野田マニフェスト論からすると、解散し総選挙のマニフェストに謳ってから消費税増税に取り掛かるのが筋

2012-02-02 12:04:56 | Weblog

 野田首相は「衆院議員の任期中に消費税を引き上げるのではなく、現在の衆院任期終了後だから、公約違反ではない」との理論武装で野党の消費税増税はマニフェスト違反だという批判をかわしてきた。

 対して野党も新たな理論武装を以って別角度からのマニフェスト違反攻撃を試み出したということなのだろう。

 少なくとも昨2月1日(2012年)の衆院予算委員会をテレビ中継で見る限り、自民党の齋藤健議員と田村憲久議員は、「消費税増税は衆院任期4年間後であっても、衆院任期中に消費税増税案を国会に提出、成立させるとは(2009年の)マニフェストには書いていないから、マニフェスト違反だ」と追及していた。

 斎藤健議員と野田首相の質疑応答を見てみる。一字一句正確に取り上げるところと、適当に端折る箇所あり。

 齋藤議員「例のネットで流れている野田選挙応援演説。野田総理は大阪16区の応援演説に行って、こういう発言をされた。ネット上で、ブーメラン演説として大ヒットしている例の演説。これからの議論の前提となる大事な発言なので、正確に引用させてもらう。

 『政権公約マニフェスト、只今ボランティアの皆さんが、只今みなさまにお配りをしております。衆議院では3回目の導入です。でも、分かっていない政党がおります。

 マニフェストはイギリスで始まりました。ルールがあるんです。書いてあることは命懸けで実行する。書いていないことはやらないんです。それがルールなんです。

 それからまた、書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか』とおっしゃり、さらには『書いてあることは4年間何もやらないで、書いてないことを平気でやる。それはマニフェストを語る資格はないというふうに、是非みなさん思っていただきたいと思います』とまでおっしゃりました。

  ――(中略)――

 前回選挙時、野田総理はマニフェストに書いてないことはやらない。それがルールだと国民のみなさんに力強く訴えた。

 ところでみなさんが作ったマニフェストに消費税を上げる法案を提出し、成立させると書いてあるでしょうか。

 野田首相「結論から言うと、消費税に関する言及はございません。マニフェストについての私の街頭演説について触れて頂きました。

 マニフェストは基本的に我々政党が政権を取ったら、こういうことをやりたいんだと、お示しをしていることであるので、基本的にはそれを実現するように全力をつくすことは基本だと思います。

 おっしゃるとおり、いわゆる現実政治でありますので、何か起こったときに、例えば今回リーマンショック後の経済の展開であるとか、あるいは今回の大震災とか含めて、あの、書いてないことでもやらなければいけないってことは間違いなく出てまいります。

 それはまさに危機管理能力であるとか、統治能力が問われる場面であります。それについてはきちっとやっていかなければいけないということ、あるいは状況状況によって、マニフェストには書いてないけれども、例えば地方交付税を増やさなければいけないとか、という政策判断の積み重ねはこれまでもやってきたつもりであります。

 マニフェストに書いたことは基本的には理念に関わる。自分たちの理念に関わることでありますし、魂に関わることなので、全力で最後まで実現を目指しながらも、一方で現実政治への対応をするということが政権の基本だと思っています」(民主党議員席から拍手)

 齋藤議員「我党はマニフェストに書いてないこともやらなければならない。対応能力が問われる。だが、野田総理はマニフェストに書いてないことはやらないと、それがルールだと、そういうふうにおっしゃってるのに、そして信じて投票した人たちがたくさんいるというのは、現実に国民の生活第一を自らおっしゃっている政党であるにも関わらず、消費税を倍にするという法案を成立させるという、国民生活に直結する最大の政治行為であるにも関わらず、マニフェストに書いていない、そして書いていないことはやらないというふうに訴えながら、それをやるということについて、総理はどうお考えになっているのか伺いたいんです」

