2017年10月5日(木) 世界遺産:宗像・沖の島が登録
さる7月9日、ポーランドのクラカウ(クラクフ)で開かれていた、ユネスコの第41回世界遺産委員会で、日本から申請していた、
「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群
が、審議の結果、世界遺産に登録される事が決定した。 我が国としては、2年前の2015年7月の第39回委員会で登録が決まった、
明治日本の産業革命遺産
に続くものだ(2016年の西洋近代美術館は、仏との関連で)。これで、日本の登録遺産は、総数21件となった。
○ 日本の登録世界遺産 以下の21件
自然遺産 白神山地 屋久島 知床 小笠原
文化遺産 社寺仏閣 神社 厳島神社 紀伊山地 富士山
沖ノ島
寺 法隆寺 古都京都 古都奈良 平泉
建造物 姫路城 白川郷 原爆ドーム
琉球王国 日光
西洋近代美術館
産業 石見銀山 富岡製糸場 明治産業革命遺産
これ等の中で、筆者が訪れたことがある箇所(登録前が多い)を下線で示している。
○ 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群の概要
・構成資産 8件(下図 イコモス勧告との関係も記載)
・沖ノ島 ①宗像大社奥津宮
・沖ノ島周辺
②小屋島
③御門柱
④天狗岩
----------------------------------------------- 以上がイコモス勧告
・大島 ⑤宗像大社中津宮
⑥宗像大社沖津宮遥拝所
・福岡県 ⑦宗像大社辺津宮
⑧新原・奴山古墳群
(ネット画像)
○主な内容
沖の島 位置関係 九州本土から沖合約50km
朝鮮半島まで約150km
島自体が信仰の対象
宗像大社奥津宮(おくつみや)が存置
宗像大社が管理
神職が定期的に入島し拝礼
入島時の特異な習俗(禊 みそぎ)
女人禁制
古代の祭祀遺跡
国の繁栄と航海の安全を祈願
戦後の発掘調査で、大量の祭祀用宝物(全て国宝)が出土
海の正倉院とも(大陸の宝物が多い)
周辺の岩礁も信仰の対象に
古代の九州本土と朝鮮半島間との往来は、壱岐・対馬ルート(対馬と朝鮮半島との距離 約50km)が使われ、沖ノ島は無関
係と思われる。
大島 位置関係 九州本土から沖合約7km
宗像大社中津宮(なかつみや)が存置
奥津宮の遥拝所(奥津宮には容易に行けないため、女性向けも)
九州本土 宗像大社辺津宮(へつみや)
沖ノ島の祭祀遺跡から出土した宝物は、8万点にも及ぶと言われ、全て国宝。これらは宗像大社の宝物館に展示されているようだ。
○登録までの経過とイコモス勧告
政府として沖の島関連資産を世界遺産へ登録することをめざし推薦を決定し、2016年2月に推薦書が提出されている。この時点で、TV等で大々的に報道されたが、神職が全裸で禊をして、沖ノ島に入る様子に、筆者は驚かされたことだ。
入島前の禊風景(ネット画像より)
日本の申請に対し、ユネスコの諮問機関であるイコモス(*)から、この2017年5月、前図にあるように、沖ノ島とその周辺の岩礁①~④だけの登録とし(⑤~⑧は除外)、タイトルに、「神宿る島」を冠することが勧告された。
*International Counsil On Monuments and Sites:ICOMOS イコモス 国際記念物遺跡会議
このイコモスの勧告の原文は、読んではいないが、その理由は以下のようだ。 (「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 - Wikipedia 等を参照)
・自然崇拝に基づく古代の沖ノ島信仰と現在の宗像大社信仰に、継続性は確認できない。
・なぜ、どう信仰が変容したのか、説明が不十分。
・女人禁制など沖ノ島の禁忌の由来は、17世紀までしか記録をさかのぼれない。
上記のように、自然崇拝(アミニズム)に基づく古代の沖ノ島信仰には、普遍的な遺産価値があるが、現在の宗像大社信仰(国内随所にある、一般的な神社信仰)との継続性が確認できない、等の指摘は、筆者も、尤もだとも思う。
信仰の島、神宿る島、という意味で沖の島こそ信仰の中心で、そのために、長年、禁忌戒律が守られてきたもので、その他は、これを支える、周辺資産に過ぎないとも言えよう。
この勧告に対し、日本の関係者は、びっくり仰天し、奥津宮、中津宮、辺津宮の三宮をセットで捉えた8資産で無ければ意味が無い、と必死で訴え、活動したようだ。
イコモスが指摘した上記の3つの疑問について、どう回答したのかは不明であるが、最終的には、了解され、各国の委員の同意も得られ、目出度く、当初の原案通り、8資産セットで登録されることとなった。これに至るまでの関係者の尽力を多としたい。
今般、勧告のように、沖ノ島と周辺だけが登録されると、通常は入島できないので、観光資源としての価値が半減する。沖の島に加えて、大島と、九州本土の宗像大社や関連施設まで登録されれば、その効用は極めて大きなものとなる。地元の人たちが、8資産の一括登録に必死だったのは当然だろう。
そもそも、世界遺産に登録する狙いは、建前では、遺産そのものを、提案国の責任で、保存し後世に伝えていくことだが、実際の本音では、登録することで、観光資源として有名になり、観光客が増え、これで、地元が活性化し、潤うことが狙いなのだ。 今回の沖の島の例での当事者の慌てぶりは、この両面性を浮き彫りにしたとも言える。
イコモスの勧告の関連では、先の富士山の登録をめぐって、イコモスから、構成資産にある「三保ノ松原」を外すよう勧告されたことが思い出される。 三保の松原は、景観資産とでも言うべきもので、日本的な美意識が関わっているだろうか。関係者の努力で、この構成資産も含めて、登録された事ではある。
今回の場合は、三宮の深い関連があることで、より、本質的と言えるだろうか。
○ 当面の日本からの登録予定案件
2018年の、ユネスコの第42回世界遺産委員会(開催国 未定)で、日本からの以下の2件が審議される予定のようだ。
・潜伏キリシタン関連施設 文化遺産(18件目)
キリシタンの迫害・受難の歴史
これまでの信仰関連遺産は、自然崇拝、神社信仰、仏教信仰で、キリスト教は初めて
・奄美大島と関連島嶼 自然遺産(5件目)
奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島の多様な動植物