旧 帝国ホテル 図面補足・・・・ポーチ~ロビー断面

2008-07-23 12:31:11 | 設計法

[文言更改 19.59]

「旧帝国ホテルの実証的研究」から、「ポルト・コシエ(ポーチ)」から「エントランス・ホワイエ」~「ロビー」へと至る断面図を転載する。
なお、分りやすくするために、加工を加えた。
先回の「ポーチ~ロビーまわりの平面」と照合のほどを。


先回、「・・・人はきわめてスムーズに、外界からメインロビーへと誘われ、それとともに、『外界の人』から『ホテル内の人』へと、『気分』が切り替わる。
私は、そのとき、その絶妙さに呆気にとられたことを覚えている。
そしてそのとき、各所の大谷石による装飾などは目に入っていなかったことも覚えている(より正確に言えば、目には入っているが、その個々に目を奪われることはなかった、と言う方がよいだろう)。
この絶妙な空間感の切り替えは、主に、階段と天井高の微妙な切り替えによって生まれていると言えるだろう。・・・」と書いた。

断面図の床の切換え箇所にA~Dの符号を付した。段数の少ない箇所は、階段上に、段数の多い箇所では、階段下と上に付している。
また、天井の切換え箇所には、a~cの符号を付けた。

ポーチからロビーに至るいわばダイナミックな空間の連続性をつくりだしているのは、床の切換え箇所に対しての天井切換え場所の位置の設定にあると言える。
すなわち、A~B間のaの位置を試みに右左に移して「効果」がどうなるか験してみると、図のaの位置が妥当であることが分る。
右に寄りすぎる、つまりBに近くなると、歩いている人の目線は下向きになり、エントランス・ホワイエより先:ロビーの方へは向かなくなる。
重要な「判断材料」は、空間内を歩いている人の目線を、「どの方向に向けるか」、なのだ。

bの位置がこの図の位置よりも左:歩く人にとって手前:にあるとどうなるか。
ロビーが階段はもとよりエントランス・ホワイエまで飲み込んでしまい、ロビーへの「期待感」も湧かず、したがってロビーに至ったときの「感激」も多分生まれないだろう。

このように、A~D、a~cの位置をいろいろと変えて「効果」を検討してみると、やはり、多分、この図の位置に落ち着くと思われる。
おそらくライトは、スケッチの段階で、この作業を繰返し行っていたに違いない。そして、それがまた「平面図」に反映されているのだ。

この作業は、平面図だけ、断面図だけでは行えないのは言うまでもない。
要は、「平面図」も「断面図」も、「空間」を二次元的に表示するための「手段」に過ぎない、ということの認識。
つまり、「自分を囲んでいる空間」を認識すること、「その空間はどうあるのがよいか」「どのような空間体験をするのが妥当か」・・・・を想像すること、それを積み重ね、より reality:「実際・現実」に近づける、これが多分ライトのスケッチの方法だったに違いない。

では、ライトは、どのようにしてそういう「方法」に至ったのだろうか。
これはあくまでも私の勝手な想像に過ぎないが、多分、「日常の中で見聞きし感じていること」を、常に「意識化」していたからではないだろうか。
その積み重ねから、「人」と「その人の在る空間」との関係に対して、そして「空間に於いての人の動き」に対して、ライトなりの見方・観方・考え方すなわち「思想」が醸成されていったのだと思われる。

書物などでは、建築の図面は、柱や壁などが黒く描かれるのが普通である。ある人が、設計には、「黒い部分」で考えるか、「白い部分」で考えるか、二つの方法がある、と語っているのを聞いたことがある。
現実をみると、たしかにそういう二分法もないわけではないが、ライトの場合は(アアルトも多分)、そのどれでもなく、「白い部分のありようのために黒い部分を考える」という方法である、と言うべきだろう。

しかし、考えてみれば、人が建物をつくるようになって最初に行なったのは、この方法のはずである。「原初的な思考法」はまさにこれなのだ。
だから、白い部分からか、黒い部分からか、という見方・発想は、「近代科学主義的思考」:「ものごとを分解しなくてはいられない思考」が《普及》してからのものと言ってよさそうだ。[文言更改 19.59]

ライトの考えは、よく「有機的建築」という評語で語られる。これがまた話をややこしくしている。
もっと単純に、ライトは「人の原初的な思考法・発想にならっているに過ぎない」、と言った方が、分りやすいのではないか。
つまり、建築人間の目ではなく、普通の人の目でものを見る方法の実践。ところがこれが難しい!

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