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30年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 335 電撃トレードの裏側

2014年08月13日 | 1983 年 



開幕まであと16日に迫った3月25日、近鉄・太田幸司(32歳)、石渡茂(34歳)と巨人・大石滋昭(19歳)+金銭のトレードが発表された。一軍選手と昨年にドラフト外で入団した2年目の選手との2対1の交換という明らかにバランスを欠いたこのトレードの裏側に何があったのか?


「近鉄では自分なりに一生懸命にやってきたつもりです。僕に新しく生きる道を与えてくれた球団に感謝します」前夜にトレードを通告された太田は藤井寺球場の食堂の片隅に設けられた即席の会見場で精一杯の笑顔を見せた。駆け付けた報道陣は約30人、それは14年前の会見とはかけ離れた寂しいものだった。昭和44年の夏、松山商との決勝戦で延長18回を投げ抜き翌日の再試合で敗れたものの三沢高・太田幸司は一躍日本中の人気者となった。その年の暮れの入団発表は佐伯勇オーナー臨席の下、大阪・中百舌鳥の電鉄本社で行なわれた。

集まった報道陣は2百人を超え本社ビル周辺は約2千人のファンが取り囲んだ。球団の渉外担当だった高島雅吉(現営業部次長)が新幹線で大阪に向かう太田に同行し「只今、名古屋を通過しました」「間もなく新大阪に到着します」などと逐一報告をした。極めつけだったのが「太田君は今夜、大阪都ホテルにお泊りになられます」と発言した事が「まるで皇太子殿下のようなVIP待遇だな」と揶揄されて、これ以降「コーちゃん」と呼ばれていた太田のニックネームに新たに「殿下」や「プリンス」が加わった。

近鉄での13年間で三度の2桁勝利を含む58勝を挙げたが、ここ3年は勝ち星なしの30歳を過ぎた太田を放出したのはある意味「温情」である。オープン戦で快進撃を続ける今年の近鉄の原動力は若手投手の台頭だ。ここ数年来、悩まされてきた肩・ヒジ痛もなくキャンプを過ごした太田になかなか出番は回って来なかった。「ブルペンでガンガン投げているのにオープン戦で出番がなかったから、トレードも有るなと思っていた。このまま終わるのも嫌なので巨人でも頑張りたい」と決意を表した。近鉄・山崎球団代表は「戦力面の事よりも巨人に行った方が出番が増えると考えて決断した」また石渡についても昨年の新人王・大石や期待の森脇や金村に加えてルーキーの谷など野手陣にも楽しみな若手が多く出番が減るのは確実で「石渡の将来の為にも他球団を経験するのも大切(山崎代表)」と移籍の理由を述べた。

今回のトレードの経緯を見ると申し込みは巨人からだった。河埜が昨年終盤に故障した左手の回復が思わしくなく、控えの岡崎や鈴木伸らも未知数。そこで目をつけたのが充実している近鉄内野陣で実は石渡の譲渡申し込みが太田よりも先だった。しかし現場首脳陣が石渡放出に反対した為、吹石に変更して交渉を続けたが難航しトレード話は解消しかけた。転機は3月19日のオープン戦だった。巨人・正力オーナーが直々に山崎代表と会って石渡の譲渡を申し入れ、山崎代表から「太田の面倒も見て欲しい」と請われた正力オーナーが確約した事で話は急転直下、決まった。

巨人と近鉄が密接な関係になったきっかけは昭和56年のオフに捕手難に喘ぐ巨人が梨田の台頭で出場機会が減り始めた有田のトレードを申し入れた事だった。このトレードは実現しなかったが両球団の良好な関係は続き、球団レベルを越えて野球のみならず正力オーナーが讀賣興業の社長でもある関係で近鉄興業との業務提携の話にまで発展した。今年から近鉄興業が球団の営業部門を担う事となったのも今回のトレード決定に少なからず関係している。

何故、両球団はこうも接近するのか?そこには西武という共通の敵の侵攻を食い止める必要があるからだ。西武の台頭でプロ野球界内における力関係が崩れて巨人は球界の盟主の座が危うくなりつつあり、近鉄の場合は単にリーグ優勝を西武に持って行かれるという野球の面ばかりではなく大阪・八尾に西武百貨店が進出する事で既存の近鉄百貨店の流通部門にまで影響を与える事が必至となれば、悠長に西武の台頭を見過ごす訳にはいかない。近鉄とすれば先ずは巨人に西武の日本一連覇を阻止してもらう為の戦力補強に協力は惜しまない。「敵の敵は味方」という構図である。

一軍クラス2人と入団2年目の選手の交換というまるで釣り合わないトレード。一見、近鉄にメリットが無いように見えるが長い目で見れば近鉄にも採算がある。例えば近鉄主催の巨人とのオープン戦を来年以降、これまで以上に組めば1試合当たり1千万円単位の儲けが近鉄に入る。また今後、近鉄が必要とする選手を巨人からトレードしてもらう「貸し」が出来た事も大きい。石渡に関しては「勉強させる意味もある」と近鉄首脳陣は明言している。チーム内でも野球理論では一目置かれている石渡で将来の幹部候補であり、巨人でコーチ業の下準備をさせるのが主目的だという。

太田に関しては前々から阪神が獲得を目指してしるという話が太田の耳にも入っていて「仮に近鉄を出るとしても在阪球団がいい」と近鉄入団と同時に両親を大阪に呼び寄せ、今やすっかり関西の人間となっていただけに東京行きに戸惑う。父親は足が不自由、母親は高血圧とあって病院通いが必要で住み慣れた大阪を離れるのは難しい。「両親の事は心配ですけど一緒に東京へ今は行けない。暫くは寮に入れてもらって落ち着いたら両親を呼び寄せるかどうか決めたい」 両親と東京で再び一緒に暮す為には投手陣が充実している巨人で働き場を見つけなければならない。



          
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