日々礼讃日日是好日!

立夏、端午の節句。みみずくは何処へ

 いよいよ新緑の中に夏の気配が立ち込めてきて、陽光煌めいてくる季節の始まりにふさわしい爽やかな一日となった。

 この時節、相模川両岸では、伝統の大凧揚げがある。その会場に程近い高田橋上流では、相模川を横断して様々な色合いの鯉のぼりが薫風にひるがえっていて、田名から愛川へと車で抜ける際には、想像していた以上に多くの鯉たちが豪快に泳ぐ情景に驚かされたものだ。

 愛読している『日本の七十二項を楽しむ』(文・白井明大、東邦出版2012年)によれば、鯉のぼりの風習は、江戸時代の武家の行事から始まり、鯉は滝を昇ってやがて龍となって昇天していくという中国古代の逸話に遡る。それが男子の立身出世にふさわしいと武家の間に広まっていったのだそうだ。今年の「鈴鹿歴」には、端午の節句はもともと中国の風習が奈良時代に日本へと伝わった邪気を払い災難を避けるための行事で、もともと月初めの午の日の意味が陽数五が重なる五月五日へと定着したと書かれている。

 立夏の日、我が家でも京都一保堂の煎茶にあわせて家人が買ってきた柏餅をいただき、しょうぶ湯に浸かった。しょうぶ湯には、身体の血行を促進させて、疲労回復や鎮静効果があるそうで、ささやかながら浴室の湯船のなかで無病息災と健康無事を願う。(補足:菖蒲から溶け出す成分は、テルペンといい皮膚や呼吸からも取り込めるそうで、こころも身体もリラックス!)

 また柏餅を食べる習慣は、日本で生まれた純国産の習わしだそうで、新芽が出るまで葉が落ちない柏の木にちなみ、家系繁盛につながる縁起物とされたことによる。このあたりはユズリハも同様で、正月の縁起物飾りとして象徴的に用いられる由縁だ。そして菖蒲湯に入ることは健康への効果があり、加えて邪気を払うと信じられいた。菖蒲ショウブは尚武、武を尊ぶにつながり、それが端午の節句が男子の成長を祝う節句となっていった、と先の本では書かれている。
 
 なるほど端午の節句には鯉のぼり、そして柏餅と菖蒲湯がつきものとなっていった経緯はそういうことだったのか。なにはともあれ、この日は日の出が午前五時すこし前、日の入りは午後六時半とすっかり昼間時間が長くなってきた立夏の夕暮れだった。
 
 最近読み切った本は、作家川上未映子による作家村上春樹への創作の作法や発想方法に迫ったロングインタビュー集「みみずくは黄昏に飛び立つ」である。対談後、わずか三か月足らずでの異例のスピード刊行!
 その四回にわたる対談の初回は、2015年7月西麻布ブックストア&カフェ(地下一階にある)で行われた。話題の焦点は、作家の深層心理や集団的無意識の世界についてだから、この地下にある会場にぴったり。二回目が2017年一月の神楽坂矢来町新潮社クラブ、三回目は最新刊の小説の登場人物のひとりが肖像画家であることにちなんで、画家三岸好太郎アトリエ(中野区上鷺宮だろう)で行われ、最終回が2017年二月二日、いよいよかという感じで川上を村上春樹自邸(たぶん大磯?)へと招いて行われたとある。この会場の選ばれ方が、その回ごとの話題にリンクしているようで興味深い。
 
 村上氏、本編ではユングや河合隼雄などの固有名詞を出していたが、建築方面には興味がないと話していたし、日本の伝統やしきたりとか、季節のたたずまいといった方面には、いまのところあまり関心がなさそうである。その印象があるのはドライな文体からくるのであろうか、村上は文体が導いてくれる物語性こそが何よりも大事だと語っている。反面、小説のなかの風景や景観といったとらえ方については、あまり話題になっておらず、感性の違いを感じた。さて、そうすると本文に収録されなかったふたりの雑談では、いったいどんな本音?がでていたのだろう。
 
 ここで思い起こしてみよう、対談最終日のその日は三島の富士山ろくクレマチスの丘にいた。写真美術館をのぞき、クレマチスの花が咲く前の季節の野外彫刻作品を巡った。最後に、B・ビュッフェ作品を眺めて、夕方富士山麓をあとにして、その日の長い深い夜は、沼津で明かしたのだった。
 もしかしたら、ふたりの対談を見届けたあのみみずくは、夜更けに駅前ホテルの室内に降り立ってくれたようにも想う。そしてひっそりとその部屋の片隅に潜んでいてくれたのだ。ながい夜の日付けが変わろうとする頃、やさしく羊を数えた夜にクレマチスの花の精の深い夢をみることができたのは、そのおかげだろうか? ひそかにずっと望んでいた、自然の赴くくままに魂がつながる無意識の一期一会の世界、、、。

 あれから三島の庭園美術館のクレマチス=暮れ待ちす の花は、いまが見ごろとなっていることだろう。もう一度訪れるとしたら、今度こそはその咲き誇る花の風景を見に行かなくては、そしてそこから黄昏にみみずくが飛び立つ姿と、その方向と行く先をしっかりと見定めなくては、、、。


 すまいの敷地内北斜面に残る自然林の咲くイチリン草の花ふたつ寄り添って。その季節は立夏へと巡る日々。


 こちらは、イチリン草の五輪ショット、この春も日陰に咲く清楚なすがたを目にした小さな幸せ。

 
(初校2017.05.05、05.09改定)
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