イギリス詩/アメリカ詩とその日本語訳(自作)
English Poetry (Eng/Jap)
Milton, From _A Mask_ (244-52)
ジョン・ミルトン (1608-1674)
『ラドロウ城で演じられた仮面劇』
(通称『コウマス』)(244-52)
大地の土を混ぜてつくられた、永遠の生をもたない人間が、
このような神々しく心奪うような声で歌うことができるのか?
いや、何か聖なるものがこの子の胸に宿っているにちがいない。
そしてこのようにうっとりさせる何かを使って空気に声を出させて、
そこに隠れていることを知らせようとしているのだ。
ああ、なんと美しく、あの歌声は沈黙の翼にのって空を
舞っていたことか。空っぽな丸天井のような夜空をめぐり、ただよい、
低音に下がるたびに、大きなカラスのような闇の羽を
なでてやりながら。その闇も、うれしそうにほほえんでいた・・・・・・。
* * *
John Milton
From A Mask Presented at Ludlow Castle, 1634
(244-52)
Can any mortal mixture of Earths mould
Breath such Divine inchanting ravishment?
Sure somthing holy lodges in that brest,
And with these raptures moves the vocal air
To testifie his hidd'n residence;
How sweetly did they float upon the wings
Of silence, through the empty-vaulted night
At every fall smoothing the Raven doune
Of darknes till it smil'd. . . .
* * *
夜の森に迷った少女の歌を聴いて、
魔法使いコウマスがいうセリフ。
* * *
訳注。
244 mortal mixture of Earths mould
土からつくられた人間、ということ。聖書の創世記にある通り。
mortal: 死ぬ運命にある。
Earth: 大地、地面(OED I)
(Earths = Earth's)
mould: 地面の表面にあるかたまっていない土(OED 1)。
245 ravishment
心を奪うこと、また心を奪われた状態(OED 3)。
もともとravishとは、人を奪う(無理やり連れ去る)
ことなので、そのように、いわば強引に心を奪う、
というニュアンス。
ここでは、そのように心を奪う歌声のこと。
歌声という具体的なものを、心を奪うこと、
という抽象概念にたとえて表現。
247 raptures
心を奪うこと、また心を奪われた状態(OED 5a)。
こちらのもとの意味は、天に連れていかれる、
ということ。(比喩的に、または文字通りに)
(OED "rapt", pa.pple.)。
ここでは、これも歌声のこと。
247
the vocal air
声をもつ空気。つまり、科学的には、人が声を
出して空気を振動させるが、ここでは、少女の
胸に宿る何か神聖なものが、何か心奪うものを発して、
そして空気そのものに声を出させている、と表現。
16-17世紀の詩によく見られる奇想conceit
(空想豊かで、また機知に富んだ、器用な思考や
その表現−−OED, "conceit" n.8)の例。
文学史的には、このような表現方法を特に顕著に
受け継いだのが、コールリッジやシェリー。
(実際、程度の差はあれ、ほとんどの詩人に
見られるものだが。)
249 they
= these raptures ( = 少女の歌声)
249-50
歌声が沈黙の羽にのって舞う、というのも奇想。
251-52
fall:
メロディの音程が下がること(OED, n.1. 10)。
+
歌声をのせて飛びまわっている沈黙が下降すること。
(たとえば、妖精をのせて飛んでいる鳥のように。)
+
何かをなでるために人が手を上から降ろすこと。
ここでは、こうして大きなカラスのような闇の羽を
なでる。すると、この闇がうれしそうにほほえむ。
* * *
以上、複雑すぎて、劇のセリフとしては
日本語ではかなり厳しいと思われるので、
要約し、また間をおいて表記してみる。
---
神ではない人間が、
このような神々しく、心奪うような声で
歌うことができるのか?
いや、何か聖なるものが
この子の胸に宿っているにちがいない。
そして、魔法か何かで空気をふるわせて、
自分の存在を知らせようとしているのだ。
ああ、なんと美しく、あの歌声は
沈黙の翼にのって空を舞っていたことか。
丸天井のような夜空をめぐり、ただよい、
メロディにあわせて、闇夜の羽を
なでてやりながら。
闇夜もうれしそうに、
ほほえんでいるかのようだった。
* * *
詩形はブランク・ヴァース(弱強五歩格無韻)。
(厳密にx/x/x/x/x/と並んでいるわけでは
もちろんない。)
* * *
英文テクストは、Milton, Poems (1645) より。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/comus/index.shtml
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
『ラドロウ城で演じられた仮面劇』
(通称『コウマス』)(244-52)
大地の土を混ぜてつくられた、永遠の生をもたない人間が、
このような神々しく心奪うような声で歌うことができるのか?
いや、何か聖なるものがこの子の胸に宿っているにちがいない。
そしてこのようにうっとりさせる何かを使って空気に声を出させて、
そこに隠れていることを知らせようとしているのだ。
ああ、なんと美しく、あの歌声は沈黙の翼にのって空を
舞っていたことか。空っぽな丸天井のような夜空をめぐり、ただよい、
低音に下がるたびに、大きなカラスのような闇の羽を
なでてやりながら。その闇も、うれしそうにほほえんでいた・・・・・・。
* * *
John Milton
From A Mask Presented at Ludlow Castle, 1634
(244-52)
Can any mortal mixture of Earths mould
Breath such Divine inchanting ravishment?
Sure somthing holy lodges in that brest,
And with these raptures moves the vocal air
To testifie his hidd'n residence;
How sweetly did they float upon the wings
Of silence, through the empty-vaulted night
At every fall smoothing the Raven doune
Of darknes till it smil'd. . . .
* * *
夜の森に迷った少女の歌を聴いて、
魔法使いコウマスがいうセリフ。
* * *
訳注。
244 mortal mixture of Earths mould
土からつくられた人間、ということ。聖書の創世記にある通り。
mortal: 死ぬ運命にある。
Earth: 大地、地面(OED I)
(Earths = Earth's)
mould: 地面の表面にあるかたまっていない土(OED 1)。
245 ravishment
心を奪うこと、また心を奪われた状態(OED 3)。
もともとravishとは、人を奪う(無理やり連れ去る)
ことなので、そのように、いわば強引に心を奪う、
というニュアンス。
ここでは、そのように心を奪う歌声のこと。
歌声という具体的なものを、心を奪うこと、
という抽象概念にたとえて表現。
247 raptures
心を奪うこと、また心を奪われた状態(OED 5a)。
こちらのもとの意味は、天に連れていかれる、
ということ。(比喩的に、または文字通りに)
(OED "rapt", pa.pple.)。
ここでは、これも歌声のこと。
247
the vocal air
声をもつ空気。つまり、科学的には、人が声を
出して空気を振動させるが、ここでは、少女の
胸に宿る何か神聖なものが、何か心奪うものを発して、
そして空気そのものに声を出させている、と表現。
16-17世紀の詩によく見られる奇想conceit
(空想豊かで、また機知に富んだ、器用な思考や
その表現−−OED, "conceit" n.8)の例。
文学史的には、このような表現方法を特に顕著に
受け継いだのが、コールリッジやシェリー。
(実際、程度の差はあれ、ほとんどの詩人に
見られるものだが。)
249 they
= these raptures ( = 少女の歌声)
249-50
歌声が沈黙の羽にのって舞う、というのも奇想。
251-52
fall:
メロディの音程が下がること(OED, n.1. 10)。
+
歌声をのせて飛びまわっている沈黙が下降すること。
(たとえば、妖精をのせて飛んでいる鳥のように。)
+
何かをなでるために人が手を上から降ろすこと。
ここでは、こうして大きなカラスのような闇の羽を
なでる。すると、この闇がうれしそうにほほえむ。
* * *
以上、複雑すぎて、劇のセリフとしては
日本語ではかなり厳しいと思われるので、
要約し、また間をおいて表記してみる。
---
神ではない人間が、
このような神々しく、心奪うような声で
歌うことができるのか?
