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相模と武蔵の国境、まほろ市近隣在住者が綴る「生々流転」の日々

”my sky hole 88 .4” と東山 “哲学の庭” をつなぐ彫刻家

2017年08月13日 | 美術
 六月末の文章に、芹が谷公園入口のレンガ敷きのスペースに鎮座する巨大なステンレス製球体彫刻”my sky hole 88 .4”のつぶやきを聴きに出かけたことについて記した。
 この球体彫刻シリーズはいくつかあるらしく、そのひとつ上野公園内東京都美術館入口広場に置かれている”my sky hole85”と芹が谷の球体が同類であることに気がついたときに、芹が谷と上野のふたつの公園が時空を超えてつながった。ふたつの公園は、台地の縁に起伏をなしていて、樹木豊かな園内にはレンガで覆われた美術館が存在していることも共通点だ。この一致は、おそらく彫刻作者自身も設置者も意識したことではなく、偶然のなせる必然だったと推測され、人智を超えたおもしろいことの具体例だと思う。
 作者の井上武吉(1930-1977)は、奈良県室生村生まれで武蔵野美術学校に学んだ彫刻家だ。赤瀬川源平(1937-2014)や中西夏之(1935-2016)、高松次郎(1936-2010)、荒川修作(1936-2010)、河原温(1932または33-2014)といった前衛アートの旗手たちよりもすこし上の世代に当たる。井上はもっとも年上で、ルーツが都会やその近郊でなく、純田舎派のモダンアーチストということになる。
 
 最近、立て続けにその井上武吉について知ることとなった。きっかけは、朝日新聞8月8日付の夕刊記事「アートトリップ」である。ここの欄に井上の遺作“水面への回廊、琵琶湖”の情景が、大津城と港の歴史とともに以下のように紹介されていた。
「湖に向かって、高さ6メートルの列中を左右に一八本づつ配したアプローチを進むと『石のシンボル彫刻』を経て砂利式の円形広場に出た。中央に一本のクスノキがたち階段貯穀に囲まれた空間は、古代ギリシャの遺跡のようだ。」
 いささかベタな表現で記述された内容からは、実際のこの作品空間の魅力が伝わりにくい気がするが、それでも実際に端を運んでみたい気にはさせられる。一昨年の冬、このすぐ近くまで出かけながら、その作品広場までたどり着けなかったことが悔やまれる。それも仕方なし、なにしろそのときは作品の存在や井上武吉の名前すら意識していなかったのだから。もし、足を踏み入れていたならば、その印象はかえってよりピュアなものとなっただろう。

 その関連でいろいろとネット検索をしてみた。この作家の一般的な知名度は決して高くはなく、評伝的なだぐいのコンテンツが出てこないと諦めかけていたら、ある建築事務所のHPで思わぬ写真付きエッセイに目が停まった。そこに「奈良が生んだ彫刻家・井上武吉の“哲学の庭”と題された一文があり、四年ほど前にウエスティン都ホテル京都に停まった際、ひとり早朝に部屋を抜け出し、偶然に見つけた中庭の写真が添えられてあって、はっとさせられたのだ。

 家族旅行でこのホテルに泊まったのは、ひとえに建築家村野藤吾のモダン和風建築の傑作“佳水園”を目当てに、館内に遺された意匠の面影を探し求めてのことだった。ひとり早起きして、園内の野鳥の小道をのぼって、東山からの市内遠望を楽しんだ後、館内探索に歩き回っている途中の見つけたこの幾何学的なモダンな庭は、だだものでない気配を漂わせていた。いささか古びてはいたが、これも村野?、それとも昭和の作庭家、重森三玲かとおもわせる段差のある立体造形のキレの良さ。人工池に落ちる長い石の水路からのひとすじの流れ、白洲と刈り込まれた植栽のコンストラスト、じつに驚きだった。

 なんの予感もなく、その場には説明版もなく(有名な佳水園には立派な説明版があった)、予備知識ゼロで出逢うことのできたこのモダン庭園の設計者こそが、彫刻家・井上武吉だったのである。芹が谷公園の”my sky hole 88 .4”と京都哲学の道ならぬ東山山麓ホテル内の“からの哲学の庭”がここにつながった瞬間である。

 これでまたいつか京都・琵琶湖周辺に旅することの楽しみが増す。京都タワーからの眺望、村野藤吾のホテルに藤井厚二の聴竹居、W.M.ヴォーリズ建築、円山公園の洋館長楽館、小川治兵衛に重森三玲の庭園、ああ、いつ訪れることができるだろう。 

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