ウクレレという楽器は4本(または4コース)の弦を持つ楽器(クラシックに使うバイオリン族の楽器をはじめとして、マンドリン、バンジョー等のポピュラー楽器)の中では最も音域が狭い楽器ではないでしょうか。特に12フレットの標準調弦のウクレレですとわずか1オクターブと3分の2の音域(最低音から最高音までの範囲)しかありません。
標準調弦ではなく、ローG調弦にすることでやっと2オクターブを越え、さらに12フレットではなく15フレットとか17フレットにすることで2オクターブ半程度まで音域が広がります。
もともとウクレレはコード(和音)を弾くように考案されているので、その用途としてはこの音域でも十分過ぎるほどですが、せっかく正確なピッチ(音の高さ)で弾くことも可能な楽器ですから、ソロやアンサンブルでさらに広い音域をカバーできれば、ウクレレを弾く楽しみも拡大するのではないでしょうか。 19世紀末から20世紀初頭に存在した「ウクレレ」というのはサイズがほぼ一種類しかなかったため単に「ウクレレ」と呼ばれていました。
その後テナー、コンサート、そしてバリトン等多彩なサイズのウクレレが登場したことによって、従来の「ウクレレ」は「オリジナル・ウクレレ」または「スタンダード・ウクレレ」と呼ばれるようになりました。「オリジナル・ウクレレ」というのはカマカが「パイナップル・ウクレレを発明したときに、これと区別するために「元からあったウクレレ」という意味でそのように呼んだのですが、「スタンダード・ウクレレ」という呼び方は「テナー」等のバリエーションではない、という意味で呼ばれたようです。
しかしその後「テナー」や「バリトン」と対比させて「ソプラノ・ウクレレ」と呼ばれることのほうが多くなりました。しかしながら、サックスのように「ソプラノ」「アルト」「テナー」「バリトン」とサイズが大きくなるにつれて音域が低いほうに移行して行く楽器と異なり、ウクレレの場合は「スタンダード」「コンサート」「テナー」とサイズが大きくなっても大抵は同じピッチ(4弦から:以下同じ定義で)GCEAに調弦していて、せいぜい4弦を「ローG調弦」にするか「ハイG調弦」(この呼び方も「標準調弦」としたほうが好ましいと思っています)にするか、程度の違いであって、極端な場合はカハウアヌ・レイクやイズラエル・カマカヴィヴォオレ(IZ)のようにさらに大きな「バリトン」までもこの調弦にしているミュージシャンも居るほどです。 本来ですとバリトンとテナーはDGBE調弦として設計された筈ですが、テナーをDGBEで弾いているミュージシャンはライル・リッツと彼の演奏法を追及しているひとたちくらいで、大半はGCEA調弦にしているようです。
1984年にキング・レコードから「トロピカル・ファンタジー」
というアルバムをリリースしました。このアルバムを出した当時、ウクレレソロのレコードが皆無だったためか、なんと25,000枚もでるという大ヒット(!)となりました。このアルバムのなかに「愛のオルゴールMusic Box Dancer」http://www.ne.jp/asahi/matt3/uke/MusicBoxDancer.mp3という曲を収録するに当たって、できるだけ幅のある音を実現させたいと思い、10台のウクレレを次々に弾いて重ね録音をしたのですが、このときオルゴールの音に似せた高音を実現するために「スタンダード」よりも1オクターブ高い音域を持つ「本当の?ソプラノ・ウクレレ」を設計して製作してもらうとともに、逆に低音をだすための「ベース・ウクレレ」を自作しました。
上の写真で左がベース・ウクレレで右がソプラノ・ウクレレで、サイズ比較のためにコアロハ(まだ1984年には存在していませんが)のスタンダード・ウクレレを中央に置いてあります。
「ソプラノ・ウクレレ」は現在でも時々使いますが、「ベース・ウクレレ」のほうはアシュボリー・ベース(既出)という小形のベースに取って代わられました。 この例のようなアンサンブルの場合は、それぞれのパートでさまざまな音域のウクレレを使えば音域を拡大することができるわけですが、たった1台のウクレレで音域を拡張することができないか、といろいろ模索した結果今回開発したのが「超音域ウクレレ:ERU(Extended Range Ukulele)」と勝手に名づけたウクレレ、というかウクレレの調弦法です。 この「調弦法」のヒントはスラック・キー・ギターにありました。