いや、何か聖なるものが
この子の胸に宿っているにちがいない。
そして、魔法か何かで空気をふるわせて、
自分の存在を知らせようとしているのだ。
ああ、なんと美しく、あの歌声は
沈黙の翼にのって空を舞っていたことか。
丸天井のような夜空をめぐり、ただよい、
メロディにあわせて、闇夜の羽を
なでてやりながら。
闇夜もうれしそうに、
ほほえんでいるかのようだった。
* * *
詩形はブランク・ヴァース(弱強五歩格無韻)。
(厳密にx/x/x/x/x/と並んでいるわけでは
もちろんない。)
* * *
英文テクストは、Milton, Poems (1645) より。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/comus/index.shtml
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
加筆修正の記録
加筆修正の記録
20120522
Wordsworth, ("The world is. . . .") (20125019)
13-14行目の訳注に加筆(神話関係)。
---
20120521
道端アート/素人アート (5)(20120428)に
一点追加。
---
20120517
Milton, Paradise Lost (11: 689-97)(20120505)
日本語訳を修正し、訳注にも加筆しました(構文関係)。
日本語訳は、天使ミカエルの言葉を「である」調から
「ですます」調に。
---
20111001
Shelley, "To Jane" (20110813)
テクストを手稿のものに差し替え、また、訳やリズムの
分析のところなど修正しました。
---
20111001
CG Rossetti, "Artist's Studio" (20110924)
形式/音声の解説を加えました。
---
20110927
CG Rossetti, "Artist's Studio"(20110924)
画像を載せ、また若干加筆しました。
---
20110814
T. S. Eliot, "La Figlia Che Piange"(20110723)
リズムの解釈例を追記しました。
---
20110724
Wordsworth, "My heart . . . " (20110716)
スキャンジョンを差し替え、少し説明を加えました。
Cowley (20110709)
略歴など、少し情報を加えました。
---
20110517
Yeats, "When You Are Old" (20110509)
日本語訳を修正しました(第2スタンザ)。
20120522
Wordsworth, ("The world is. . . .") (20125019)
13-14行目の訳注に加筆(神話関係)。
---
20120521
道端アート/素人アート (5)(20120428)に
一点追加。
---
20120517
Milton, Paradise Lost (11: 689-97)(20120505)
日本語訳を修正し、訳注にも加筆しました(構文関係)。
日本語訳は、天使ミカエルの言葉を「である」調から
「ですます」調に。
---
20111001
Shelley, "To Jane" (20110813)
テクストを手稿のものに差し替え、また、訳やリズムの
分析のところなど修正しました。
---
20111001
CG Rossetti, "Artist's Studio" (20110924)
形式/音声の解説を加えました。
---
20110927
CG Rossetti, "Artist's Studio"(20110924)
画像を載せ、また若干加筆しました。
---
20110814
T. S. Eliot, "La Figlia Che Piange"(20110723)
リズムの解釈例を追記しました。
---
20110724
Wordsworth, "My heart . . . " (20110716)
スキャンジョンを差し替え、少し説明を加えました。
Cowley (20110709)
略歴など、少し情報を加えました。
---
20110517
Yeats, "When You Are Old" (20110509)
日本語訳を修正しました(第2スタンザ)。
音楽(4)−−日本の音楽−−
音楽(4)−−日本の音楽−−
(静かな音を中心に。)
宮田まゆみ、高田みどり
『星雲』
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008913981-00
(国立国会図書館の所蔵データ)
笙と打楽器。
---
宮田まゆみ
『星の輪』
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008913980-00
(国立国会図書館の所蔵データ)
笙を中心に。
* * *
吉原すみれ
『打楽器通信』
http://www.amazon.co.jp/%E6%89%93%E6%A5%BD%
E5%99%A8%E9%80%9A%E4%BF%A1%E5%90%89%E5%8E%
9F%E3%81%99%E3%81%BF%E3%82%8C/dp/B00005EZYI/
ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1337469712&sr=8-2
打楽器ソロ。
* * *
諸井誠
『竹林奇譚 巻之壱−−斐陀以呂波−−』
http://www.amazon.co.jp/%E8%AB%B8%E4%BA%95%E8%
AA%A0-%E7%AB%B9%E6%9E%97%E5%A5%87%E8%AD%9A-%E5%
B7%BB%E4%B9%8B%E5%A3%B1%E3%80%8C%E6%96%90%E9%99%
80%E4%BB%A5%E5%91%82%E6%B3%A2%E3%80%8D-%E4%B8%89%
E6%A9%8B%E8%B2%B4%E9%A2%A8/dp/B00005G896/ref=
sr_1_1?ie=UTF8&qid=1337541727&sr=8-1
尺八と打楽器? 正直、未知の領域で、
何が何だかよくわからないが、よく聴く作品。
* * *
武満徹
『全集』(全5巻、CD58枚)
http://www.shogakukan.co.jp/takemitsu/
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000004070667-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007348023-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008233320-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007412322-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007599796-00
(国立国会図書館の所蔵データ)
1-2巻がいわゆるクラシック。
* * *
細川俊夫
『うつろひ−−音宇宙I−−」
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%86%E3%81%
A4%E3%82%8D%E3%81%B2-%E9%9F%B3%E5%AE%87%
E5%AE%99I-%E3%82%AA%E3%83%A0%E3%83%8B%E3%
83%90%E3%82%B9-%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%
B7%E3%83%83%E3%82%AF/dp/B00005F00Y/ref=
sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1337468713&sr=1-1
* * *
藤枝守 Mamoru Fujieda
Night Chant 1/3
http://www.amazon.co.jp/Night-Chant-1-M-Fujieda/
dp/B000003YSL/ref=sr_1_fkmr1_1?s=music&ie=UTF8&qid=
1337469322&sr=1-1-fkmr1
* * *
佐藤聰明
『夜へ』
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%9C%E3%81%B8-%E4%BD%90%
E8%97%A4%E8%81%B0%E6%98%8E/dp/B00005EZVM/ref=sr_1_10?ie
=UTF8&qid=1336082429&sr=8-10
* * *
また追記します。
(静かな音を中心に。)
宮田まゆみ、高田みどり
『星雲』
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008913981-00
(国立国会図書館の所蔵データ)
笙と打楽器。
---
宮田まゆみ
『星の輪』
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008913980-00
(国立国会図書館の所蔵データ)
笙を中心に。
* * *
吉原すみれ
『打楽器通信』
http://www.amazon.co.jp/%E6%89%93%E6%A5%BD%
E5%99%A8%E9%80%9A%E4%BF%A1%E5%90%89%E5%8E%
9F%E3%81%99%E3%81%BF%E3%82%8C/dp/B00005EZYI/
ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1337469712&sr=8-2
打楽器ソロ。
* * *
諸井誠
『竹林奇譚 巻之壱−−斐陀以呂波−−』
http://www.amazon.co.jp/%E8%AB%B8%E4%BA%95%E8%
AA%A0-%E7%AB%B9%E6%9E%97%E5%A5%87%E8%AD%9A-%E5%
B7%BB%E4%B9%8B%E5%A3%B1%E3%80%8C%E6%96%90%E9%99%
80%E4%BB%A5%E5%91%82%E6%B3%A2%E3%80%8D-%E4%B8%89%
E6%A9%8B%E8%B2%B4%E9%A2%A8/dp/B00005G896/ref=
sr_1_1?ie=UTF8&qid=1337541727&sr=8-1
尺八と打楽器? 正直、未知の領域で、
何が何だかよくわからないが、よく聴く作品。
* * *
武満徹
『全集』(全5巻、CD58枚)
http://www.shogakukan.co.jp/takemitsu/
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000004070667-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007348023-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008233320-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007412322-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007599796-00
(国立国会図書館の所蔵データ)
1-2巻がいわゆるクラシック。
* * *
細川俊夫
『うつろひ−−音宇宙I−−」
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%86%E3%81%
A4%E3%82%8D%E3%81%B2-%E9%9F%B3%E5%AE%87%
E5%AE%99I-%E3%82%AA%E3%83%A0%E3%83%8B%E3%
83%90%E3%82%B9-%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%
B7%E3%83%83%E3%82%AF/dp/B00005F00Y/ref=
sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1337468713&sr=1-1
* * *
藤枝守 Mamoru Fujieda
Night Chant 1/3
http://www.amazon.co.jp/Night-Chant-1-M-Fujieda/
dp/B000003YSL/ref=sr_1_fkmr1_1?s=music&ie=UTF8&qid=
1337469322&sr=1-1-fkmr1
* * *
佐藤聰明
『夜へ』
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%9C%E3%81%B8-%E4%BD%90%
E8%97%A4%E8%81%B0%E6%98%8E/dp/B00005EZVM/ref=sr_1_10?ie
=UTF8&qid=1336082429&sr=8-10
* * *
また追記します。
Wordsworth, ("The world is too much with us")
ウィリアム・ワーズワース(1770-1850)
(「目先のことにとらわれすぎだ」)
目先のことにとらわれすぎだ。ゆっくりしつつ、急ぎつつ、
手に入れつつ、使いつつ、わたしたちはもっているはずの力をダメにしている。
自然のなか、わたしたちのもの、と呼べるものはほとんどない。
わたしたちは、心を捨てて誰かにあげてしまった。なんて汚れたプレゼント!