 野田首相「あの、街頭演説のときに意識したことは、御党のですよ、それを言うとまたギクシャクしたくはないんです。だが、言います。例えば幼稚園教育の無償化するとか書いていたけど、取り組んだのかと、取り組む姿勢もなかったじゃないかということなどを言いたかったんです。

 あんまり時間がなかったから、そういうことは言っておりませんでしたけど。一方で、財政の問題、そして社会保障の持続可能を探っていくということはもはや御党もよくご理解いただいていることだと思います。

 政権を預かりながら、ますます緊要性というものが出ている中で、我々の任期中には上げないけども、いわゆる一里塚になるような法案はつくっておくと、いうところをやるということであって、マニフェスト等、書いてませんが、確かに書いてないから、逆に言うと、任期中はやらないんですが、だけど、その方向性はもう出しておかないと、待ったなしの状況に対応できないという危機感のもとから、今、ご説明をさせていただいたということであります」 

 齋藤議員 「総理の言うことに同感だが、総理はそうおっしゃっていなかった。マニフェストに書いてないことはやらない。それだルールだと。

 と言うことは、あれはウソだったのかと国民は思います。その演説を聞いた人たちに対して、もう一度真意をお聞かせください」

 野田首相「先程の御党のことはもう言いません。我々の考え方の中に於いては、どうしてもこれは待ったなしの状況だと。

 で、それは社会保障持続可能しなければいけないと。そして、その社会保障に充てるおカネなんです。困ったとき、弱ったとき。これはホントーに大事な局面に於いて、そしてこれはあんまりもうダラダラと伸ばせない状況の中で、あの、私の言ったことは色々あります。それについてのご批判は甘んじて受けますが、しかしそのことを含めて、みなさんにご理解を頂きたいと思います」(以上)

 野田首相は「マニフェストは基本的に我々政党が政権を取ったら、こういうことをやりたいんだと、お示しをしていることであるので、基本的にはそれを実現するように全力をつくすことは基本だと思います」と言っていたが、この遣り取りのあと、同じ趣旨のことを繰返している。

 野田首相政権交代をして、私たちが何をやりたいか、その強い思いをお伝えをする手段がマニフェストでございました。そこで抱えている理念であることや魂というのは、それはしっかりと守っていかなければならないと思います。

 その強い思いを表すという言い方でマニフェストの強調をしたわけであります。で、その思いは今も変わりはありません」

 この二つの発言は詭弁以外の何ものでもない。マニフェストは「やりたい」政策を掲げる政策願望集ではない。国民に対して公に約束する公約集である以上、政権として「やるべき」政策、「やらなければならない」政策を掲げる、言って見れば、政策実行集でなければならない。

 公約であることと「何をやりたいか」は決して一貫的な整合性を持ち得ない。

 民主党政権はマニフェストで何々をやると約束したことの多くを実現できないでいることから、野田首相は公約を「やるべき」政策、「やらなければならない」政策から卑劣にも「何をやりたいか」に貶め、後退させて誤魔化しているに過ぎない。

 このような卑劣なゴマカシを働いている以上、マニフェストに掲げた政策は「自分たちの理念に関わることでありますし、魂に関わることなので、全力で最後まで実現を目指しながらも、一方で現実政治への対応をするということが政権の基本だと思っています」、あるいは「実現するように全力をつくすことは基本だ」はマニフェストを掲げた手前の単なる体裁に過ぎない。

 マニフェストが単に「やりたい」政策を掲げる一覧表であるなら、「理念に関わる」だ、「魂に関わる」だは大袈裟に過ぎて、表現に整合性を見い出すことは決してできない。なかなかの「正心誠意」な誤魔化し屋である。

 また、マニフェストに書いてないことをやらなければならない例としてリーマン・ショックと地方交付税を持ち出してんマニフェストに書いてない消費税増税の正当性を巧妙に謀っているが、マニフェストに掲げる政策は政権の存在証明とする柱となる政策、あるいは核となる政策の数々であって、だから、マスコミは政策の目玉だと表現するのであって、ここで言っているような金融危機が突発して追加的な経済政策を打つとか、経済状況に応じて地方交付税を追加するとかの政策行為とは関係ない。

