ITと合意形成

ITを利用して合意を形成するための方法?

ITと合意形成(完全版)(16)

2007-10-17 00:13:38 | ITと合意形成(完全版)
組織の壁

 やはり組織の合意形成というものを考える場合に、「組織の壁」という問題を外すわけにはいきません。

 最近のITでは組織論的な考え方である「全体最適化」というものが流行してます。とりあえず、その考え方で「組織の壁」というものを説明してみましょう。

 「組織の壁」というのは、組織内部の各小組織の間で情報が交換されず(もちろん合意形成も行われず)、各々が勝手に行動している状態を言います。本来、各小組織が互いに協力しあえば組織全体としての結果が良くなる(こういう状態を「全体最適」と呼びます)なのに、それぞれが勝手にふるまう(こういうのを「個別最適」といいます)。そのために、組織全体の力が殺がれる。

 「個別最適」の場合、他組織と情報交換をする必要が無い。というか、情報交換してしまったら勝手にふるまえなくなる。だから「組織の壁」ができあがる。

 ではなぜ、個々の小組織は「個別最適」を目指すのでしょうか。それは、他者に影響されず自分にとって最も良い目的に向かって勝手にふるまうことがその小組織に最も良い結果をもたらすからです。

 ところが、それぞれの小組織にとって最も良い結果が得られたとしても、その総和は組織全体にとっての最大値にはならない。各小組織の方向性がバラバラなのでそれぞれの努力・成果が相殺されてしまうわけですね。ミクロの最大値の和はマクロの最大値には決してならないという物理法則と同じです。

 「全体最適」を得るためには、それぞれの小組織が闇雲に頑張ってもダメなのです。それぞれの小組織に対してちゃんと役割分担が行われ、各組織がその役割に応じたふるまいをしなければいけない。それは、決して「個別最適」という状態ではありません。本当はここまでやりたいのだけれど、それはあちらの組織の役割、などということになって、100の能力があるのに70の結果しか出せないなどということになる。でもそうすることが、全体としては最も良い結果(つまり全体最適)を得ることになるわけです。

 ただ、微妙なのは、本当にこういう「全体最適化」の考え方が正しいとは言いきれないところです。全体最適化というのはある意味で計画経済的(つまり社会主義的)考え方とも言えまして、最初から役割分担が決まっていてそこまでしかやっちゃいけない・・・というのはやる気も無くなるというものです(笑)。ですから、ある程度は「個別最適」つまり、他組織の思惑を無視して勝手にやるという(資本主義的?)競争状態も必要になります。

 さて、ここからが合意形成的な話になるわけですが、「全体最適」が良いか「個別最適」が良いかというのは、それが正常系なのか異常系なのかによって異なると考えられます。正常系、つまり、各々の役割分担やルールが固定されている場合には、ある程度の競争状態=「個別最適」が有効であるはずです。営業1課と営業2課がその営業成績をめぐって競争する・・・などというのは多くの場合成功するでしょう。

 ところが異常系については役割分担やルールが固定されていないのですから、闇雲にそれぞれの組織が個別最適を目指したところでおそらくその成功確率は低いわけです。それぞれの組織のやっていることが重複する・・・のならまだしも、隙間が空くなどということが往々にしてありまして、そういうことが失敗の原因になることが多いでしょう。ということで、組織の壁が無いほうが異常系には対応できるということになります。

 さて、前回の話に戻しましょう。ITによって、組織のフラット化ができるといいました。それは、一人の管理職の能力を向上させることによって管理することのできる下位組織の数を増やすことができるからです。ところが、ここが微妙なんですね。正常系においては確かに効果は高いでしょう。ところが、異常系においては対応しきれなくなる。

 最近、やたらメールが多い・・・などと愚痴をこぼす管理職の方が多いと思います。これは、ITの進歩によって管理職に情報が集約されているという良い効果ではあることは確かですが。が、そのために情報過多になって異常状態についてのアラーム情報が埋もれてしまう。もしくは、伝わったとしてもそれをちゃんと考える時間が無くなっているという負の効果も表れている気がしています。そうすると、なかなか異常系に関わる合意形成ができない。となると、結果としてそれぞれの下位組織でバラバラの対応を取らざるを得ないなどということになってしまいます。ですから、結局、組織全体として効果があがるかどうかは分からないことになります。