月に対して胸をあらわにしているこの海、
いつも泣き声をあげて鳴っている風、
(今は眠る花束のように静まっているが、)
これらに対して、すべてのものに対して、わたしたちの歌はあっていない。
これらに対して、わたしたちは何も感じない・・・・・・神よ! わたしは
すりきれて古くなった教えのなかで育てられた異教徒になりたい。
そうすれば、このきれいな草原からの
景色を見ても、見捨てられたような気持ちにならずにすむだろう。
昔の神話にあるように、プロテウスが海からあがるところが見えたり、
トリトンが巻貝を吹くのが聞こえたりするだろう。
* * *
William Wordsworth
("The world is too much with us")
The world is too much with us; late and soon,
Getting and spending, we lay waste our powers:
Little we see in nature that is ours;
We have given our hearts away, a sordid boon!
This Sea that bares her bosom to the moon;
The Winds that will be howling at all hours
And are up-gathered now like sleeping flowers;
For this, for every thing, we are out of tune;
It moves us not---Great God! I'd rather be
A Pagan suckled in a creed outworn;
So might I, standing on this pleasant lea,
Have glimpses that would make me less forlorn;
Have sight of Proteus coming from the sea;
Or hear old Triton blow his wreathed horn.
* * *
訳注と解釈例。
1 The world
現世的なことがら(OED 2)。
世俗的な生活や関心(OED 4a)。
はっきり書かれていないが、特に産業革命以降の
実利的、商業的なことがら、生活、関心を指すものと
思われる。
また、通常、the worldという語は、宗教的なことがら、
生活、関心の対立項として用いられる。が、
「神よ、古代ギリシャ人のような異教徒になりたい」と
いっている9行目以降でわかるように、この詩では違う。
世俗 <--> 宗教(キリスト教)ではなく、
世俗≒宗教 <--> 自然≒異教(ギリシャ/ローマ神話)。
1
まずは「The worldがあまりにもwith usだ」と
構文を理解すべきのように思うが、その裏に
「The worldはわたしたちにとってtoo muchだ」
というニュアンスもあるような気がする。
too much
耐えられない、がまんできない(OED, "too" 5b)
この場合のthe worldは、「つくられたこの世界、天と地」
(OED 9)。
つまり、「この世界は(卑小な)わたしたちにとって
大きすぎる」というような意味あいで。
(こう読むなら、1行目は3行目と同じような意味。)
2 Getting and spending
手に入れる、使う・・・・・・金を、あるいは金で買えるものを。
特に産業革命以降、急速に近代化されつつあった
生活のあり方をあらわす表現。
3
構文は、in nature we see Little that is ours.
4 give away
贈りものとして与えて手放す(OED, "give" 54a)。
通常、恋愛などにおいて、いい意味で「心をあげる」、
「心を返して」などという表現が使われるが、
ここでは、本来もっていたはずの心や力を失って、
人間が欲得ずくの生き方をするようになっている、
ということで、「汚れたプレゼント」。
5
たとえば、女性が恋人に対してするように。
海と月のあいだの親密な関係、愛しあっているような
関係を示している。8-9行目にあるように、それに
対して人間は・・・・・・というところがポイント。
5 This sea . . . the moon
「この海」−−今、目の前に海が見えている(という想定)。
月−−今は夜(という想定)。
つまり、これは夜の情景。おそらく、夜の海の
深い青と、夜空の同じく深い青が溶けあっている
ようすを、海が月に向かって裸で・・・・・・と表現。

(http://nightsea.blue.coocan.jp/より借用。)
6 howling
[H]owl: 悲しげな、声にならない声を出す。
嘆き声をあげる(OED 2)。強い風がピューピュー
鳴る音を、自然の泣き声、嘆き声にたとえている。
自然が泣き声をあげるのは、人間の生活が
自然から離れる方向に変化してしまったから(?)
7
眠る花束のように風が束ねられ・・・・・・
視覚的に思い浮かべにくいが、今は風が止んでいる、
ということ。そしてそのようすが、夜の花のように静かで
きれいなこと(?)。
また、この行からも、今は夜ということがわかる。
夜だから花が眠っている = 風が止んでいる。
9
8 + 6 というイタリア式ソネットの構成における前半が、
この行まで食いこんでいる。(It moves us notまでが
前半。) ミルトンのソネットのマネであると同時に、
自然と人間の断絶に対する憤りが収まらないようすを
あらわす。(憤りを語る前半を八行で収めるはずが、
収まらなかった。)
10 A pagan
キリスト教から見たときの異教徒。ここでは古代ギリシャ人。
11
つまり、今、海が見える草地にいる(という想定)。
11-13
行末に注目。[S]eaとleaの脚韻は、海と草原の調和、
一体感を暗示。
5行目では海と夜空が調和していた。
ここでは海と草地が調和している。
このseaとleaのあいだにいる「わたし」(人間)は、
forlorn(見捨てられているよう)な気分。(12行目末。)
ちなみに、草地つづきの海とは、こんな感じ。
(昼の写真だが。)

12-14
屈折した表現。今、「わたし」はきれいな夜の海を見て、
そして「見捨てられたような気持ち」になっている。
なぜかといえば、自然がきれいであればあるほど、ますます
自然と人間生活の断絶が思い知らされるから。
(ワーズワースの「春に書いた詩」 "Lines Written
in April" と同じパターン。)
それに対して、キリスト教以前の人であれば、きれいな
海を見れば(実在はしない)海の神が見えるような気が
したはず、そして楽しくおだやかな気持ちになれたはず。
13-14
Proteusは古代ギリシャの海の神。予言の力があり、
またいろいろなものに姿を変えることができた。
Tritonは古代ギリシャの海の神。ポセイドンの子。
これらは表面的な文字通りの言及で、特に深い象徴的な
意味や、神話への言及における一貫性はないと思われる。
たとえば、5-6行目を神話的に読むことはできない。
海の神ポセイドンは男性、月の女神アルテミスは女性、
風の神アイオロスやゼピュロスは男性で、いずれも
この詩の内容にあっていない。
ワーズワースは、いわゆる詩的言語(poetic diction――
アポロが戦車でやってくる=日が昇る、など)の使用に
否定的だったので、神々を登場させても、このような細部に
関しては、あえて無頓着にふるまっているよう。
* * *
リズムについて。


弱強五歩格14行。8行+6行のイタリア式ソネット。
特記すべき点は以下の通り。
1行目
最初の行で基調のリズムを提示する詩が多いが、
この詩は冒頭で、弱強五歩格x/x/x/x/x/ から
かなりはずれている。憤っている作品ということで、
リズムなど気にしない、というスタンスをアピール
しているかのよう。七音節後の行中休止も、
ソネットのはじまり方としては異例な印象。
4行目、8行目、
それぞれ一音節余計についている。そして、それぞれの
行においてこの余計な音節は "we" の弱音節。
(4行目冒頭のWe, および8行目途中のweを除けば
弱強五歩格。)
つまり、自然のなか、世界のなか、人間は余計で
調和しない存在、ということをリズムの点でも暗示。
(2-3行目、6-7行目の女性韻、行末の弱音節は、
余計なものとは数えない。)
* * *
英文テクストは、William Wordsworth, Poems in
Two Volumes, vol. 1 (1807) より。
http://www.gutenberg.org/cache/epub/
8774/pg8774.html
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
(「目先のことにとらわれすぎだ」)
目先のことにとらわれすぎだ。ゆっくりしつつ、急ぎつつ、
手に入れつつ、使いつつ、わたしたちはもっているはずの力をダメにしている。
自然のなか、わたしたちのもの、と呼べるものはほとんどない。
わたしたちは、心を捨てて誰かにあげてしまった。なんて汚れたプレゼント!
