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短編小説けだるい夏の日

2006-12-14 13:07:40 | 小説
短編小説「けだるい夏の日」

この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。

鉄道ファンの幸一は、Tシャツと短パン姿で湿気が身体にまつわりつくようなけだるい夏のお昼前、湘南電鉄に乗っていた。湘南電鉄は湘南地方の鎌倉―藤沢を海岸沿いに結ぶ電鉄で海と山の変化ある光景と家の軒並みをすれすれに走る全長10.0キロメートルの小さな鉄道は自動車の普及により、一時は廃止のうわさもあったが、近年沿線の宅地開発も進み、通勤客の増加と観光地が見直されて電車の増発とともに活気を帯びていた。レトロさに最近は非常に鉄道ファンも増えて人気のある鉄道に変わった。
 幸一も35ミリカメラを持って湘電の姿を気に入ったところで下車しては写真を撮るのを楽しみにしていた。
 鎌倉駅を出て、横須賀線の高架線に平行して走り踏切を抜けて右折すると目の前に民家が迫り、和田塚、長谷までは軒すれすれに走るのだった。
 幸一の乗った電車は、近年ここにも車両の冷房化が進んでいる中で、300系と言ってかっては東急玉川線を走った楕円形前面4つ窓がユニークな、旧式の電車で、天井の扇風機がけだるい湿った空気をかき回していた。
 幸一は、極楽寺で降りて電車を撮ることにした。
 ここは、湘南電鉄の車庫があり、切り通しのトンネルをホームに向けて走ってくる光景が、鉄道ファンもがあこがれる撮影場所として知られていたからである。
 坂を少し上りトンネルを見下ろす場所でカメラを構えて電車がトンネルから出てくるところを狙ってシャッターを押して撮影した。
まずまずだなあと幸一は満足して坂を下って再び極楽寺駅ホームに向かって歩いた。
 再び車窓の人となった。極楽寺を出て数々の電車が留置してある車庫を右手に見て、由比ガ浜を過ぎると切り通しは終わり左にカーブすると車窓一杯の夏の海と海の香りが車内一杯に広がった。幸一はこの瞬間が好きだった。
 カタタン・カタタタンとのんびりした轍の音をさせて海岸沿いの道路に沿って走った。
 鎌倉高校前から腰越を過ぎるとここから道路の路面を時速15キロの超低速度でゆっくりと江ノ島に向かって左右の平行する自動車を気にしながら江ノ島に向けて走るのだった。
 電車が江ノ島に着いて上り電車の列車交換を待っていた。しばらくして2分遅れて上り電車がやってきた。
 着いた電車は、なんともう引退したはずの単・コロ10系が2両編成だった。その時、車内アナウンスで構内の信号機の故障でしばらく電車が停車するとの放送があった。
「おや、単・コロ10系が、なんで?」
 幸一は不思議に思った。
 自然に幸一は座席を離れて向かい側に止まっている単・コロに向かって足が進んだ。ホームの時計は10時20分を過ぎていた。
 鉄道がなによりも好きだったので向かい側ホームに止まっている10型車両の車体をなでながら、木製ドアに乗り込んだとたん、手を掛けて乗ると軽いめまいを感じた。ふわっとして景色がぼけていく。幸一は、どうしてと思いながら運転台の柱に捕まって倒れそうな身体を支えた。
 もやもやとかすんだ景色がまた元へ戻ると、
「あっ」
と心の中で驚いた。
 驚いて声も出なかった。ティーシャツにジーンズの短パンが白いワイシャツに黒い学生ズボン姿に戻っていたのである。
「わっ、高校生、何で?」
 幸一は低い声でつぶやいた。幸一はさっぱりわけがわからず左のほほを思い切ってつねった。
「あいたた」
 夢ではないな、あたりを見回すと車内の広告にNECのバザールでごザールのサルの広告とノートPCの発売表示が示されていた。週刊誌の広告があり、雲仙普賢岳の爆発の惨状と書かれていた。幸一はそれを見て雲仙普賢岳・雲仙普賢岳・・・・と何回もつぶやいてはっと思った。
 僕は高校生、それも10年前に戻ったと思った。幸一は車内を歩き、2両目の車両に移った。前に進むとそこにセーラー服を着てテニスのラケットを持った涼子が座席に座って気持ち良さそうに眠っていたのを発見した。
 幸一は、思わず近づいて
「涼子さん」
と声を掛けた。
「あっ、幸一さん、ここってどこ?」
