A Challenge To Fate

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【私のB級サイケ蒐集癖】第9夜:桑港の薄幸の子羊「バーバラ・モーリッツとラム」

2017年01月09日 13時12分49秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


初心者サイケ蒐集家にとって「シスコサウンド」は鬼門かもしれない。サイケデリック文化の発祥の地でありデッドやジェファーソンなど数多くのサイケデリック・バンドを生み出したにも拘らず、サイケマニアの好む極悪ファズギターやヘヴンリーなアシッドフォーク、ギミックスタジオワークを求めると肩すかしの場合が多い。シスコの街が生み出すサイケ感は、音楽のスタイル以上に反体制運動とドラッグに塗れた桑港の街の空気に依るところが大きい。だから普通のブルースやジャズやソウルもシスコでやればサイケ臭くなる。それを半世紀経った今、遠く離れた日本の地でレコードだけで味わうことは絶対に不可能。つまりシスコサウンドのレコードを聴いても「何処がサイケ?」とピンと来ないケースが少なくない。そう考えると世界のサイケマニアがテキサスをはじめとしたローカルサイケや自主制作のレア盤をもてはやす一方で、シスコ系のメジャーリリースを軽視する傾向にあるのも頷ける。筆者も曾てはそうだったが、今聴くと中古レコード市場で安価で買えるシスコサウンドに良盤が多いことが分かるようになった。

テキサス出身の女性シンガー、バーバラ・モーリッツとギタリストのボブ・スワンソンを中心とする「ラム Lamb」もシスコサウンドの一翼を成し良質な作品を残した。ビル・グラハムのフィルモア・マネージメントに所属し3枚のアルバムをリリース。71年7月のフィルモア・ウェスト閉鎖記念イベント『フィルモア:最後の日』にも出演し同名ドキュメンタリー映画とレコードに収録されている。

Last Days at the Fillmore - Full Documentary - (Official)


●Lamb『A Sign Of Changes』(Fillmore Records ‎– F30003 1970年)


フィルモアレコードからのデビュー・アルバム。ジャケットが素晴らしいが、内容はそれほどカラフルではなく、ジャズの要素を融合した内省的なアシッドフォーク。「銀の魚が木の上で育ち、空が海水でいっぱいになったら、ああ、何処で太陽が見つかるのだろう、天啓を受けるための」(アーラム・スピッカーの冒険)といったイマジネーション豊かな歌詞は、英語が聴き取れないと味わえない。控えめなフルートやオーボエ、弦楽器のアレンジが心地よい。

Lamb - Traveler's Observation (1970)


●Lamb『Cross Between』(Warner Bros. Records ‎– WS 1920 1971年)


ワーナーブラザーズからのセカンド。ジャケットが突然地味になったが、この方が彼らの素朴な世界に似合っている。前作リリース以降、ボブ・スワンソンが妻フレディと息子セスと共に田舎へ引っ越し、バーバラ・モーリッツは息子ジョシュアを授かり、5人組のバンドになった。スワンソンのクラシックとジャズの要素の強いソングライティングが発揮され、特にB面のファンタジックな組曲風の構成は、サイケやアシッドを越えてプログレッシヴな創造性の高みを極めた。サイケファンの間では1stの方が評価が高いが、恐らくB面をきちんと聴いていないのだろう。ティム・バックリーに匹敵する天才だと信じている。

Lamb (USA, 1971) Flotation


●Barbara Mauritz - Lamb『Bring Out The Sun』(Warner Bros. Records ‎– WS 1952 1971年)


サードにしてラストアルバム。バンドになってからライヴ活動が増え、バーバラのヴォーカルの人気が高まり、ボブはバンマスとして作曲・編曲に専念。スワンプやブルースの色が濃く、ライヴ映えのするヴォーカルナンバーが増えた。古き良きアメリカを讃えるようなノスタルジックなメロディはこの頃のフィルモア周辺のトレンドかもしれない。バーバラのヴォーカルはジャニス・ジョプリンやグレイス・スリックほどの個性はないが、様々なスタイルを歌いこなす才能は突出している。

このアルバムのリリース後ラムは解散。ボブ・スワンソンは写真家に転向。バーバラ・モーリッツは73年にトーマス・ジェファーソン・ケイのプロデュースでソロ・アルバム『Music Box』をリリース。その後もシスコを中心に歌手活動を続けるが、2014年4月14日にサンフランシスコで65歳で逝去。70年代フィルモア時代のマネージャーの回想で、不利な契約を交わしたせいで、彼女の作詞・作曲の印税は一切支払われていないことが明らかにされた。不遇な子羊に再評価の女神は微笑むのだろうか。

子羊に
変化の兆し
あるのかな




Da Blues FISH & CHIP & FRIENDS 5.31.85


元カントリー・ジョー&ザ・フィッシュのバリー・“フィッシュ”・メルトンと元クイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスのジョン・シポリーナを中心にシスコサウンドの代表的ミュージシャンが集った85年カリフォルニアでのライヴ映像。
Barry "The Fish" Melton, John Cipollina, Peter Albin, Spencer Dryden, Barbara Mauritz, Robbie Hoddinott, Cash Farrar
New George's San Rafael California


コメント (1)    この記事についてブログを書く
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1 コメント

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Unknown (足音)
2017-01-11 00:02:57
あぁ
毎回すばらしい記事と春の泥のようなうつくしい文章に、背中どころかのカユいところへ手の届く内容にうっとりするこのごろです…

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