日々礼讃日々是好日!

相模と武蔵の国境、まほろ市近隣在住者が綴る「生々流転」の日々

1986年6月3日のドトール・コーヒーショップ

2016年10月08日 | 日記
 今月15日17時、小田急江の島線沿線にひろがるごく普通の住宅地にある駅前コーヒーショップが最後の営業日を迎える。ショップ入口に掲出された挨拶文によれば、開店は1986年つまり昭和61年6月のことだそうだから、なんと今年で三十周年を迎えたというのに、まさに青天の霹靂のできごと!

 当時、カフェという言葉自体がまだ世間に認知されてはいなくて、この手の新興資本による少しシャレた雰囲気のコーヒーショップは、都心ならともかく、この郊外の地に置いてはまだまだ珍しく新鮮そのものであった。 
 なにしろ、第一号店が原宿に開店したのが1980年(昭和55年)4月だから、ドトールというブランド自体がいまほどは知名度は高くなかったはず。それが早くもここにできたことで、この駅前もすこし都会的になったかのような気がして嬉しかったのを覚えている。いまなら鳥取県にスターバックスが開店した時のような気分だろうか? だだし、そのようなマスコミを巻き込んだおおげさな空騒ぎはなくて、謙虚なものだったと記憶している。まあ、そこがこの地域らしくて好きなのだが。この周辺は、小田急が小田原線から江ノ島線に分岐して最初の駅で、おとなりが田園都市線の始発に接続する中央林間という、言ってみればエアポケットのような土地柄で、商売には少々難しいところだ。

 そのドトールショップのオリジンである原宿店は、もう新しいビルになってしまっている。当時、地元のお蕎麦屋さんがあって、その隣がショップ、うなぎの寝床式のスタンドが主体の店内だった。珈琲一杯が150円というのが新鮮かつ衝撃であり、看板メニューであるジャーマンドッグとの組み合わせが当時としてはじつに旨く、大学生になったばかりの僕は、よく原宿表参道ぶらぶら歩きや明治神宮の行き帰りにひと休みしようと通ったものだ。この年に村上春樹、翌年に田中康夫が小説デヴューしている、そんな時代だ。
 あのころは駅前歩道橋のそばに国土計画本社があり、いまも参道並木のケヤキの緑に沿って、高級分譲マンションのはしり、コープオリンピアが健在だ。すこし下るとケーキのコロンバン、ステーキのスエヒロ、メンズショップのSHIPS、そして明治通り交差点のラ・フォーレ原宿、パレ・フランセ、セントラルアパートメント、レトロな同潤会アパートとメガロポリス東京の記号の集積、まさしく1980年代の表層文化を象徴するような小説“なんとなく、クリスタル”の舞台が続く。
 その余波のなかに堅実な1号店をスタートさせて勢いのあったドトールショップが、早くも地元の駅前に堂々と登場したのである。まだ、バブルがはじける前で、まほろ周辺や相模大野にも同じ形態のショップはなかったと思う。その驚きは、同じくコープオリンピアにあった有名中華料理「南国酒家」がまほろ駅ちかくに開店したとき以上のちょっとした感慨深さだった。これからは、郊外がおもしろくなる、なんとなくそんな予感がしていた。

 あれから三十年、すっかりショップ自体が地域になじんで、地元住人には憩いの場として親しまれるようになっていた。ある意味ここになくてはならない場所となりえていたから、効率を旨とする大資本論理からすると、継続して存在していたこと自体が奇跡のようだったのかもしれない。これまでマクドナルドもケンタッキーも撤退してしまったし、思い起こせば現ドトールの前のテナントは、あの「レストラン・ジロー」だったのだから!
(ジローはすこし形態をかえて、最近になって玉川学園、鶴川駅近くに復活したのは喜ばしい)

 ひょっとしたら、創業者の志にあるように地域に親しまれるコーヒー文化を提供するという使命が結果的に叶っていた、ユートピアのような場所たりえたのかもしれないと想像する。この小さなわずか28席のショップ空間の中に、この三十年の時代の流れと記憶が象徴されていた。きたる15日はその閉店に立ち会うことで、まあたぶん、やれやれとつぶやきながら、村上春樹にとっての1973年のピンボールのように何かが失われて過ぎ去ってしまった時代の転換を思うだろう。

 ドトール、のち、はれやか、あなたは三十年前、誰と出会ってどこで何をしていましたか?
 (閉店間際の東林間店を見る 小田急駅ビル)

 
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