A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

友川カズキ ワンマンライヴ@高円寺 ShowBoat 2013.7.8(mon)

2013年07月10日 00時29分21秒 | 素晴らしき変態音楽


ShowBoat 20th Anniversary
友川カズキ ワンマンライヴ

小学校の頃、歌謡曲以外で流行っていた日本のポップスはフォークだった。歌謡曲のようにテレビで観ることはないがどうしてかヒット曲は知っていた。「帰ってきたヨッパライ」「学生街の喫茶店」「神田川」「岬めぐり」「走れコータロー」など歌詞はうろ覚えだったが友達と一緒に歌っていた記憶がある。中学に入り音楽の授業でギターを習い、自分でも弾きたくなった。親に頼んでクラシックギターを手に入れ、下敷きをカッターで切ってピック代わりに弾き始めた。近所の本屋で買ったギター教本はフォークソング集で、最初に弾けるようになったのは「シクラメンのかほり」だった。洋楽ポップスを聴くようになり、最初に好きになったのがジョン・デンバーだったのはアコースティック・ギターで弾けると思ったからかもしれない。

中3年の時パンクに出会い、フォーク(&ニューミュージック)はダサいと思うようになった。その嫌悪感は強く、ミラーズのシングルが雑誌で泉谷しげるを引き合いにして紹介されていたので買う気が失せたほどだった。(ゴジラレコード第一弾にして東京ロッカーズの最初のレコードを購入しなかったのは今思えば残念でならない。当時他に比較の対象がなかった音楽メディアの貧困さと自分の嗅覚の鈍さを恨むばかりである。)パンクとは価値観の革命だったが、ダサいフォークにもパンク精神を持ったアーティストが存在し、ニューウェイヴ以降の音楽シーンでも評価された。泉谷しげる、遠藤賢司、あがた森魚、三上寛、友部正人がそれだが、彼らと並び称されたパンク的フォーク歌手が友川カズキ(当時の表記は”かずき”)だった。とは言っても個人的には昔ながらの日本情緒をアコギで歌ってどこがパンクだ?とイマイチ納得できずにいたのは確か。

そのもやもやを一気に打ち砕いたのが友川の『無残の美』(1986)だった。たこ八郎に捧げた1曲目から頭をガーンと殴られ、アルバムが進むにつれ情動の波動に圧倒された。何よりも東北弁の歌の強力な磁力は、当時の浮ついた日本のニューウェイヴを蹴散らす破壊力に溢れたナパーム弾さながらだった。実際、あまりにも生々しい言葉に籠められた情念に取り憑かれそうな気がして恐ろしく、聴くのが憚られレコード棚の奥にしまい込んだほど。こんな気持ちは灰野敬二の『わたしだけ?』以来だった。




避けていた訳ではないが友川の生演奏はなぜか経験する機会がなく、今年2月のギャスパー・クラウス『序破急』コンサートで初体験し魂が震撼する衝撃を受けた。ソロライヴを観なければならない、と強く思った。何度かニアミスを繰り返し、やっとこの日ワンマンライヴを観ることができた。『無残の美』ショックから27年後の邂逅である。




高円寺ShowBoatは平日にも関わらず満席。ここが満員になるのは灰野敬二以外経験がない。常連風の年季の入ったファンもいるが、学生風や女性客も多い。怖いもの見たさに似た緊張感のある灰野のライヴとは違い、和やかにリラックスした雰囲気がある。「生きてるって言ってみろ」「トドを殺すな」Tシャツや詩集も並ぶ物販席には、モダーンミュージック/PSFのオーナー生悦住の姿もあり、2000年代初めの灰野ライヴの風景を思い出す。開演まで友川はスタッフと馴染みの焼き鳥屋で呑んでいたとのこと。



マイクスタンドと譜面台とテーブルだけのシンプル極まりないステージにふらりと友川が登場。強面な外見に似合わぬ柔らかい秋田弁で気さくなMC。しかし、ギターを爪弾き「彼がいた」(『無残の美』1曲目)を歌い始めた途端に空気が変わる。スピーカーを破壊し空気を震わせる歌声にのって耳殻から侵入した言葉の刃が脳の中枢に突き刺さり、血管を流れ全身にいきわたる。ギターのストロークに感覚が麻痺した皮膚の表面を、体内を巡るメロディーの深い感情が潤し暖かく包み込み体温が1.5度上昇する。Sweet Surrender(甘美な無条件降伏)すなわち、「もうどうにでもして」という懇願。日常や原発や政治を率直に語り、客の発言に憤ったりする自然体のトークと厳然とそそり立つ魂の歌が繰り返され、脳味噌をマッサージされる快楽と、人生の真実を暴き出す鋭い凶器を突き立てられる恐怖の間を行き来する未体験ゾーンに翻弄された2時間だった。




終演後、余韻を失わないように物販も見ずにShowBoatを後にして駅へと急ぐ私に声をかけるキャバレーの客引きの顔が、どことなく若き日の友川に似ているように思ったのは気のせいだろうか?

無残の美
トドを殺さず
生きてみろ

花々の過失 La Faute des Fleurs ̶ a portrait of Kazuki Tomokawa, Musicians of Our Times Episode 2
監督、撮影:ヴィンセント・ムーン
主演:友川カズキ
出演:及位鋭門、大関直樹(マネージャー)、生悦住英夫(「PSFレコード」プロデューサー)、加藤正人(脚本家)、福島泰樹(歌人)、石塚俊明(ミュージシャン)、永畑雅人(ミュージシャン)ほか



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