月に対して胸をあらわにしているこの海、
いつも泣き声をあげて鳴っている風、
(今は眠る花束のように静まっているが、)
これらに対して、すべてのものに対して、わたしたちの歌はあっていない。
これらに対して、わたしたちは何も感じない・・・・・・神よ! わたしは
すりきれて古くなった教えのなかで育てられた異教徒になりたい。
そうすれば、このきれいな草原からの
景色を見ても、見捨てられたような気持ちにならずにすむだろう。
昔の神話にあるように、プロテウスが海からあがるところが見えたり、
トリトンが巻貝を吹くのが聞こえたりするだろう。
* * *
William Wordsworth
("The world is too much with us")
The world is too much with us; late and soon,
Getting and spending, we lay waste our powers:
Little we see in nature that is ours;
We have given our hearts away, a sordid boon!
This Sea that bares her bosom to the moon;
The Winds that will be howling at all hours
And are up-gathered now like sleeping flowers;
For this, for every thing, we are out of tune;
It moves us not---Great God! I'd rather be
A Pagan suckled in a creed outworn;
So might I, standing on this pleasant lea,
Have glimpses that would make me less forlorn;
Have sight of Proteus coming from the sea;
Or hear old Triton blow his wreathed horn.
* * *
訳注と解釈例。
1 The world
現世的なことがら(OED 2)。
世俗的な生活や関心(OED 4a)。
はっきり書かれていないが、特に産業革命以降の
実利的、商業的なことがら、生活、関心を指すものと
思われる。
また、通常、the worldという語は、宗教的なことがら、
生活、関心の対立項として用いられる。が、
「神よ、古代ギリシャ人のような異教徒になりたい」と
いっている9行目以降でわかるように、この詩では違う。
世俗 <--> 宗教(キリスト教)ではなく、
世俗≒宗教 <--> 自然≒異教(ギリシャ/ローマ神話)。
1
まずは「The worldがあまりにもwith usだ」と
構文を理解すべきのように思うが、その裏に
「The worldはわたしたちにとってtoo muchだ」
というニュアンスもあるような気がする。
too much
耐えられない、がまんできない(OED, "too" 5b)
この場合のthe worldは、「つくられたこの世界、天と地」
(OED 9)。
つまり、「この世界は(卑小な)わたしたちにとって
大きすぎる」というような意味あいで。
(こう読むなら、1行目は3行目と同じような意味。)
2 Getting and spending
手に入れる、使う・・・・・・金を、あるいは金で買えるものを。
特に産業革命以降、急速に近代化されつつあった
生活のあり方をあらわす表現。
3
構文は、in nature we see Little that is ours.
4 give away
贈りものとして与えて手放す(OED, "give" 54a)。
通常、恋愛などにおいて、いい意味で「心をあげる」、
「心を返して」などという表現が使われるが、
ここでは、本来もっていたはずの心や力を失って、
人間が欲得ずくの生き方をするようになっている、
ということで、「汚れたプレゼント」。
5
たとえば、女性が恋人に対してするように。
海と月のあいだの親密な関係、愛しあっているような
関係を示している。8-9行目にあるように、それに
対して人間は・・・・・・というところがポイント。
5 This sea . . . the moon
「この海」−−今、目の前に海が見えている(という想定)。
月−−今は夜(という想定)。
つまり、これは夜の情景。おそらく、夜の海の
深い青と、夜空の同じく深い青が溶けあっている
ようすを、海が月に向かって裸で・・・・・・と表現。
(http://nightsea.blue.coocan.jp/より借用。)
6 howling
[H]owl: 悲しげな、声にならない声を出す。
嘆き声をあげる(OED 2)。強い風がピューピュー
鳴る音を、自然の泣き声、嘆き声にたとえている。
自然が泣き声をあげるのは、人間の生活が
自然から離れる方向に変化してしまったから(?)
7
眠る花束のように風が束ねられ・・・・・・
視覚的に思い浮かべにくいが、今は風が止んでいる、
ということ。そしてそのようすが、夜の花のように静かで
きれいなこと(?)。
また、この行からも、今は夜ということがわかる。
夜だから花が眠っている = 風が止んでいる。
9
8 + 6 というイタリア式ソネットの構成における前半が、
この行まで食いこんでいる。(It moves us notまでが
前半。) ミルトンのソネットのマネであると同時に、
自然と人間の断絶に対する憤りが収まらないようすを
あらわす。(憤りを語る前半を八行で収めるはずが、
収まらなかった。)
10 A pagan
キリスト教から見たときの異教徒。ここでは古代ギリシャ人。
11
つまり、今、海が見える草地にいる(という想定)。
11-13
行末に注目。[S]eaとleaの脚韻は、海と草原の調和、
一体感を暗示。
5行目では海と夜空が調和していた。
ここでは海と草地が調和している。
このseaとleaのあいだにいる「わたし」(人間)は、
forlorn(見捨てられているよう)な気分。(12行目末。)
ちなみに、草地つづきの海とは、こんな感じ。
(昼の写真だが。)
12-14
屈折した表現。今、「わたし」はきれいな夜の海を見て、
そして「見捨てられたような気持ち」になっている。
なぜかといえば、自然がきれいであればあるほど、ますます
自然と人間生活の断絶が思い知らされるから。
(ワーズワースの「春に書いた詩」 "Lines Written
in April" と同じパターン。)
それに対して、キリスト教以前の人であれば、きれいな
海を見れば(実在はしない)海の神が見えるような気が
したはず、そして楽しくおだやかな気持ちになれたはず。
13-14
Proteusは古代ギリシャの海の神。予言の力があり、
またいろいろなものに姿を変えることができた。
Tritonは古代ギリシャの海の神。ポセイドンの子。
これらは表面的な文字通りの言及で、特に深い象徴的な
意味や、神話への言及における一貫性はないと思われる。
たとえば、5-6行目を神話的に読むことはできない。
海の神ポセイドンは男性、月の女神アルテミスは女性、
風の神アイオロスやゼピュロスは男性で、いずれも
この詩の内容にあっていない。
ワーズワースは、いわゆる詩的言語(poetic diction――
アポロが戦車でやってくる=日が昇る、など)の使用に
否定的だったので、神々を登場させても、このような細部に
関しては、あえて無頓着にふるまっているよう。
* * *
リズムについて。
弱強五歩格14行。8行+6行のイタリア式ソネット。
特記すべき点は以下の通り。
1行目
最初の行で基調のリズムを提示する詩が多いが、
この詩は冒頭で、弱強五歩格x/x/x/x/x/ から
かなりはずれている。憤っている作品ということで、
リズムなど気にしない、というスタンスをアピール
しているかのよう。七音節後の行中休止も、
ソネットのはじまり方としては異例な印象。
4行目、8行目、
それぞれ一音節余計についている。そして、それぞれの
行においてこの余計な音節は "we" の弱音節。
(4行目冒頭のWe, および8行目途中のweを除けば
弱強五歩格。)
つまり、自然のなか、世界のなか、人間は余計で
調和しない存在、ということをリズムの点でも暗示。
(2-3行目、6-7行目の女性韻、行末の弱音節は、
余計なものとは数えない。)
* * *
英文テクストは、William Wordsworth, Poems in
Two Volumes, vol. 1 (1807) より。
http://www.gutenberg.org/cache/epub/
8774/pg8774.html
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトの作者、タイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
Shelley, ("One word is too often . . . ")
パーシー・B・シェリー (1792-1822)
(「神聖なはずの言葉がいつも汚されている」)
神聖なはずの言葉がいつも汚されている。
だから、わたしはそれを汚したくない。
大切なはずの感情が、くだらないものと誤解されている。
だから、君にはそう誤解してほしくない。
ある希望はあまりにも絶望に似ていて、
思慮深く押し殺すまでもない。
君からのあわれみは
ほかの人のものよりうれしい。
わたしは、人が「愛」と呼ぶものを与えることができない。
が、受けとってくれないか?
心が高く捧げ、
神々が受けとってくれるような崇拝を。
星に対して蛾が抱くような、
朝に対して夜が抱くような欲望を。
この悲しみの世界から、遠い世界のなにかに対して、
身を捧げるような思いを。
* * *
Percy Bysshe Shelley
("One word is too often profaned")
One word is too often profaned
For me to profane it,
One feeling too falsely disdained
For thee to disdain it;
One hope is too like despair
For prudence to smother,
And pity from thee more dear
Than that from another.
I can give not what men call love,
But wilt thou accept not
The worship the heart lifts above
And the Heavens reject not,--
The desire of the moth for the star,
Of the night for the morrow,
The devotion to something afar
From the sphere of our sorrow?