ご存じのようにスラック・キー・ギターの「スラック」というのは「弦を緩める」ということであり、代表的な調弦のタロパッチ・チューニング(別名オープンGチューニング)では本来のギター調弦(EADGBE)のうちの6,5,1弦のピッチをそれぞれ1音(すなわち2半音)下げてDGDGBDとすれば開放弦の状態でGメイジャー・コードが出せるので5弦と6弦でベース音を担当させ、4~1弦でメロディーやアルペジオを演奏することでたったひとりでも結構幅のある音域を持った演奏が可能になるわけです。 世の中に「スラック・キー・ウクレレ」という調弦方法はすでに存在していて、それによる演奏や音源も存在していますが、その大半はウクレレの調弦GCEAのうち、1弦だけを1音さげたGCEGとしたもので、これはスラック・キー・ギターの4~1弦の調弦を平行移動したに過ぎません。これに対して「ギターと同等」とは言えないにしても、せめて似通った雰囲気の音が欲しかったため、思い切って4本の弦を「高音部」と「低音部」に分けることにしました。しかし、メロディーを弾くにはせめて3~1弦の3本が欲しいところですので、そうすると「低音部」は4弦だけになってしまいます。スラック・キー・ギターのように1度(5弦)と5度(6弦)を出すにはウクレレでも3弦(1度)と4弦(5度)の2本を充てざるを得ません。そうして得た結論は1、2弦を「高音部」3、4弦を「低音部」にすることでした。
最初に掲載した写真の左側がこの「結論」を実現させた「超音域ウクレレ」であり、バリトン・ウクレレにエレキ・ギターのエクストラ・ライト・ゲージ(XL)弦セットのなかから6,5,2,1弦を張って、本来より1オクターブ低いGCをもつGCEA調弦としたことで、なんと3オクターブと3分の2の音域を持つことになったのですが、当然ながら2弦と3弦のあいだが1オクターブと1音離れているために、演奏方法はちょっと厄介です。でもそれに勝る「スラック・キー的な幅を持った音」に満足しております。
そして、メロディーはちょっと弾きにくいとしても、コード・フォームは普通のウクレレとまったく変わらないという大きなメリットが嬉しいところです。これを「開発」した翌日の「第7回OHANAライブ」(当時は「パーティー」ではなく「ライブ」と呼んでいました)で演奏したところ、皆様から大変ご好評を頂きましたので、大変意を強くした次第です。ちなみに同じ写真の右側はバリトンを標準調弦(ローG)にした「IZ仕様ウクレレ」です。4~2弦はナイルガットなのですが、1弦はナイルガットですとすぐに切れてしまうので、友人のRYUさんのご協力によるフロロカーボンを張っています。
(2006.4.5追記)最近はこのERUを携えてあちこちに出没しています。 3月12日に開催された「第4回神戸ウクレレ交流会」をはじめ、毎月古河で開催しています「オハナ・ウクレレ・パーティー」等でこのちょっと変った音色をご披露しています。そして最近来日したダニエル・ホーとハーブ・オータJr.にも弾いてもらいました(写真)。特にダニエル・ホーはもともとスラック・キー・ギター奏者ですのでコメントに注目したのですが、彼は6弦あっても問題なく演奏できるため特に4弦でムリをして低音がだせるこの楽器の必要はなさそうで、逆に6弦があまり得意でないJr.のほうが興味を示していました。
なお、ダニエル・ホーがコアロハのD-VI(ダニエルのイニシャルDとローマ数字の6を組み合わせた名称)で行っている調弦は、ギターの調弦をそのまま5フレット高くしたもののほか、彼が開発した「Cキラウエア調弦」と「Cキラウエア・スラックキー調弦」の3種類ですが、そのうちの彼独特の調弦ふたつでは5,6弦をこのERUの3、4弦と同じC、Gにしていることを知って、「やっぱり同じ意図だった!」と感激しました。