 涼子は目を覚ましふと窓の後ろを振り返った。
「江ノ島ね、幸一さんとは学校も違うし、久しぶりだし、どう江ノ島に行って見ない?」
「うん、降りよう」
と言って二人は電車を降りた。
 涼子がテニスのラケットを持っていたので、
「部活は?」
「ああ、今日練習だったんだけどさ、キャプテンが風邪で休んで、それで中止っていうわけ。」
「幸一さんは?」
「あっ、僕の演劇部?」
 幸一は高校の演劇部に所属していた。
「この間、シェクスピアのハムレットやったんだけど、今度はオリジナル作品作ろうということで」
「がんばってねえ、あたし、応援するから」
「ありがとう」
 そんな会話をお互い交わしながら江ノ島駅を降りた二人は海岸に向かって歩いた。
「ちょっと待ってて」
 涼子にそういって右側の店の前でソフト・クリームを二つとハンバーガを二つ幸一は買った。
「どうもありがとう」
 涼子と幸一はのどの渇きをソフトクリームでいやしながらゆっくり歩いた。
 その時、幸一のかばんの中のケータイが鳴った。母からだった。
「幸一、今どこに居るの」
「ああ、今江ノ島、涼子さんに会って」
「ああ、涼子さんね」
と母のいとこにあたる涼子ならば安心だと思った。
 江ノ島海岸に出ると、気が早い海水浴客が数人いた。沖合いを白いヨットが二隻進んでいた。
 江ノ島に通じる弁天橋の下を歩いて砂浜に立っていた。
海風が二人の頬をなでた。長い栗色の髪が涼子の顔に掛かった。涼子はそれを打ち払うかのように右手で後ろに持っていった。
 幸一は、
「涼子さんて可愛いなあ」
とひそかに思った。
 幸一は小石を拾って
「見てて」
と涼子に言いながら身体を少し曲げて右手で思い切って波に向かって投げた。小石はポン・ポンと弾みながら遠くに飛んで行った。
「面白~い」
 涼子も小石を拾って右手で水平に飛んで行くように投げた。幸一は涼子に気づかれないように秘かに写真を撮った。
 小石は小波をけって飛んで行った。二人は顔を見合わせて笑った。
 それから二人は江ノ島をつなぐ弁天橋を渡って歩いた。
 沖合いを白いヨットが2隻、波をけって進んでいた。
 橋を渡り終えて、二人は左の道路を歩いて防波堤の方に向かって歩いた。
 海からの微風が二人の顔をなでた。涼子は顔に掛かった髪を手で振り払った。
 防波堤には、釣り糸をたれて海釣りを楽しんでいる一人の老人がいた。
 涼子は側に行って老人に尋ねた。
「おじさん、釣れますか?」
 老人は、
「今朝からまだ1匹しか釣れていないよ」
 そう云ってボックスを開けて魚を見せてくれた。
「昔は防波堤もなくてこの辺なにもなくて、魚もよう釣れたんだけど」
 老人はそういって麦藁帽の下の日焼けした顔で笑った。
「幸一さんは、釣りするの?」
 涼子に突然尋ねられて幸一は
「やるけどさ、あまり好きじゃないんだ」と答えた。
「昔、父の会社の釣り愛好会があって、小さいとき近くの沼に行って、いきなり雷魚が二匹釣れて恐くなって。それが僕の顔をにらんでいるようで」
と話すと
「面白~い」
と涼子は笑った。
「それ以来釣りに行かなくなって」
と幸一は言った。
 しばらく二人は休んで元来た道を戻り、海産物やみやげ物店の並ぶ細い江ノ島参堂の道を登った。
 潮の香を含んださざえを焼いてる香りが漂ってくる。
「おいしそうな匂い」
涼子は言った。
「食べる?」
 幸一はそういって店の中の奥の椅子に腰掛けた。
 涼子は運んできたサザエのつぼ焼きをおいしそうに食べながら、
「食べないの?幸一さん」と聞いた。
「僕はどうも海の香りの強いものは」
と言ってコーラを飲んだ。
 店を出て、江ノ島神社に通じる赤い鳥居を左に上ると江ノ島エスカーが見えた。
「以前はここから長い階段で頂上近くまで歩いて20分近くかかったけど、今はこの江ノ島エスカーで楽に5分くらいで行けるようになったんだ。」
「ずいぶん便利になったのねえ」
 二人は、エスカーに乗り換えては歩いていくと右側に江ノ島植物園と展望塔があった。
「ここ入って見ようか」
「うん」
 幸一と涼子は江ノ島植物園の中に入った。
 公園の小道は熱帯植物の木々が覆っていて海から吹いてくる風がけだるいような暑さを和らげた。
「あたし、江ノ島っていつでも来れると思ったりしてえ、ここは入ったことなかった」
