570》 アリセプトが効く期間、どれくらい?
「認知症なんでも相談室」から (2014年8月 4日)
【Question32、93】
「認知症はよくなることはないって本当ですか。」
「アリセプト®は服用後2年が有効だと聞いていますが、有効期間はどれくらいでしょうか。」
【Best Answer】
アルツハイマー病や、老化のスピードより神経が早く死んでいく脳の病気(神経変性疾患といいます)では、基本的に脳の縮み(萎縮といいます)がよくなることはありません。
しかし、脳の萎縮を遅らせたり、残った神経細胞を活性化させたりして、現状を維持することは可能です。現在使うことのできる薬によって1年間、運動や脳トレなどのリハビリテーションでも1年間はよくなる期間があることが知られています。
これらを上手に組み合わせると、2年間は、よい状態を保てるようです(国立長寿医療研究センターもの忘れセンター、杏林大学もの忘れセンター)。
アリセプト®は発売当初、「服用開始してから半年間、認知機能低下を遅らせる」と言われていましたが、この「半年間」というのは、おそらくアリセプトの効果を検証した臨床試験(新薬承認のための治験)の期間が6カ月だったためであり、「服用後2年」というものも、また、長期投与に関するデータの研究期間が1~2年ということによるものでしょう。「半年や2年で効果がなくなる」という意味ではありません。
実際の臨床の場では、アリセプトを飲んで効果がある患者さんについては、途中でやめずに飲み続けることが推奨されています。ちなみに研究期間が長いものでは、「アリセプトは約5年間にわたり有効であった」とする報告もあります。
【監修/鳥羽研二 編集/武田章敬、清家 理:認知症なんでも相談室 メジカルビュー社, 東京, 2014, p39、98】
【私からのコメント】
2014年4月19日にグランドプリンスホテル新高輪にて開催されました「アルツハイマー病研究会・第15回学術シンポジウム」の開会の辞におきまして、東京都健康長寿医療センターの松下正明理事長先生が「『アリセプト特定使用成績調査(Japan-Great Outcome of Long term trial with Donepezil;J-GOLD)中間報告』において、ADAS-Jcogの平均値の推移をみますと、ほぼ18カ月でbaselineに戻ります。詳細は近々、本間 昭先生から論文報告されます。」と述べられました。
すなわち、投薬によって改善する期間は約1年程度というのがこれまでの成績でしたが、ADAS-Jcogを用いて評価しますとその期間が半年程度長くなり約18カ月であることが示されたわけです。
(つづく)
笠間睦 (かさま・あつし)
1958年、三重県生まれ。藤田保健衛生大学医学部卒。振り出しは、脳神経外科医師。地元に戻って総合内科医を目指すも、脳ドックとの関わっているうちに、認知症診療にどっぷりとはまり込んだ。名泉の誉れ高い榊原温泉の一角にある榊原白鳳病院(三重県津市)に勤務。診療情報部長を務める。
認知症検診、病院初の外来カルテ開示、医療費の明細書解説パンフレット作成――こうした「全国初の業績」を3つ持つという。趣味はテニス。お酒も大好き。
お笑い芸人の「突っ込み役」に挑戦したいといい、医療をテーマにしたお笑いで医療情報の公開を進められれば……と夢を膨らませる。もちろん、日々の診療でも、分かりやすく医療情報を提供していくことに取り組んでいる。
昨年の活動から認知症に強い関心も持つようになりました。
今後も、注視していきたいと思います。