* * *
訳注など。
1 profane
(神聖なもの)を不敬なかたちで扱う、軽んじる、
無視する(OED 1)。
1-2
Too . . . to (do) の構文。辞書的に訳せば、
「あまりにoften profanedなので、わたしは
profaneできない」。こういう定式化した言い回しも
文脈や雰囲気に即して柔軟に意訳しないと、読んで
すぐに内容が伝わる日本語にならない。
「神聖なはずの言葉」とは、たとえば「愛」とか。
3 falsely
まちがって、誤ったかたちで(OED 2)。
正当な理由もなく(OED 3)。
3 disdain
とるに足らないと考える、軽んじる、あざける(OED 1)。
3-4
1-2行目と同様(feelingのあとにisが省略)。
辞書的に訳せば、「あまりにまちがったかたちで軽く
見られているので、君がそれを軽く見ることができない」。
文脈や雰囲気に即して柔軟に意訳しないと。
「大切なはずの感情」とは、たとえば「愛情」とか。
5-6
ある希望とは、たとえば、「わたし」の気持ちに
「君」が応えてくれる、という希望。第二スタンザ参照。
7
[T]hee のあとにis.
7 pity
愛する/恋する気持ちに相手が応えてくれることを
「あわれみ」と表現するのは、恋愛詩の定番。
(たとえば16-17世紀の詩ではそうだが、
19世紀はどうなのか。)
7-8
(第一スタンザのオチとして、これでいいのか?
特に、逆説的で刺激的な5-6行目のあとに?)
9-
一般的に「愛」と呼ばれるものと、「わたし」が
「君」に対して抱いている気持ちを区別している。
第一スタンザにあるように、人々はそれを
汚しているから。
(実際、愛についてシェリーの考え方は、
ふつうの人々のそれとはかなり違った。
最初の妻を捨てて次の妻に走り、その後も
いろいろ・・・・・・。常識的にいえば、
「愛」ということばを汚していたのはシェリーの
はずだが、彼は常識を超越した人なので。)
12 Heavens
神々または(大文字の)神(OED 6b)。(Shelleyのことなので、
後者、つまりキリスト教的な神、ではないはず。)
13
蛾は明るい火に寄っていくことから。(今の時代だったら、
蛍光灯とか電燈とか。) ポイントは、蛾が、明るい火に
寄っていって・・・・・・焼かれて死んでしまうということ。
つまり、欲望の対象に到達したら自分が消えてしまう。
(結局、欲望は成就しない。)
14
13と同様。夜の時間は朝に向かって進んでいくが、
朝になったら(当然だが)夜の闇は消えている。
夜と朝は共存できず、結局夜の欲望は成就しない。
15−16
13-14と同様、ポイントは、悲しみの世界にいる
わたしたちの手は、something afarに届かない、
ということ。
16 sphere
(ここでは)領域、世界(OED 6-7)、星(OED 10b)。
* * *
リズムについて。
とりあえず、かなり実験的。


1
交互にビートx3の行とビートx2の行。
2
ビートを中心に弱強弱格x/xの音歩。
3
これは、BBB(B)やBB(B)(B)という
ストレス・ミーター(四拍子)の変奏というより、
本来は一行であるビートx5の行を二行に
わけたもの、と見るべき(たぶん)。つまり−−

崩れているところもいろいろあるが、こうして見れば
基調は弱強弱格五歩格。
4
が、第二スタンザでは、行のはじめにもうひとつ
弱音節xがついているところが多く、基調が
x/xからxx/に移行している。よく見れば、
13-14行目、15-16行目は、完璧な弱弱強格五歩格
(女性韻つき)。

5
つまり、第一スタンザがデコボコはねるような
感じなのに対し、第二スタンザは流れるような
感じになっている。もちろん、これは内容にあっている。
第一スタンザが理屈っぽいのに対し、第二スタンザは
かなえられない欲望をきれいな比喩で。
* * *
英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Percy Bysshe Shelley, vol. 2 (1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
(「神聖なはずの言葉がいつも汚されている」)
神聖なはずの言葉がいつも汚されている。
だから、わたしはそれを汚したくない。
大切なはずの感情が、くだらないものと誤解されている。
だから、君にはそう誤解してほしくない。
ある希望はあまりにも絶望に似ていて、
思慮深く押し殺すまでもない。
君からのあわれみは
ほかの人のものよりうれしい。
わたしは、人が「愛」と呼ぶものを与えることができない。
が、受けとってくれないか?
心が高く捧げ、
神々が受けとってくれるような崇拝を。
星に対して蛾が抱くような、
朝に対して夜が抱くような欲望を。
この悲しみの世界から、遠い世界のなにかに対して、
身を捧げるような思いを。
* * *
Percy Bysshe Shelley
("One word is too often profaned")
One word is too often profaned
For me to profane it,
One feeling too falsely disdained
For thee to disdain it;
One hope is too like despair
For prudence to smother,
And pity from thee more dear
Than that from another.
I can give not what men call love,
But wilt thou accept not
The worship the heart lifts above
And the Heavens reject not,--
The desire of the moth for the star,
Of the night for the morrow,
The devotion to something afar
From the sphere of our sorrow?
* * *
訳注など。
1 profane
(神聖なもの)を不敬なかたちで扱う、軽んじる、
無視する(OED 1)。
1-2
Too . . . to (do) の構文。辞書的に訳せば、
「あまりにoften profanedなので、わたしは
profaneできない」。こういう定式化した言い回しも
文脈や雰囲気に即して柔軟に意訳しないと、読んで
すぐに内容が伝わる日本語にならない。
「神聖なはずの言葉」とは、たとえば「愛」とか。
3 falsely
まちがって、誤ったかたちで(OED 2)。
正当な理由もなく(OED 3)。
3 disdain
とるに足らないと考える、軽んじる、あざける(OED 1)。
3-4
1-2行目と同様(feelingのあとにisが省略)。
辞書的に訳せば、「あまりにまちがったかたちで軽く
見られているので、君がそれを軽く見ることができない」。
文脈や雰囲気に即して柔軟に意訳しないと。
「大切なはずの感情」とは、たとえば「愛情」とか。
5-6
ある希望とは、たとえば、「わたし」の気持ちに
「君」が応えてくれる、という希望。第二スタンザ参照。
7
[T]hee のあとにis.
7 pity
愛する/恋する気持ちに相手が応えてくれることを
「あわれみ」と表現するのは、恋愛詩の定番。
(たとえば16-17世紀の詩ではそうだが、
19世紀はどうなのか。)
7-8
(第一スタンザのオチとして、これでいいのか?
特に、逆説的で刺激的な5-6行目のあとに?)
9-
一般的に「愛」と呼ばれるものと、「わたし」が
「君」に対して抱いている気持ちを区別している。
第一スタンザにあるように、人々はそれを
汚しているから。
(実際、愛についてシェリーの考え方は、
ふつうの人々のそれとはかなり違った。
最初の妻を捨てて次の妻に走り、その後も
いろいろ・・・・・・。常識的にいえば、
「愛」ということばを汚していたのはシェリーの
はずだが、彼は常識を超越した人なので。)
12 Heavens
神々または(大文字の)神(OED 6b)。(Shelleyのことなので、
後者、つまりキリスト教的な神、ではないはず。)
13
蛾は明るい火に寄っていくことから。(今の時代だったら、
蛍光灯とか電燈とか。) ポイントは、蛾が、明るい火に
寄っていって・・・・・・焼かれて死んでしまうということ。
つまり、欲望の対象に到達したら自分が消えてしまう。
(結局、欲望は成就しない。)
14
13と同様。夜の時間は朝に向かって進んでいくが、
朝になったら(当然だが)夜の闇は消えている。
夜と朝は共存できず、結局夜の欲望は成就しない。
15−16
13-14と同様、ポイントは、悲しみの世界にいる
わたしたちの手は、something afarに届かない、
ということ。
16 sphere
(ここでは)領域、世界(OED 6-7)、星(OED 10b)。
* * *
リズムについて。
とりあえず、かなり実験的。
1
交互にビートx3の行とビートx2の行。
2
ビートを中心に弱強弱格x/xの音歩。
3
これは、BBB(B)やBB(B)(B)という
ストレス・ミーター(四拍子)の変奏というより、
本来は一行であるビートx5の行を二行に
わけたもの、と見るべき(たぶん)。つまり−−
崩れているところもいろいろあるが、こうして見れば
基調は弱強弱格五歩格。
4
が、第二スタンザでは、行のはじめにもうひとつ
弱音節xがついているところが多く、基調が
x/xからxx/に移行している。よく見れば、
13-14行目、15-16行目は、完璧な弱弱強格五歩格
(女性韻つき)。
5
つまり、第一スタンザがデコボコはねるような
感じなのに対し、第二スタンザは流れるような
感じになっている。もちろん、これは内容にあっている。
第一スタンザが理屈っぽいのに対し、第二スタンザは
かなえられない欲望をきれいな比喩で。
* * *
英文テクストは、The Complete Poetical Works of
Percy Bysshe Shelley, vol. 2 (1914) より。
http://www.gutenberg.org/ebooks/4798
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
Milton, _Samson_ (1205-23)
ジョン・ミルトン (1608-1674)
『闘技士サムソン』(1205-23)
わたしの国は、おまえの国の支配者たちに征服された。
が、それはあくまで武力によるもの。武力など、武力で
いつでも退けられる。征服された者にそれができればな。
わたしは一平民で、だからわたしの国の者たちが
同盟を破った者としてとらえて引き渡した、と?