 関係するのはマニフェストに掲げた政策を満足に実行できなければ、政権担当後に生じた追加的政策に於いても満足に実行できないということである。

 なぜなら、如何なる政策遂行に於いても基本的にリーダーシップ(=指導力)や政策実現能力、あるいは官僚の活用を含めた政権運営能力が常にベースとなるからである。前者を可能とするこれらの力が不足していたなら、後者を可能とする力は持ちようがないし、後者を可能とするこれらの力を見い出すことができなければ、前者を可能とする力はとても望みようがない。

 基本的な必要能力は相互に反映し合う必要性が生じる。

 齋藤議員は「マニフェストに消費税を上げる法案を提出し、成立させると書いて」ないから消費税増税はマニフェスト批判だとする主張にあまりにも拘った。

 記事冒頭に挙げた野田首相の「衆院議員の任期中に消費税を引き上げるのではなく、現在の衆院任期終了後だから、公約違反ではない」という発言は1月26日(2012年)の衆院本会議代表質問での谷垣自民党総裁の消費税増税はマニフェスト違反だという追及に対する答弁で飛び出した発言である。

 この発言と、「我々の任期中には上げない」、あるいは「マニフェスト等、書いてませんが、確かに書いてないから、逆に言うと、任期中はやらないんですが」の発言はマニフェストには書いてないことは衆院任期中には行わないという野田マニフェスト論の核心をなす理論であろう。

 さらにマニフェストは「基本的にはそれを実現するように全力をつくすことは基本だと思います」という発言、マニフェストに「抱えている理念であることや魂というのは、それはしっかりと守っていかなければならない」という発言は野田マニフェスト論を補強する理論であるはずである。

 その一方で、任期内の準備は任期外の成立でありさえすれば、マニフェスト違反ではないと言って、齋藤議員の「マニフェストに消費税を上げる法案を提出し、成立させると書いて」ないから消費税増税はマニフェスト違反だとする批判をはねつけている。

 野田首相のこれらの理論と齋藤議員の批判を解消し、両者間にまったく矛盾のない整合性を与える唯一の方法は総選挙マニフェストに消費税増税が謳ってあったなら、マニフェスト違反になることはないし、野田首相のマニフェスト理論に対しても瑕疵一つない正当性を与えることが可能となるはずである。

 具体的には社会保障の持続可能性の確保、そのためのおカネを消費税で賄わなければ、日本の財政の健全化を図ることができない、国家を健全に維持するためには待ったなしの状況だと野田首相が認識した時点で、例え民主党内に反対があっても、解散して、総選挙のマニフェストに、もし政権を担当することになった場合、次の4年間で消費税を10%まで増税しますと謳って民意の審判を受けたなら、マニフェスト違反だと批判されることもないし、「やりたい」政策を掲げるのがマニフェストだと誤魔化す必要も生じない。

 “やるべきこと”として堂々とマニフェストに掲げ、これこそが我が理念だ、我が魂だと不退転の決意で消費税増税に立ち向かうべきではないだろうか。

 2010年9月2日首相就任後直ちに消費税増税をかけて解散し、総選挙で民意を問いますますと言ってマニフェストに掲げて実行し、実際に消費税増税の民意を得たなら、2014年4月に8%、2015年10月に10%の増税に十分に間にあったはずだ。

 このように総選挙のマニフェストに謳ってから消費税増税に取り掛かるのが筋であって、こうしてこそ消費税増税を含めた自らの政治姿勢とマニフェスト双方に正当性と整合性を獲ち得るはずだが、消費税増税という国家の命運を左右する重大政策をマニフェストに謳わないまま、その実現に血眼になるマニフェストの意味と価値を蔑ろにする魂ある正心誠意な行動に右往左往している。


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