ある旅人の〇〇な日々

折々関心のあることや読書備忘を記録する

鳥飼否宇著の3作品の読書録

2010年06月02日 | Weblog
■2002/06/27 (木) 久々の沖縄ミステリーだった
「非在」:鳥飼否宇、角川書店

タイトルの「非在」は、人の空想の中に棲むという意味のようだ。この小説では人魚。
大学のサークルの学生グループが古文献を読んで蓬莱の島に人魚を求めて探険に行く。
島の名は沙留覇(さるは)となっている。それは沖縄諸島のいちばん北にある硫黄鳥島である。サルファは硫黄のことなのでさすがに自然科学が得意な作家だなと分かる。
今では硫黄鳥島は忘れられた島だが、琉球王国の時代は大切な島だった。朝貢貿易の交易品だった硫黄を産出したからだ。
海岸で拾った漂着物のフロッピーディスクが事件の関わりの発端になるところは今風のミステリーである。
島で起こった事件は、人肉を食べるカニバリズムが描かれ、少しグロテスクだが、トロピカルな動植物が多数登場して興味深い。
難点は殺人の動機が弱いことだろうか。それに複数の白骨死体の組み合わせの説明が分かり難い。
また、探検隊が着いた島を尖閣諸島のひとつだと思わせていたが、実は奄美諸島に近い硫黄鳥島だったというのでは、距離が離れすぎていないだろうか。
久しぶりに楽しめたミステリーであった。

■2002/12/01 (日) 陸の孤島のミステリー
「中空」:鳥飼否宇、角川書店

2001年横溝正史ミステリ大賞の優秀作受賞作品。著者の処女作である。
すでに第三作の「非在」を読んでいたが、やはり作風は似ている。しかも推理の登場人物は同一である。
植物写真家の猫田夏海と元出版社会社員で現在野生生物観察者の鳶山久志。
浅見シリーズのようにシリーズ化するのだろうか。

事件の場は鹿児島の山奥にある竹茂村という架空の閉ざされた小さな集落。戸数7で人口12人である。
人々は老荘思想で質素に生活している。竹を使った住居、筍とりや竹細工や竹炭づくりなど竹尽くしの村。
村長は荘子の末裔の宋家が代々就任していた。その他の家は竹林の七賢人の姓を名乗っている。
12世紀に中国から荘子の子孫の一族が渡ってきてつくったという奇想天外な村だというのだ。

村に数十年振りの竹の花が咲いているという情報を得て、猫田と鳶山は村へ入る。そこで恐ろしい連続猟奇殺人事件に出くわす。
弓矢が突き刺さったり、刀で斬首されたり、トリカブトで毒殺されたり。
事件の原因は20年前の悲惨な殺人事件だった。横溝正史の「八つ墓村」を彷彿させる。

登場人物の名前が覚えにくく、推理がすっきりしないので、何か読後、消化不良が起きそうだった。
最初は、竹取物語に因んだ事件かと思ったが、まったく違っていた。
「非在」は海の孤島の密室殺人事件だったが、「中空」は陸の孤島のそれといっていいだろうか。

著者は生物学に詳しいので、生物についての蘊蓄がふんだんに書き込まれ、その方面に関心ある読者にとっては楽しめるエンタテインメントになるだろう。
「中空」とは、竹の本質のこと、すなわち中身。

■2003/03/04 (火) 桃源郷で・・・
「桃源郷の惨劇」:鳥飼否宇、祥伝社文庫

鳥飼氏の第4作目の作品。もちろん、ミステリーで、舞台は中央アジアのタジキスタン共和国にあるヒマラヤ奥地トクル村。

テレビ局のプロデューサーが、イギリスの生物学者により新種の鳥ミカヅキキジが発見されたという記事を見つけた。そのロケーションは花が咲き乱れ、天上の楽園のようだというので、桃源郷のイメージをもち、番組作成のため4人のクルーに取材撮影に行かせることになった。
そのメンバーになぜか自然観察者の鳶山久志が選ばれた。鳥飼氏の作品には登場する人物であり、彼自身を投影しているものと思われる。

苦労して到着した村は、アンズやシャクナゲの花が咲き乱れ、とても美しいところだった。クルーが守らなければならない掟は、「神の領域を侵害してはならない」ということを古老から知らされた。通訳をとおしてクルーは、神を雪男イェティと理解した。ところが実際はトラだった。確かに、トラは神として崇められているところもあるが。村ではユキヒョウが神の使い、ミカヅキキジがユキヒョウの生贄とされていた。

登場する動物は、トラ、ユキヒョウ、ヒマラヤシロエリハゲワシ、羊、ヤクなど。
未明に林の中でミカヅキキジを撮影しているとき、カメラマンが首を折られて殺された。この殺人事件の犯人を推理するのが山場である。だが、あまり面白くない。犯人は雪男ではなくトラだったのだ。
鳶山が「五行の真実」という長い文章を書くことで、殺害の状況を推理した。それも、とても回りくどい。

140ページ近くの短編小説である。こういった短編が書き下ろし文庫本として発行されるのは、これからの流行になるのかもしれない。鳥飼氏は、現在、移住した奄美大島で晴耕雨読し、鳥など観察して時にミステリーを執筆して生活しているという変わり種。これからも、面白い動物が登場する作品をたくさん書いて欲しい。
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