ひとりで勝手に反乱をおこし、敵対行為に及んだとして?
わたしは平民などではない。わたしは、神によって
国に自由をもたらすよう命じられ、
必要な力を授けられた者だ。国の者たちが、解放者である
わたしを受けいれず、それどころか奴隷根性丸出しで、
おまえの国の支配者たちにただでさし出したということは、
それだけ彼らが愚かだということ、だから今だに隷従させられているのだ。
わたしは、天に命じられたことをしようとしたのみ、
そして、実際それをなしとげていたはずだ、みな知っているあのあやまちに
よってそれができなくなってしまわなければな。おまえたちに封じられたのではない。
さあ、言い逃れはもう通用しない。わたしの挑戦に応えろ。
盲目だから、もう大きなことはできないかもしれないが、
おまえとの決闘くらい、屁みたいなものだ。
こうやって挑むのは、もう三回目だぞ。
* * *
John Milton
Samson Agonistes (1205-23)
My Nation was subjected to your Lords.
It was the force of Conquest; force with force
Is well ejected when the Conquer'd can.
But I a private person, whom my Countrey
As a league-breaker gave up bound, presum'd
Single Rebellion and did Hostile Acts. [1210]
I was no private but a person rais'd
With strength sufficient and command from Heav'n
To free my Countrey; if their servile minds
Me their Deliverer sent would not receive,
But to thir Masters gave me up for nought,
Th'unworthier they; whence to this day they serve.
I was to do my part from Heav'n assign'd,
And had perform'd it if my known offence
Had not disabl'd me, not all your force:
These shifts refuted, answer thy appellant [1220]
Though by his blindness maim'd for high attempts,
Who now defies thee thrice to single fight,
As a petty enterprise of small enforce.
* * *
イスラエルの怪力の英雄だったが、今や盲目の奴隷と
なりはてたサムソンが、敵部族ペリシテ人の怪力の男
ハラファに対して、みずからを正当化し、また彼を
挑発する場面。
聖書の士師記13-16章がこの作品の元ネタ。
(ミルトンが創作した箇所も多々あり。この場面もそう。)
* * *
訳注と解釈例など。
1206
共和国初期には、征服した者が正当な支配者、
力が正義、悪い征服者にしたがうことは
(たとえば、貧しい者が泥棒から施しを受ける
ことと同様)罪ではない、国の支配者としては、
正しくても弱い者より、悪くても強い者のほうがいい、
など、征服をめぐるいろいろな議論がなされていた。
もちろん、共和国が、国王支持者を武力で
制圧した結果のものだったから。
軍および共和国の支持者であったが、ミルトンは、
基本的に上のようなことはいわず、下記の通り、
軍は、神に命じられ、また味方されて戦い、勝利した、
という立場をとっていた。
1207 well
当然の結果として(OED 8a)。かんたんに(OED 9a)。
うまく、上手に、実質的に(OED 11)
1208-
1640-50年代のイギリスにおいて、国王など支配者に
抵抗する権利をもつのは、議員など公職にある者のみだ、
いや一般の人々 private persons にも抵抗権がある、
などという議論がなされていた。抵抗権を公職者に限定する
議論のほうが、カルヴィンなどから連なるプロテスタントの主流で、
この当時のイギリスでは、公職にない一般民である
軍、兵士らによる国王攻撃を違法とするために
用いられた。(そもそも、だれでも支配者に対して
武装抵抗してよければ、明らかに大変なことになる。)
これに対して、ミルトンのような軍の支持者は、
(神に命じられていれば)一般民の武装抵抗も
正当、と論じた。どうして神に命じられているかどうかが
わかるのか、といえば、それは、戦闘に勝ってきたから・・・・・・。
つまり、神に命じられたから一般民も戦っていい、
ではなく、勝ったから、その戦いは神に命じられた
ものにちがいない、というかたちで、常に遡及的に
過去の戦闘が正当化された。
だから、1650年代半ば、西インド諸島でイギリス軍が
スペインに敗れたとき、また(より深刻、重大に)1660年に
共和国が自壊してふたたび王政が立てられたとき、
ミルトンら共和国の支持者たちは、頭を抱えることになる。
神に命じられて戦ってきたはずなのに、神に命じられた
戦いを支持してきたはずなのに・・・・・・勘違いしていた?
しかし、『サムソン』のような作品を出す、ということは、
ミルトンは、この勘違いを認めてはいなかった
(苦悩はあったかもしれないが)、ということ。
(・・・・・・では、『失われた楽園』は?)
なお、この箇所に出てくる、隷属やそこからの解放という
考えは、暴君 tyrant チャールズ一世によって、また
暴君クロムウェルによって、奴隷のように奉仕させられる国民、
という1640-50年代の議論から。
1215 for nought
報酬なしで。Nought = nothing.
1218 my known offence
敵部族出身(ペリシテ人)である妻ダリラに対して、
サムソンがみずからの強さの秘密(髪を切られると
弱くなる)を話してしまったこと。これを聞いて
ダリラは、サムソンの神を切り落とし、弱くなった
彼を部族の長らに引き渡す。(1213行からの、
引き渡しエピソードは、これとは別もので
士師記15章からのもの。) そしてその部族の
長たちは、サムソンの目をくり抜いて盲目にし、
奴隷として使っている・・・・・・というのが、
上の場面までの話。
1220-
神に命じられているという設定だが、こういうケンカの
売り方はどうか、と思わせる書き方。平たく言えば、
「おい、やろうっていってんだろ? おまえなんてちょろいぜ!」
ということなので。また、その後すぐ、サムソンはこのように
挑発的にいう。
「おいおい、オレをただ見にきたのかい? 実際に
手でさわってオレの強さを調べたほうがいいんじゃね?
おーっと、でも気をつけろよ、逆にオレがおまえの強さを
調べちゃうからな!」
* * *
また加筆修正します。
* * *
英文テクストは、Paradise Regain'd : A Poem in IV books:
To Which Is Added Samson Agonistes (1671) より。
(日本語訳は、まとまりごとにわけてあります。)
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
『闘技士サムソン』(1205-23)
わたしの国は、おまえの国の支配者たちに征服された。
が、それはあくまで武力によるもの。武力など、武力で
いつでも退けられる。征服された者にそれができればな。
わたしは一平民で、だからわたしの国の者たちが
同盟を破った者としてとらえて引き渡した、と?
ひとりで勝手に反乱をおこし、敵対行為に及んだとして?
わたしは平民などではない。わたしは、神によって
国に自由をもたらすよう命じられ、
必要な力を授けられた者だ。国の者たちが、解放者である
わたしを受けいれず、それどころか奴隷根性丸出しで、
おまえの国の支配者たちにただでさし出したということは、
それだけ彼らが愚かだということ、だから今だに隷従させられているのだ。
わたしは、天に命じられたことをしようとしたのみ、
そして、実際それをなしとげていたはずだ、みな知っているあのあやまちに
よってそれができなくなってしまわなければな。おまえたちに封じられたのではない。
さあ、言い逃れはもう通用しない。わたしの挑戦に応えろ。
盲目だから、もう大きなことはできないかもしれないが、
おまえとの決闘くらい、屁みたいなものだ。
こうやって挑むのは、もう三回目だぞ。
* * *
John Milton
Samson Agonistes (1205-23)
My Nation was subjected to your Lords.
It was the force of Conquest; force with force
Is well ejected when the Conquer'd can.