OHANAライブでのLow-G&C調弦のウクレレは、まさに「スラッキー・ウクレレ」でした。音色も音域も面白く、普通に弾いてもスラッキーぽく聴こえますね!!短期留学(アリガトゴザイマシタ!)のお陰で日曜日は弾きまくっておりました。子供たちもビックリした様で、何を言うかとおもったら・・・「また、MATTさんから借りてきちゃったの!?」ですって。
スラック・キーという先入観からでしょうか。一曲を通してはゆったりと聴こえるのにハイポジ方面へ移動のときなどシャープで鋭く聴こえるのです。アコースティックギターの切れのようです。これが耳に心地良かったのでした。スチール弦のせいかしら。
iisan、この楽器(というか調弦)からは、何か独特のオーラが漂ってくるので、いつまで弾いていても飽きません。そのためにライブの準備がおろそかになりましたが・・・・
多分、スチール弦の特徴がうまくでているのでしょうね。iisanが出かけたあの4階に「テナー・ギター」がおいてあったのに気が付かれましたか?あれはバリトンよりもさらに大きなボディーにスチール弦がGCEA調弦で張ってある4弦のミニギターで、オータサンの師匠エディー・カマエがこのタイプを愛用しています。この楽器を弾いたときに醸し出される雰囲気がなんとも言えず快かったことも今回の「発明(笑)」に結びつきました。
・・・・と書いていたら、短期留学の子が「ただいまぁ!」と帰宅しました。
Johnnyいろいろとご迷惑をおかけしましたが、おかげさまでまた元気に鳴ってくれていますよ。
帰れたのですね?ソフトケースの梱包にちょっと心配をしておりました。。。
いきなり我が家のハンガーにバリトン2本下げたら、いくらなんでもバレてしまいそうです。(笑)ご案内の2人(2本)が我が家へ遊びに来てくれたことは、とても光栄です!!
栃木のおふたりもお互いに「借り物」と言っているんじゃなかったかな?
バリトンを使ったGCEA調弦ですか~、面白そうですね。というか、どんな音なのか、実際に使ってみないとイメージ出来ません。多分探せば、以前(20年位前)に買ったエレキ弦があると思うので、試しにうちのボロバリトン(まるで家具のような堅牢なボディにモップの柄のようなネックが付いています)でやってみようかと思います。今度の週末に岡山の某バリトンユーザーさんとも宴会でお会い出来そうですので。
ひとつ、ご注意が。エレキ弦でもライトゲージを使ってくださいね。ヘビーゲージですとテンションでブリッジが飛ぶおそれがありますから・・・
もっともpastaさんのバリトンは頑丈だから大丈夫でしょうね。某氏のカマカはともかく・・・・
ローリング・ココナッツの最新号にpastaさんの同級生
が「バリトン・レッスン生」として載っていますね。
大変、面白い試みですねぇ。
私もスラッキーの心地よさが大好きです。
最近はシリル・パヒヌイに嵌っていて実は
持ちレレの一本をGOEGチューニングにて
せめて雰囲気だけでもKI HO` ALUと遊んで
おります。
しかしながらMATTさんの研究心には脱帽です。
名前、タイトルを書き込む前に間違って
送信してしまいました。
まずはオリジナルのDGBE調弦で弾いた場合、そこそこの音がしましたが、もっと低音が欲しいと思い全体をローGの1オクターブ低い調弦にしてみました。しかし、得られた音は全然インパクトがありませんでした。
そこで結論として本文のように1,2弦だけをエレキ・ギターのスチール弦に落ち着いたわけです。
この調弦で弾いた瞬間に流れた音は想像以上にすばらしいものでした。もちろんスチール弦ですので普段ナイロン弦しか弾いていない指ですと当初はキツイかもしれません。(すぐ慣れるとは思いますが。)
キー・ホーアル(スラック・キー・ギター)は1930年代メキシコからやってきたカウボーイ(パニオロ)達が置いていったギターが元になったわけですが、それに張ってあったガット弦を1960年ごろに到来したスチール弦に変えたことが普及の決めてになったようですね。やはりスチール弦の「音の伸び」が独特の雰囲気をつくってくれるようです。
あ、mittuさん、ご紹介させていただいた「家宝のウクレレ(3)」のタイトルを「家宝のウクレレ(ミニ・ウクレレ)」に変更しました。そして近々新規の「家宝のウクレレ(3)」をご紹介する予定です。