「僕もなんだよ、いつも素通りしてこの先の階段下りて岩屋の洞窟には行くんだけど」
 二人は、園内をゆっくり回った。
「この植物園には100年に一度しか咲かないアオノリュウゼツランとか、5000本の珍しい亜熱帯植物があるんだよ」
「いま、咲いているなら見た~い。まあ、100年に1回なの?。らんって夏咲くんでしょう」
 二人はアオノリュウゼツランの花を見にいったが、葉っぱだけだけだった。
「やっぱ、無理ね」
「あっ、リスがいる。見て、見て」
 涼子がびっくりした声で幸一に言った。
「本当だ、可愛いなあ」
リスは木の枝にいて両手で一生懸命木の実を食べていた。
 「あっ可愛いい~」
 二人はリスをしばらく見つめていた。
 小動物のいる小さな動物園には子供たちが喜んでいた。しばらく歩くと目の前に展望台が二人を見下ろすかのように行くてをさえぎるように屹立していた。
「ねえ、あの上に上ろうよ、きっと眺めがいいと思うよ」
 幸一は展望等を見上げるようにぽつんと言った。
「そうねえ、だってここでさえも高いんだから、きっといろんなとこが」
 二人は、屋上に続く長い階段を登りはじめた。展望塔をさえぎるものはなく、階段の隙間から海風が吹き上げてきてここちよかった。
 屋上は江ノ島の最先端で、二人はそろって
「すご~い」
と言った。360度の眺望は、少し霞んでいたが箱根の山々から伊豆・そして三浦半島、葉山、鎌倉と、目を東に転ずると遠く横浜まで見えて横浜スランドマークタワーが霞んで見えた。
「晴れていると、富士山とか大島が見えるそうだよ」
、幸一は、欄干にもたれている涼子に言った。
「う~んん、富士山見えなくてもいいわ。幸一さんと久しぶりに会えただけで」涼子は、振り返えり首を横に振って言った。
 幸一は涼子の仕草を見て
「涼子さんって可愛いなあ」
と心の中で思った。
 二人は展望塔の欄干にもたれてしばらくうっとりとして景観を楽しんだ。
 展望塔を降りて、植物園のベンチで二人は休んだ。
「ねえ、せっかく来たんだから、写真撮ってもらおうよ」
と涼子はかばんの中からインスタントのカメラを取り出した。
「ああ、ポラロイドカメラだ、すご~いっ」
幸一はちょうどとおりかかった若者に声を掛けた。
「はい、チーズ」
二人はVの字を大きく手で示し写真を撮ってもらった。
涼子は、若者から写真を撮った後、カメラを受け取った。
「ハンバーガーだけど」
 幸一はそういってかばんの中に入っているハンバーガーの入っている袋から取り出して涼子に差し出した。
「あれ、幸一さん、いつ買ったの?」
「さっき、ソフトクリーム買ったとき、一緒に」
「幸一さんてずいぶん気が効くのねえ」
 涼子はそう云ってうれしそうにハンバーガーを被りついた。幸一は走って行って、氷で冷やした缶コーラを手にとってほほにあて冷たそうな缶を選んで買って急いで戻り、
「はい、飲み物」
と言って涼子に差し出した。
 二人は、右手にハンバーガー、左手に缶コーラを持って話した。
「あと、どこ行こう」
「そうねえ、岩屋洞窟もあるけど、遠いし、駅に近い江ノ島水族館ってどう」
「そうだなあ、案外魚見るのもいいね」
 二人は元来た道を再びエスカーに乗って下り江ノ島を後にした。弁天橋を渡ると喧騒な音と排気ガスのにおいや湿った風が身体の回りをまつわいつきけだるさをさらに増して自動車が行き来していて江ノ島の静けさがうそのようだった。
「ちょっと待ってて」
幸一はそういって涼子を待たせてマクドナルドの店に入り、マックドポテトを注文して涼子の元に駆けながら戻ってきた。
少し歩いて江ノ島水族館の中に入ると冷気が二人を包んだ。
「わあ、涼し~いっ」
 けだるい暑さから開放されて巨大水槽のある場所に駆けて行った。
「ここは、相模の海を切り取ったような大水槽で8千匹のいわしが泳いでいるんだよ」
「すご~い、いろいろな魚が居るみたいな」
涼子は驚いて大きな瞳で上を見つめていた。
「あまり高くって首が痛くなる」
と言った。
 水族館とマリンランドを結ぶ約40メートルの地下通路は壁面には発光アートアクア・パラダイスがあってラッコ・いるか・ペンギン・ザトウクジラ・クラゲ・ウミガメなど、いろいろな海の生き物が黒く浮き上がっていた。
二人は、壁画を眺めながら左右、天井の円形水槽を泳ぐえいやさめにも目を配って歩いた。