But I a private person, whom my Countrey
As a league-breaker gave up bound, presum'd
Single Rebellion and did Hostile Acts. [1210]
I was no private but a person rais'd
With strength sufficient and command from Heav'n
To free my Countrey; if their servile minds
Me their Deliverer sent would not receive,
But to thir Masters gave me up for nought,
Th'unworthier they; whence to this day they serve.
I was to do my part from Heav'n assign'd,
And had perform'd it if my known offence
Had not disabl'd me, not all your force:
These shifts refuted, answer thy appellant [1220]
Though by his blindness maim'd for high attempts,
Who now defies thee thrice to single fight,
As a petty enterprise of small enforce.
* * *
イスラエルの怪力の英雄だったが、今や盲目の奴隷と
なりはてたサムソンが、敵部族ペリシテ人の怪力の男
ハラファに対して、みずからを正当化し、また彼を
挑発する場面。
聖書の士師記13-16章がこの作品の元ネタ。
(ミルトンが創作した箇所も多々あり。この場面もそう。)
* * *
訳注と解釈例など。
1206
共和国初期には、征服した者が正当な支配者、
力が正義、悪い征服者にしたがうことは
(たとえば、貧しい者が泥棒から施しを受ける
ことと同様)罪ではない、国の支配者としては、
正しくても弱い者より、悪くても強い者のほうがいい、
など、征服をめぐるいろいろな議論がなされていた。
もちろん、共和国が、国王支持者を武力で
制圧した結果のものだったから。
軍および共和国の支持者であったが、ミルトンは、
基本的に上のようなことはいわず、下記の通り、
軍は、神に命じられ、また味方されて戦い、勝利した、
という立場をとっていた。
1207 well
当然の結果として(OED 8a)。かんたんに(OED 9a)。
うまく、上手に、実質的に(OED 11)
1208-
1640-50年代のイギリスにおいて、国王など支配者に
抵抗する権利をもつのは、議員など公職にある者のみだ、
いや一般の人々 private persons にも抵抗権がある、
などという議論がなされていた。抵抗権を公職者に限定する
議論のほうが、カルヴィンなどから連なるプロテスタントの主流で、
この当時のイギリスでは、公職にない一般民である
軍、兵士らによる国王攻撃を違法とするために
用いられた。(そもそも、だれでも支配者に対して
武装抵抗してよければ、明らかに大変なことになる。)
これに対して、ミルトンのような軍の支持者は、
(神に命じられていれば)一般民の武装抵抗も
正当、と論じた。どうして神に命じられているかどうかが
わかるのか、といえば、それは、戦闘に勝ってきたから・・・・・・。
つまり、神に命じられたから一般民も戦っていい、
ではなく、勝ったから、その戦いは神に命じられた
ものにちがいない、というかたちで、常に遡及的に
過去の戦闘が正当化された。
だから、1650年代半ば、西インド諸島でイギリス軍が
スペインに敗れたとき、また(より深刻、重大に)1660年に
共和国が自壊してふたたび王政が立てられたとき、
ミルトンら共和国の支持者たちは、頭を抱えることになる。
神に命じられて戦ってきたはずなのに、神に命じられた
戦いを支持してきたはずなのに・・・・・・勘違いしていた?
しかし、『サムソン』のような作品を出す、ということは、
ミルトンは、この勘違いを認めてはいなかった
(苦悩はあったかもしれないが)、ということ。
(・・・・・・では、『失われた楽園』は?)
なお、この箇所に出てくる、隷属やそこからの解放という
考えは、暴君 tyrant チャールズ一世によって、また
暴君クロムウェルによって、奴隷のように奉仕させられる国民、
という1640-50年代の議論から。
1215 for nought
報酬なしで。Nought = nothing.
1218 my known offence
敵部族出身(ペリシテ人)である妻ダリラに対して、
サムソンがみずからの強さの秘密(髪を切られると
弱くなる)を話してしまったこと。これを聞いて
ダリラは、サムソンの神を切り落とし、弱くなった
彼を部族の長らに引き渡す。(1213行からの、
引き渡しエピソードは、これとは別もので
士師記15章からのもの。) そしてその部族の
長たちは、サムソンの目をくり抜いて盲目にし、
奴隷として使っている・・・・・・というのが、
上の場面までの話。
1220-
神に命じられているという設定だが、こういうケンカの
売り方はどうか、と思わせる書き方。平たく言えば、
「おい、やろうっていってんだろ? おまえなんてちょろいぜ!」
ということなので。また、その後すぐ、サムソンはこのように
挑発的にいう。
「おいおい、オレをただ見にきたのかい? 実際に
手でさわってオレの強さを調べたほうがいいんじゃね?
おーっと、でも気をつけろよ、逆にオレがおまえの強さを
調べちゃうからな!」
* * *
また加筆修正します。
* * *
英文テクストは、Paradise Regain'd : A Poem in IV books:
To Which Is Added Samson Agonistes (1671) より。
(日本語訳は、まとまりごとにわけてあります。)
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
Milton, _Paradise Lost_ (11: 689-97)
ジョン・ミルトン (1608-1674)
『失われた楽園』(11: 689-97)
なぜなら、この時代には力だけが驚嘆と称賛の対象となり、
勇敢さ、英雄性などと呼ばれるからです。
戦闘に勝利し、国々を征服し、
戦利品をもって帰る、もちろん、数えきれないほどの
人を殺して……そういうことが、最高の
栄誉とされるでしょう。そして栄誉ある
勝利者は、偉大なる征服者、
人類の守護者、まさに神、あるい神の子、などと呼ばれるでしょう。
本当はただの破壊者、人類の害悪そのものなのですが。
* * *
John Milton
Paradise Lost (11: 689-97)
For in those dayes Might onely shall be admir'd,
And Valour and Heroic Vertu call'd; [690]
To overcome in Battle, and subdue
Nations, and bring home spoils with infinite
Man-slaughter, shall be held the highest pitch
Of human Glorie, and for Glorie done
Of triumph, to be styl'd great Conquerours,
Patrons of Mankind, Gods, and Sons of Gods,
Destroyers rightlier call'd and Plagues of men.
* * *
将来起こるであろうことを映像のようなかたちで
アダムに見せながら、天使ミカエルが語ることば。
ホメーロスの『イリアス』におけるアキレウスのような、
武勲にすぐれた英雄の否定であると同時に、
1640-50年代のイギリス内乱における戦闘の批判。
* * *
訳注。
689 those dayes
エノクやその前後の世代が生きた時代。
エノクは、ノアの曾祖父(創世記5: 21-28)。
[D]ayes = days.
