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内村茂太その3/『僕の新婚旅行』

2010年11月10日 22時58分51秒 | 映画表現の辺境へ
内村茂太の作品で「この1本は?」と問われたら、やはりその名をとどろかせた『僕の新婚旅行』を選ばざるを得ないだろう。
内村さんと飼い猫のチャコ、決して名を呼ばれない妻が住み慣れた多摩川の近くから、どういう事情か説明されないけれど、名古屋に引っ越しするシーンから始まる。
なにか特別な大事件が起こるわけではないけれど、事件と呼べそうな出来事は「飼い猫のチャコの家出」だろうか。帰ってこないチャコを心配して、内村さんと妻はネコ探しの貼り紙を近所の、ネコがいそうな狭くて細い路地に貼って歩く。そして、いままで気づかなかった商店街を発見したりして「そうだ。ダイエー名東店に行くのはもうやめて、これからはここで買い物しよう」なんて思ったりする。
「ふーん『めいとう』って名東か。ってことは名古屋の東部のどこかに内村さんは暮らしているのか」と、この作品を最初に見たときに思った。そして同時に「名古屋市って、俺もけっこうロケハンしたけれど、東部にこんなふうなよい路地や商店街があったとは知らなかったなぁ。俺のロケハン能力も甘いもんだワ」と思ったのだった。
だからのちに内村さんに知り合って、ゆっくりしゃべる機会を得たときに、まっさきに「あの路地ってどこにあるんスか? 僕は発見できなかったなぁ」と問いかけてみたのだった。
そこで衝撃の事実が発覚する。
「あれはじつは北千住です」と内村さん。
がーん、だまされたー。一本とられました。そうだよそうだよ、あんな路地は東京だって限られた場所にしかない。北千住とか北品川とか。
あらためて『僕の新婚旅行』を見ると、貼付けるネコ探しポスターにははっきりと名古屋の市外局番が明記されている。もちろん撮影してすぐに剥がしたのだろうけれど、北千住でぬけぬけと名古屋の電話番号が書かれているポスターを「何喰わぬ顔」で貼っていたわけですな。
さらにあらためて、分析的な気持ちになってこの作品を見てみると、この、チャコが家出するというシーンは作品のなかで重要な位置を占めていることがわかってくる。
名古屋のどこも道路が広い町並みでなく、歩いても歩いても路地がさらに積み重なるように続いている北千住で飼い猫を探してこそ、ほのぼのと暖かく、そして物悲しい情感が醸し出せるのだ。
やるじゃないですかぁ、内村茂太さん。彼が生み出しているものは、ただのうまくまとめられた二人と一匹の身辺記録じゃない。これはまぎれもなく、すぐれた映画だ。映画の辺境部で産出した、珠玉の一品。
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