そんなようすが描かれていたことがわかる。(スペンサーの
『妖精の女王』、シェイクスピアの『あらし』からの例文がある。)
5 suffer
(特に変化などの)作用を受ける、過程を経る
(OED 8; この箇所が用例としてあげれらている)。
6 rich
価値のある、高価な(OED 4a)。
きらびやかな(ドレスなど)(OED 5a)。
8 Burden
歌の最後にくり返されるフレーズ、サビ(OED 10)。
ここでは、舞台裏から妖精たちが歌う、という演出。
9 ding-dong
動詞として解釈。コンマをとって、I hear them
[= Sea-Nymphs] ding-dong bell
(海の妖精たち鐘をカラン、カランと鳴らすのが聞こえる)
という構文にして。
Hear + (名詞) + (動詞原形)
(名詞)が(動詞)するのが聞こえる、
という(高校?)受験英語のパターン。
近年の版では、この最後のding-dong bellも、
舞台裏で妖精たちが歌うものとされている。
(手元にあるのは、1999年のArden版。)
こちらで訳せば、次のような感じに。
(エアリエル)
ほら、聞こえるよ。
(舞台裏の妖精たち)
カラン、カラン、と鐘の音。
* * *
以下、リズムについて。
基調はストレス・ミーター(四拍子)。
シェイクスピアの詩の作り方は自由(自然な会話に
近い)といわれるが、この歌も、語のストレス
(ふつうの発音で強く/大きく/長くなるところ)と
ビート(歌のなかで拍子がのるところ)が重ならない
ところが目立つ。
ストレスの位置や各行の音節数から、散文ではなく
歌的、というところまでは明らかに感じられるが、
どんなリズムの歌なのか、というところは明確でなく、
いろいろな解釈でいろいろな曲にすることが可能。
たとえば、2, 4, 6行目の7音節は、四つのビートに
のせることも、三つのビートにのせて一拍休む
(言葉なしにする)こともできる。
(3, 5行目も3+1にしようと思えばできる。
行のはじめのThoseとButのビートを落とせば。)
対照的なのが、バイロンの「オーガスタ」(20110211)。
こちらは、ストレスとビートが基本的に一致していて、
詩がはじめから特定のリズムを要求するタイプ。
(この特定の、タンゴ的なリズムがまずバイロンの頭に
あって、それを詩のなかで、言葉だけで伝えたいので、
ストレスをビートにきちんと重ねた、ということ。)
* * *
このような対照は、日本語でいえば、七五調の詩と
そうでないものの関係に近いのでは。
七五調の文章は、歌(メロディとリズム)なしで
ふつうに読んでも、明確なリズムを感じさせるが、
七五調でない文章は、歌にのせようと思えばのせられるし、
のせなければ、ふつうの散文や会話文。
七五調の歌:
昔々、浦島は、
助けた亀に連れられて、
竜宮城に来てみれば……
七五調でない歌:
何ひとつ確かなものなどないと叫ぶ
足りないものがあるそれが俺の心
満たされないものがあるそれが人の心……
バイロン「オーガスタ」は上のタイプで、
シェイクスピアの「エアリアル」は下。
時代、雰囲気など、もちろん、いろいろ違う
ということは、差し引いて。
(この下の曲、ビートを無視した、かなり散文的な
歌詞ののせ方をしていますが、意外と歌詞自体は
七五調を基調としているようで、少し驚きました。
先入観なしで見てもらえれば、と思いますので、
あえて作者、タイトルは記しません。Oさんです。)
* * *
「エアリエル」の歌のように自由で散文的な
詩は、17世紀末から18世紀にかけての詩論では、
「詩」と認められていませんでした。
(シェイクスピアやミルトンなどの自由なスタイルは、
彼らは天才だから別、とか、いや、あれは実は散文、
などとかたづけられたりして。)
……というようなことが書かれた次の本を、
今(さら)読んで、イギリス詩の歴史を学んでいます。
P. Fussell. Theory of Prosody in Eighteenth-Century England.
(1966).
これはおすすめ、本当に必読です。誰か訳すべき。
(以前から紹介していたものとあわせ、いつになるか
わかりませんが、また後日、おすすめ本/論文のリストを
まとめたいと考えています。)
* * *
英文テクストは、ヴァージニア大学のサイトにある
フォリオ版を、現代英語にしたもの。
http://etext.lib.virginia.edu/etcbin/toccer-new2?
id=ShaTemF.sgm&images=images/modeng&data=/texts/
english/modeng/parsed&tag=public&part=1&division=div1
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
| « テーマ別作品リス... | テーマ別作品リス... » |
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。