この場面の前の11巻638行目以降に、
どのような時代であったかが描かれている。
政治的対立、戦争と殺戮・・・・・・。
689 Might
身体的/精神的な力、大きな影響力や
武力(OED 3b)。自分の思い通りに人や
ものごとを動かすために用いられる「力」。
正当性rightの反意語(OED 4)。
689 shall be
アダムにとって未来のことだから。読者にとっては、
(ミルトンの創作もあるが)聖書のなかに記された
過去のできごと。
690 Vertu
Virtue. 男性的な力(OED 7; vir = man)。
691-
構文は以下の通り。
---
(節1)
主部(誰が/何が):
To overcome in Battle, and subdue Nations,
and bring home spoils with infinite Man-slaughter
述部(どうする):
shall be held the highest pitch Of human Glorie
V: shall be held
C: the highest pitch Of human Glorie
"and" でつないで−−
(節2)
主部:
to be styl'd great Conquerours, Patrons of Mankind,
Gods, and Sons of Gods
(for Glorie done Of triumphはこの理由)
述部(どうする):
shall be held the highest pitch
Of human Glorie
(補足部分)
[though they are actually] Destroyers and Plagues of men
[if] rightlier call'd
---
693 pitch
最も高い点(OED n2, IV)。
* * *
上の一節で、世俗的な利害のための戦闘は
批判しつつも、ミルトンは、ピエモンテのソネットや
『サムソン』など、神の意にかなう戦闘を支持するかの
ような作品を残している。また、『第二弁護論』の
ような政治論文でも、神に支持された軍の
指揮者としてクロムウェルを称賛していたりする。(注)
その際に、人間的な利害による戦闘と、神の意に
よるものをどう区別するか、実際区別できるのか、
ということを考えないのは、そういう時代だったから、
というのが半分、ミルトンがそういう人だったから、
というのが半分(おそらく)。
ミルトンよりも宗教的、道徳的に冷めた人々は、
強い者にしたがえばいい、とか、海外での征服は
国の威信と利益の点でおおいにけっこう、
いいぞいいぞ!行け行け! というようなことを
書いている。(マーチャモント・ニーダムとか)。
「武力」をめぐる問題意識を共有しつつ、
ミルトンよりも冷めていたドライデンは、
たとえば、「人が考える神の意は、たいてい
その人の意志なのよ」というようなセリフを、
劇中の人物にいわせている(『恋する暴君』
Tyrannick Love 4幕より、聖カタリナのセリフ。)
これらのようなことや、さらには、当時すでに
西インド諸島あたりへの武力による進出や、
それにともなう奴隷貿易が動きはじめていたことを
考えれば、上の『失われた楽園』からの一節は、
理念的すぎてもの足りないと同時に、
もの足りないからこそ説得力があるようにも見える、
といったところではないか。
---
(注)
主人公サムソンのいわゆる自爆テロ的な行為を
描く『サムソン』の評価は、現在でも(現在だからこそ)
定まっていない。
また、『第二弁護論』は、共和政府のプロパガンディストという
立場から半ば書かれたものなので、そこに記された見解が
ミルトン個人のものとは、必ずしもいえない。
* * *
英文テクストは、Paradise Lost (1674) より。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/contents/index.shtml
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
『失われた楽園』(11: 689-97)
なぜなら、この時代には力だけが驚嘆と称賛の対象となり、
勇敢さ、英雄性などと呼ばれるからです。
戦闘に勝利し、国々を征服し、
戦利品をもって帰る、もちろん、数えきれないほどの
人を殺して……そういうことが、最高の
栄誉とされるでしょう。そして栄誉ある
勝利者は、偉大なる征服者、
人類の守護者、まさに神、あるい神の子、などと呼ばれるでしょう。
本当はただの破壊者、人類の害悪そのものなのですが。
* * *
John Milton
Paradise Lost (11: 689-97)
For in those dayes Might onely shall be admir'd,
And Valour and Heroic Vertu call'd; [690]
To overcome in Battle, and subdue
Nations, and bring home spoils with infinite
Man-slaughter, shall be held the highest pitch
Of human Glorie, and for Glorie done
Of triumph, to be styl'd great Conquerours,
Patrons of Mankind, Gods, and Sons of Gods,
Destroyers rightlier call'd and Plagues of men.
* * *
将来起こるであろうことを映像のようなかたちで
アダムに見せながら、天使ミカエルが語ることば。
ホメーロスの『イリアス』におけるアキレウスのような、
武勲にすぐれた英雄の否定であると同時に、
1640-50年代のイギリス内乱における戦闘の批判。
* * *
訳注。
689 those dayes
エノクやその前後の世代が生きた時代。
エノクは、ノアの曾祖父(創世記5: 21-28)。
[D]ayes = days.
この場面の前の11巻638行目以降に、
どのような時代であったかが描かれている。
政治的対立、戦争と殺戮・・・・・・。
689 Might
身体的/精神的な力、大きな影響力や
武力(OED 3b)。自分の思い通りに人や
ものごとを動かすために用いられる「力」。
正当性rightの反意語(OED 4)。
689 shall be
アダムにとって未来のことだから。読者にとっては、
(ミルトンの創作もあるが)聖書のなかに記された
過去のできごと。
690 Vertu
Virtue. 男性的な力(OED 7; vir = man)。
691-
構文は以下の通り。
---
(節1)
主部(誰が/何が):
To overcome in Battle, and subdue Nations,
and bring home spoils with infinite Man-slaughter
述部(どうする):
shall be held the highest pitch Of human Glorie
V: shall be held
C: the highest pitch Of human Glorie
"and" でつないで−−
(節2)
主部:
to be styl'd great Conquerours, Patrons of Mankind,
Gods, and Sons of Gods
(for Glorie done Of triumphはこの理由)
述部(どうする):
shall be held the highest pitch
Of human Glorie
(補足部分)
[though they are actually] Destroyers and Plagues of men
[if] rightlier call'd
---
693 pitch
最も高い点(OED n2, IV)。
* * *
上の一節で、世俗的な利害のための戦闘は
批判しつつも、ミルトンは、ピエモンテのソネットや
『サムソン』など、神の意にかなう戦闘を支持するかの
ような作品を残している。また、『第二弁護論』の
ような政治論文でも、神に支持された軍の
指揮者としてクロムウェルを称賛していたりする。(注)
その際に、人間的な利害による戦闘と、神の意に
よるものをどう区別するか、実際区別できるのか、
ということを考えないのは、そういう時代だったから、
というのが半分、ミルトンがそういう人だったから、
というのが半分(おそらく)。
ミルトンよりも宗教的、道徳的に冷めた人々は、
強い者にしたがえばいい、とか、海外での征服は
国の威信と利益の点でおおいにけっこう、
いいぞいいぞ!行け行け! というようなことを
書いている。(マーチャモント・ニーダムとか)。
「武力」をめぐる問題意識を共有しつつ、
ミルトンよりも冷めていたドライデンは、
たとえば、「人が考える神の意は、たいてい
その人の意志なのよ」というようなセリフを、
劇中の人物にいわせている(『恋する暴君』
Tyrannick Love 4幕より、聖カタリナのセリフ。)
これらのようなことや、さらには、当時すでに
西インド諸島あたりへの武力による進出や、
それにともなう奴隷貿易が動きはじめていたことを
考えれば、上の『失われた楽園』からの一節は、
理念的すぎてもの足りないと同時に、
もの足りないからこそ説得力があるようにも見える、
といったところではないか。
---
(注)
主人公サムソンのいわゆる自爆テロ的な行為を
描く『サムソン』の評価は、現在でも(現在だからこそ)
定まっていない。
また、『第二弁護論』は、共和政府のプロパガンディストという
立場から半ば書かれたものなので、そこに記された見解が
ミルトン個人のものとは、必ずしもいえない。
* * *
英文テクストは、Paradise Lost (1674) より。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/contents/index.shtml
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を参照する際には、
このサイトのタイトル、URL, 閲覧日など必要な事項を必ず記し、
剽窃行為のないようにしてください。
音楽(3)−−Feldman−−
音楽(3)
−−モートン・フェルドマン(Morton Feldman, 1926-1987)−−
For Philip Guston
For Christian Wolff
色、音、時間などが存在しないかのような
そんな空間をつくり出す音。
静かに、単調に、しかし変化しつつ、
Gustonでは四時間半、
Wolffでは三時間半。
http://www.amazon.co.jp/For-Philip-Guston-M-Feldman/
dp/B001387XJY/ref=sr_1_4?ie=UTF8&qid=1336035562&sr=8-4
http://www.amazon.co.jp/For-Christian-Wolff-Morton-Feldman/
dp/B000001YUF/ref=sr_1_4?ie=UTF8&qid=1336037586&sr=8-4
* * *
"Christian Wolff in Cambridge"
"Chorus and Instruments II"
"For Stefan Wolpe"
(For Stefan Wolpe: Choral Music of
Morton Feldman & Stefan Wolpeに収録)
ギリシャ悲劇から人間的なところをすべて
漂白したら、というような音と歌(?)。
http://www.amazon.co.jp/Choral-Music-Morton-Feldman-Stefan/
dp/B00004Y9TA/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1336072444&sr=8-1
* * *
また追記します。
−−モートン・フェルドマン(Morton Feldman, 1926-1987)−−
For Philip Guston
For Christian Wolff
色、音、時間などが存在しないかのような
そんな空間をつくり出す音。
静かに、単調に、しかし変化しつつ、
Gustonでは四時間半、
Wolffでは三時間半。
http://www.amazon.co.jp/For-Philip-Guston-M-Feldman/
dp/B001387XJY/ref=sr_1_4?ie=UTF8&qid=1336035562&sr=8-4
http://www.amazon.co.jp/For-Christian-Wolff-Morton-Feldman/
dp/B000001YUF/ref=sr_1_4?ie=UTF8&qid=1336037586&sr=8-4
* * *
"Christian Wolff in Cambridge"
"Chorus and Instruments II"
"For Stefan Wolpe"
(For Stefan Wolpe: Choral Music of
Morton Feldman & Stefan Wolpeに収録)
ギリシャ悲劇から人間的なところをすべて
漂白したら、というような音と歌(?)。
http://www.amazon.co.jp/Choral-Music-Morton-Feldman-Stefan/
dp/B00004Y9TA/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1336072444&sr=8-1
* * *
また追記します。
| « 前ページ |