「海の中に居るみた~い」
 涼子は立ち止まってそう言った。
「あの中で泳いで見たい?」
「まさか、えいとかさめが居たら恐いよ」
「この水族館に来たからには・・・・・・」、
「そうそういるかショー見なきゃ」
と二人はショー会場に急いだ。幸一は自販機で缶入りドリンクを買った。
「ちょうど良かった、3時30分の最終に間に合ったよ」
 二人は扇状のスタジアムの席に腰掛けた。
「食べる」
と幸一は、さっき買ってきたポテトフライの箱と缶コーヒーを涼子に差し出した。
二人は、箱に入ったポテトフライをr突っつきながら仲良く食べた。
 水族館の飼育スタッフが出てきて
「それでは、今日最後のハッピー・テイルショーを行います」
とアナウンスがあり円形の水槽の中のいるかに話しかける。
 子供と大人たちが水槽の中のいるかと握手をしたり触ったりしていた。
いるかは水槽をゆうゆうと泳いでいたが、突然空中を舞うかのように見事にフライングした。水しぶきが飛び散って水槽の前の観客に掛かった。
 二人は大勢の観衆に混じって拍手をした。
 涼子は、ふとわれに帰って、腕時計を見て、
「もう4時だわ、あたし、帰らないと」
と言った。その時、涼子のかばんの中のケータイが鳴った。ケータイを取り出すと母からだった。
「どうしたの、涼子」、
「お母さん、幸一さんに会って」
「ああそう、よかったね」、
と母は安心したようだった。
「楽しかった幸一さん。部活が休みになってよかった」
「僕も涼子さんと一緒でよかった。・・・・ぼ、僕は・・・涼子さんが好きだよ。・・・・・・」
 幸一はそういい掛けながら、
「でも・・・・涼子さんが・・・うちの母の従姉妹だなんて」
 涼子は、
「幸一さんからあたしを好きだって言われるのって悪い気持ちはしないし・・・・・・・」
と答えた。
「でも、あたしがあなたのお母さんと従姉妹だからいいと思う・・・・だっていつまでも・・・・今の気持ちで、また・・・・・・逢えるじゃない」
と涼子は幸一の顔を見て言った。
と言った。二人は江ノ島駅に向かって歩いた。。
 江ノ島駅に着き、涼子を単・コロ10型レトロ電車に送った。
「幸一さん、またねえ」
 涼子の声を背中で聞きながら、振り返ってガラス窓越しの涼子に手を振って2番線の停車中の電車に向かって歩いた。電車のドアに手をかけて足を踏み入れたとたん、幸一はまためまいを感じ耳がつーんとしてきた。周囲の景色が次第に霞み、ふらふらとした身体を握り手でしっかり掴んだ。どうしたんだろう、2回もめまいがして、不安な気持ちが襲うと同時にぼんやりしていた視野がはっきりしてきた。遠くに聞こえていた音もはっきりと戻った。
 ああ良かった。気がつくと元のTシャツに短パン姿に戻っていた。
 僕は夢を見ていたのだろうか、幸一はそう思った。
「お待たせいたしました。ただいま信号機が直りましたのでまもなく藤沢行きが発車いたします」
 電車は何事もないかのように5分遅れでけだるい夏の午後の日を藤沢に向けて走るのだった。
 カメラを収めたバッグを開けると、そこには涼子と一緒に撮ったセピア色に変色した写真があった。
「夢じゃなかったんだ、写真がここに」
 そう思って幸一は写真をしみじみといつまでも見つめているのだった。

                              (完)
著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します










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2 コメント

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C62 (eoskiss)
2006-05-16 09:03:02
函館本線のC62重連は凄い迫力だったでしょうね。

あと、C62と言えば銀河鉄道999ですね。

京都の梅小路蒸気機関車館にには、1号機と2号機が

保存されていますね。
C62 (さちかぜ)
2006-05-16 09:50:29
祖父が常磐線でC62やD51・C57なんかを運転していたみたいです。

C62は最強最大のSLなので迫力あるでしょうね。一度、本線を走るC62を見てみたいです。